横綱照ノ富士の引退表明(1月17日)には、正直なところほっとした。
たった一人の横綱が土俵を去るのは寂しい。しかしそれ以上に、初日から相撲を見ながら、もうこれ以上頑張らなくてもいいのではないか、と思っていた。
けが、故障が続いて大関から序二段まで陥落。そこから、もう一度目の前の高い壁をよじ登り続け、ついに相撲界の頂点にまで駆け上がった。血がにじむような努力で、どんな力士も経験したことのない偉業を成し遂げた。
しかし横綱になったその時から、すでに両ひざには分厚いテーピング。糖尿病なども抱えて、激しい格闘技を挑める状態ではなかった。が、その体で照ノ富士は3年半も横綱を張り続けた。後半は、次の横綱の誕生を待ち続けた。
引退会見で照ノ富士は、もう少しやりたかったのではという質問に「その気持ちはない。逆にやり過ぎたかなと思う」と笑顔で語ったが、実感だっただろう。
あわよくば次の横綱誕生とバトンタッチというシーンも想定していたかもしれない。だが、照ノ富士の体にその余裕が残っていなかった。
今は「お疲れさま」「今はとにかく体をいたわって」の言葉しかない。
今場所、新横綱の期待もされた大関琴櫻は、今回の引退会見をどんな気持ちで聞いただろうか。
うまく引き継げなかったことに、悔やんでも悔やみきれない心境かもしれない。
その悔しさをバネにできるかどうか。来場所からの琴櫻次第だ。大関豊昇龍はじめ、たくましく成長する若手力士らと切磋琢磨して、彼のドラマをつくっていけばいい。
照ノ富士もそれを期待しているはずだ。