序章


芝生の露の色 3












               (画像、お借りしました)











「よしよし、まだまだ我慢よ

よしよし、よしよし。」


朝の調教は騎手はもちろんだが

調教助手という職種に従事する者も馬に乗る


むしろ調教助手の方が

調教に関しては

騎手よりも馬に乗る事が多いだろう


だがこの日のこの馬には

調教師の指示により

これまで乗ってきた騎手


愛織田涼子が調教をつけていた


指示された通りに

決められたスピードでコースを走る

速すぎても遅すぎてもダメなのだ


全力で走るのは

最後の200メートルだけの指示であり

それまでは併走している僚馬と

同じ速度で走る様に指示を受けている


これまでのこの馬は

鞍上の指示をほとんど受け付けずに

勝手に速度を上げるわ

逆にゴーサインを出しても

全く走る気を無くしたりと

なかなかのやんちゃぶりだったが


今日は涼子の指示を素直に受け

涼子が満を持して

鞭を入れゴーサインを出すと


「うそ!え?何?凄い!」


とそれまで涼子が感じた事のない風が

カラダ中を駆け回った


まだデビューして2年ほどであるが

初めての体感だった


「この子、なんか変わった?」


調教助手や

馬の世話をする厩務員に話を聞くが


普段と変わりはないよ


との言葉しか返ってこない


だが

涼子は騎手になって初めて感じたのだ


「この子ならダービー行ける。いや、勝てる!」


まだ重賞さえ勝った事がないのに

直感でそう思った涼子は


この感動と決意を

第二の父とも呼ぶ所属調教師の

中久保房松に告げようと

厩舎に帰ってきたのだった



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