フランチャイズ裁判例

フランチャイザーによる故意の情報提供義務違反と過失相殺【fc-cases #8】

はじめに

(この記事は2021年5月2日に作成されたものです。)

加盟希望者がフランチャイズ事業について「知識も経験もなく,情報も有していない」ような場合、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)は、加盟者募集の段階でも、加盟希望者に対し、信義則上の情報提供義務を負うことがあります。

そして、本部が信義則上の情報提供義務に違反した場合、加盟希望者は、本部に対し、被った損害の賠償を請求することができます。

他方で、加盟希望者は、独立した事業者であることから、本来的には、フランチャイズ契約を締結するために必要な情報は自ら収集しなければなりません。そこで、加盟希望者は、フランチャイズ契約を締結し、加盟店を経営した結果について、自ら責任を負わなければなりません。

そこで、裁判例においては、本部が信義則上の情報提供義務に違反し、加盟希望者の本部に対する損害賠償請求権を認めても、加盟者にも過失があったとして、一定の割合で、損害を減額される(過失相殺)ことがあります。

それでは、本部が、故意に信義則上の情報提供義務に違反した場合にまで、過失相殺は認められるのでしょうか。

この点につき参考となる令和の裁判例を紹介します。なお、裁判例の紹介に際しては、本部による故意の情報提供義務違反と過失相殺に関する内容のみを抽出しており、この点と関連しない記載には言及していません。

東京高判令和元年9月4日2019WLJPCA09046003

原審は「東京地判平成31年3月14日2019WLJPCA03146009」です。

なお、この裁判例は、フランチャイズセミナーの共同主催者による情報提供義務違反も争点となったもので、この争点については、以下の記事で説明しています。

事案の概要

本部は、「自転車の買取り,販売,修理,レンタル等を目的とする会社」で、ビジネスセミナー(以下「本件セミナー」といいます。)を開催し、本件セミナーにおいて、説明用資料に基づいて放置自転車回収事業の内容を説明しました。

加盟希望者は、本件セミナーに参加し、その後、本部に対して加盟金を支払い、本部との間で、本部から放置自転車回収事業のノウハウの提供を受けること等を内容とするフランチャイズ契約を締結しました。

本部は、本件セミナーにおいて、説明用資料を用いながら、

  1. 「本件事業は他の業者が目をつけていないので競争のない未開拓の市場であること」
  2. 加盟者「みんなうまくいっていること,年収700万円は稼ぐことができ,それ以上の収入増も可能であることを説明し,原告との面談においてもパートナーはみんなうまくいっていると説明」

などしました。

しかし、実際には、

  1. 本件事業は「既に大手も含めて多数の業者が参入しており,ライバル業者のいない市場状態ではなく」
  2. 加盟者の売上は、本部と共同主催者の説明に反して極めて低く、大半の加盟者は毎月の本件システムの利用料などの経費を除くと赤字であること

など、本部による説明は、「本件事業の客観的状況とは異なるもの」でした。

本部の主張

(「原告」は加盟希望者を、「本件パートナー契約」はフランチャイズ契約を意味します。)

 「原告は,自らの責任で,リスクも十分認識した上で,本件パートナー契約を締結していること,原告は自ら経営改善も損害回避措置も講じていないことなどから,原告には過失があり,過失相殺されるべきである。」

加盟希望者の主張

(「被告Y1」は本部を、「被告Y2」はセミナーの共同主催者を意味します。)

「本件は,被告らが加盟金取得だけを目的として契約を締結させたという詐欺事件であり,過失相殺になじまない。また,原告は,被告Y1や被告Y2から本件事業について説明を受けて,その情報をもとに慎重に検討した上で本件パートナー契約を締結したものであり,原告には過失はない。」

裁判所の判断

 「被告らは,原告が自らの責任でリスクも十分認識した上で,本件パートナー契約を締結していること,原告は自ら経営改善も損害回避措置も講じていないことなどから,原告には過失がある旨主張する。」

「しかし,過失相殺は被害者の過失を考慮する制度であるところ,前記4のとおり,本件は被告Y1及び被告Y2による故意の不法行為であって,このような場合に被害者である原告の損害額を減額することは,被告らに対し故意に違法な手段で取得した利得を許容する結果になって相当ではない。

「したがって,本件において過失相殺を認めることは相当ではなく,被告らの主張は採用できない。」

コメント

前提として、情報提供義務違反に基づく損害賠償請求は、(フランチャイズ契約の債務不履行に基づく損害賠償請求ではなく)不法行為に基づく損害賠償請求であると解されています(最判平成23年4月22日民集65巻3号1405頁)。

そして、不法行為に基づく損害賠償請求における過失相殺について、民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定しています。

加害者に故意がないことは過失相殺の要件として明示されていませんし、「裁判所は、(中略)できる。」と規定されていますので、個々のケースにより過失相殺が認められるか否かは、最終的には裁判所の裁量で判断されます。

もっとも、ご紹介した裁判例において、「本件は被告Y1及び被告Y2による故意の不法行為であって,このような場合に被害者である原告の損害額を減額することは,被告らに対し故意に違法な手段で取得した利得を許容する結果になって相当ではない。」と判示されているとおり、故意の不法行為の場合に過失相殺が認められることはほとんどないと考えます。

おわりに

以上、本部による故意の情報提供義務違反と過失相殺について説明しました。