序章


潮騒遙か虹の彼方に 2


















軍人も一種の官僚であるので

前線に配属された者はともかく

中央で作戦立案をする様な者は

規則正しい毎日を送るものだ


午前八時半の勤務開始から

昼食などを経て

午後五時十五分の勤務終了まで

彼らは文字通り作戦立案を始めとした

軍中枢の指南役としての仕事をこなす


目下の所

我が国は戦時下ではないのだが

いつの時代も仮想敵は必ずおり

その仮想敵との交戦を

シミュレーションしている


いわば国防の頭脳的要素の

最高レベルの集団であるのが

作戦立案課である


そこに

見た目からして相応しいとは

お世辞にも言えない若者がいる


頭髪は微妙に長く

寝ぐせをつけてる時もたまにある

その時点で

既に軍人らしくはないのだが


服装もシワシワの制服で

洗濯も月に一度有るか無いかの

潔癖症の人間とは

決して友人にはなれぬであろうズボラさを

隠そうともしない


人には秘密だが

顔も洗わず

歯も磨かないで

統合作戦本部に出仕する事は

一度や二度ではない


基本的に怠け者で

下手すれば

飯を食うのも面倒くさいと思うほどである


士官学校の成績も落第寸前で

卒業試験も

なんとか面倒くささに打ち勝って

一夜漬けで覚えた重点項目が

たまたま試験に出てクリアした

そんな低レベルであるので


卒業し正式な軍人になった時点で

ハナから出世など諦めていた


だが

配属された先は

帝国陸海軍の最高レベルの配属先

統合作戦本部作戦立案課であったのだ


「いやいやいや

帝国は来るべき戦争に

勝つ気ないやろ?おい!」


そんな屈辱的発言を自らにする

作戦立案課参謀の

愛織田源太郎


まだ二十二歳にもならぬこの若者の独り言は

偶然にも

彼の妹や弟も後に全く同じ発言をする



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