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2022.10.19
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第6章 ゼブルズシャドウ 14


 あたしは右足を擦りながら、スマホでの会話を続けていた。
 スグルをエレベーターホールまで見送った際に、今度はソフトキスではなくもっと深いキスを交わせる流れだと判断したあたしはバックハグをしようとしたが、無情にもエレベーターが開いてスグルがそれに乗り込んでしまった。
 エレベーターの中でキスを交わすのも洋画のワンシーンみたいで素敵かもと勇んで、スグルと一緒にエレベーターに乗り込もうとした時、愛犬を散歩に連れて行く中年女性の姿をエレベーターの中に発見して、あたしはスグルに手を振って別れるしか道がなかった。
 そこでそのまま、リビンルームに戻っていれば無事だったのだが、何かしらムカついたあたしは閉まったエレベーターを強く蹴ったのが、その時に右足首を捻挫してしまったのだ。
 「足癖の悪さには自信が有ったのに!最近のシンデレラ暮らしで鈍ったのかな?」
 欲張りは怪我の元をリアルに実演したあたしは、そう独りで呟いた。
 玄関先で警備していたナナシ001が右足を引き摺っているあたしに、大丈夫ですか?と声を掛けそうに成った。
 だが、行きがけにはスキップしてスグルの後を追っていた事を思い出したのか、ナナシ001はゴクリと唾と一緒にその言葉を飲み込んだ。
 「それは良い判断だわ」
 あたしは心の中でそう言うと、ナナシ001にウィンクを送った。
 シンガポールから日本に戻ったら、あたしは急に眼中にない男性には全く抵抗なくウィンクを送れる様に成っていた。 
 この技は、あたしのこれららのエージェント活動できっと役に立つ筈。
 その時、あたしの社用スマホが鳴った。
 このスマホの番号を知っているのは、関係者のごく僅かな者だけだ。
 もしかしたらスグルからかも知れないと思ってあたしは喜々と成ったが、聞こえて来たのは若い女の声だった。

 「葛城CEOの携帯でしょうか?」
 「ええ、そうですが」
 「初めまして!私は葛アドバイザリーアライアンスで事務を仰せつかっております瀬戸山と申します」
 「ああ、あたしの会社の方ね」
 あたしはそう言ってから、「あたしの会社」と所有格を使ってしまった事に自分でも驚いていた。 
 会社の所有権はスグルの資産管理の為に造られた資産運用会社に有るので、あたしは雇われCEOと言う身分なのだ。
 「日本ではCEOは一般的に社長と呼びますので、私も社長とお呼びします」
 「それは別に構わないけど」
 「有難うございます。ところで本日、私が社長にご連絡しましたのは2点ございまして、1点目は社長が当社にお見えに成られるのは何時のご予定かの確認でございます。皆、気に成っておりますので」
 「そうね、あたしも丁度、会社に顔を出そうと思っていたところよ。そうね、早い方が良いわね。明日の11時過ぎに出向くわ。瀬戸山さんでしたね?」
 「はい、そうです」
 「来れる人だけで良いので、明日、ランチを予約して置いてくれるかしら?お店と料理は瀬戸山さんにお任せしますわ」
 「わぁ、皆、喜ぶと思います。社長、最近まで海外にご出張されていらっしゃったんですよね?それじゃ、落ち着いた和食のお店でも構いませんか?」
 テーブルマナーに疎く、ナイフとフォークを器用に扱えないあたしは、和食と聞いて内心ホッとしていた。
 「ええ、和食なら有難いわね。じゃ、悪いけど予約の方は宜しくお願いね!」
 「かしこまりました!」
 「それで、2点目と言うのは?」
 「はい、先ほど、国際AIアカデミー研究所の桐谷さんと言う方からお電話が有りまして、折り返し連絡が欲しいとの事で連絡先を伺っておりますが、如何致しましょうか?」
 「ああ、その人ならドバイで知り合った方だから大丈夫だわ。連絡先を教えて頂戴」
 「わぁ、社長はドバイにいらっしゃったんですか?わぁ、良いなぁ~」
 瀬戸山と言う事務員は、わぁ、わぁ、と何度も繰り返す、前の会社にもいた脳味噌が薄っぺらい今時の女かも知れないとあたしは思った。

 「桐谷ですが・・・」
 「もう既にお久し振りって言っても可笑しくないですね。葛城です。その節はお世話に成りました」
 「あっ、葛城さんでしたか?早速、お電話を戴けるなんて感激だなぁ」
 「桐谷さんは今、日本ですか?」
 「ええ、一週間前に帰国しました。御社の事務員さんは社長は出張中だと言われていましたが、葛城さんは今、どちらですか?」


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    Last updated  2022.10.20 22:24:52
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