序章

 

潮騒遥か虹の彼方に  3

 

 

 









 

近年我が帝国は

急速に軍事力を増強する北方の大国

スラブラシア帝国の脅威に

どう対処するかが国家の緊急課題として

議論が止まない日々だ


前世紀からの侵略行為を

隠そうともしないこの北方の大帝国は

世界一と言われている陸軍国で

我が帝国の

二十倍以上の常備兵力を保持している


その脅威に

遙か紀元前から文明発祥している

我が帝国の周辺国のひとつ

華帝国さえ今や老いた像の如く

何も出来ない、しない状態を常としていた


眠れる獅子として華帝国は

ユーロシアン大陸の列強諸国からは

一定の恐れと

侮蔑の入り混じる印象を与えていたが

昨今はそのメッキが剥がれつつあり

幾つかの港や土地を割譲されている


その華帝国に

歴史的に朝貢してきた実質的な属国の

鮮輝帝国の悲惨さは語るに及ばない


朝貢する代わりに独立を保障してくれていた

華帝国の落日ぶりに驚くばかりで

自らの方向性さえ

決められない体たらくぶりであった


そんな弱小帝国と隣接している大帝国の

スラブラシア帝国が

いつまでもそのままでいるはずがない


侵略行為の手始めとして鮮輝帝国に

鉄道の敷設権を要求し強引に認めさせた


この辺りから

我が帝国の仮想敵として明確に

スラブラシア帝国が認知された


以後

数えられないほどの作戦立案が作られ

数えられないほどの会議が

この作戦立案課で行われた


そして今回も

その数えられない回数に

また一つ加えられる会議が

開かれようとしており


その会議室に一番遅く入室したのが

愛織田源太郎中尉であった


「こりゃ、やべ~かな...」

顔には出さずに入室したが

内心はかなり憂鬱だった




           (画像お借りしました)



実は今回の会議は

いつもの会議より

出席者の格が高い者が数多く出席しており

軍ナンバー2の統合作戦本部長代理の

山野縣有朋中将もいた


山野縣は規律を重んじる軍人で

源太郎が最も苦手とする上官である


会議は冒頭から波乱含みの様相を呈していた



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