『カーズ』オーウェン・ウィルソンが生み出したマックイーンの魅力
日本でも子供から大人まで人気があるアニメ、『カーズ』シリーズ。オリジナル版ではオーウェン・ウィルソンが主役のマックイーンの声を当てました。
この記事では、
・オーウェンがマックイーンに抜擢された経緯
・マックイーンに反映されたオーウェンらしさ
について、お話ししましょう。
🚦オーウェン・ウィルソンがマックイーンを演じた経緯🚦
Photo by ©︎Ken Charnock/Getty Images
『カーズ』はオーウェンが初めて声優を務めた作品です。まろやかでディクションのハッキリした彼の声は声優にもぴったり。
インタビューで、声優活動について尋ねられたオーウェンは肯定的な返事をしています。
オーウェン:とてもおもしろいよ。自分のイメージだけで自由に遊べて、小さな子供にかえった気分になれる。(中略)ごちゃごちゃ問題が起こることなく、頭の中で演じる場面を思い浮かべることができるんだ。
『カーズ』を機にオーウェンは声優の活動もいくつか取り入れるようになり、現時点で『カーズ』シリーズ以外に、3作品に出演しています。
・『ファンタスティック・Mr.フォックス』(2009)− カワウソの体育教師スキップ
・『サーフィン・ドッグ』(2011) − マーマデューク
・『自由の鳥』(2013、日本未公開) − レジー
『自由の鳥』はなぜか日本では公開されていませんが、七面鳥が生きる権利を主張する物語です。
監督ジョン・ラセターから直接オファーされる
オーウェンが『カーズ』に出演したのは、アカデミー賞パーティーの時、ピクサーのアニメーター監督ジョン・ラセターから話しかけられたのがきっかけ。
オーウェンはラセターを知らなかったのですが、ラセターと彼の息子は『シャンハイ・ヌーン』を観て、すでにオーウェンの大ファン。
この時ラセターは車の映画を構想中であることを話して、さりげなくオーウェンの気を引こうとしました。
オーウェン:でも僕は、あの会話がオファーとは気づかなかったんだ。
後日、今度はピクサー社がオーウェンに連絡し、『カーズ』への出演を正式に依頼。アニメーションに出演したことのなかったオーウェンは興味を覚え、喜んでオファーを受けました。
「カチャウ」はオーウェン・ウィルソンのアドリブ
Photo by ©︎Pixar/Disney
マックイーンの決めセリフ「カチャウ!」。実はこれはオーウェンのアドリブです。
監督:私がオーウェンに、「子どもは想像力豊かで、いろいろな擬音を思いつくよね。稲妻の音って、きみはどんな感じだと思う?」と聞いたんだ。すると、オーウェンはちょっと考えてから「カチャウ! カッチャウ!カチャーウ!」。
あんまりおかしくて、私たちは大笑いだった。あわやせっかくのテイクをダメにしそうなほど笑い転げたんだ。
やっぱり天才は違いますね!「カチャウ!」なんて、どうしたら思い浮かぶんでしょう? マックイーンのイメージにピッタリです。
🚦『カーズ』のマックイーンに見るオーウェンらしさ🚦
Photo by ©︎Piyal Hosain
『カーズ』シリーズ最初の作品は、オーウェン好みの「真の自分が花開くまでのストーリー」。
ピクサーは先に音声を収録し、あとでそれに合う画をつけるので、オーウェンのような即興を得意とする俳優にはぴったりでした。
ラセター監督:オーウェンはアドリブでこの役を実に見事に自分のものにした。
監督の言うとおり、マックイーンのセリフ・仕草にはオーウェン自身の特徴がよく出ています。
1.「スピード、スピード」と繰り返す
Photo by ©︎Pixar/Disney
冒頭のセリフ。レース開始前、マックイーンはこう念じて気分を高めていきます。
マックイーン:スピード、スピード、僕はスピード。勝つのは朝メシ前。朝メシ?食べてくればよかったかも。いけない、集中しないと。スピード、スピード・・・。
この最初のシーンだけで、オーウェンらしさが2つも出てきます。
1つめは「単語の繰り返し」。オーウェンは時々ひとつの単語を何度もループすることがあります。『サーフィン・ドッグ』でマーマデュークの声を担当した時も「ワッフル」を連発し、愛らしさを表現していました。
・『サーフィン・ドッグ』
2つめは「間に挟まれるギャグ」。マックイーンのセリフで言えば、「朝メシ?食べてくれば、もっとパワーが湧いたかも」のところですね。
オーウェンはこうした連想的なギャグで、観客を自然な笑いに引き込むのが得意です。
2.マックイーンのキャラクターに感じる影
Photo by ©︎Pixar/Disney
自分の弱みを見せず、性格が悪いふりをする。オーウェンの負の一面です。
オーウェンはしばしば自己防衛のために、わざと自分らしくない振る舞いをしますが、これはマックイーンにもしっかりと刻印されています。
登場した時のマックイーンはハデで、勝つことにばかり関心を向け、誰にも気を許した態度を見せません。
でも実は、身勝手な態度はマックイーンの仮面。ラジエータースプリングスで花開いた明るさ・優しさこそが本当の姿です。
Photo by ©︎Laula Wilson
オーウェンは小さい時に、継母から過酷ないじめを受けています。
これがトラウマになって、オーウェンは親しくない相手には「能天気なフリ」をしてしまう癖があるんですよね…。
『めざせ!チャンピオン』というアニメの補足的なストーリーが描かれた本によれば、マックイーンの自己防衛は親友から裏切られた過去が原因になっているようです。
3.考え事をして周囲が見えなくなる
ラジエーター・スプリングスから戻って決戦のレースを走りながら、マックイーンはサリー(声:ボニー・ハント)とドライブした時のことを思い出し、あわや壁に衝突しそうになります。
自分の思いに浸ると周囲を疎かにしてしまうのもオーウェンに似ています。
カーレーサーとしては危なっかしい気もしますが…。
4.勝利を放棄してキングを救う
Photo by ©︎Pixar/Disney
意地汚いチック(声:マイケル・キートン)はベテランレーサーのキング(声:リチャード・ペティ)にわざとぶつかり、クラッシュさせます。
マックイーンはチックを遥かに抜いてゴール寸前でしたが、スクリーンでキングの負傷を知りストップ。勝ち誇ったチックが優勝を喜ぶのを横目に、キングのそばに駆け寄ります。
キング:何をしてるんだね、ぼうや?
マックイーン:キングは最後まで走らなきゃ。(キングを後ろから押す。)
キング:おまえ、優勝カップを逃したじゃないか。
マックイーン:気難しい老レーサーいわく、ただの空っぽのカップに過ぎないよ。
「これぞオーウェン!」と言いたくなる名シーンです。映画もアニメも数あれど、こうした展開はなかなかお目にかかれません。
ハッとする偉大な行いをしながら、口にするセリフがさりげないのもオーウェンらしいところ。
ちなみに、オーウェンは『ズーランダー』でも「賞なんてくだらない」というアドリブをしていました。
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オーウェンは負けん気が強い性格ですが、賞を譲るのは平気なタイプ。彼は自分の存在価値を認めてほしいのであって、賞で飾り立てることには興味がないのです。
『カーズ』のラストには、オーウェンの優しく気高い精神が発揮されていて、最高!
🚦オーウェン・ウィルソンはどんな運転をする?🚦
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オーウェンは「安全運転」のタイプ。インタビューで、「あなたはどんな運転をなさいますか?」と聞かれたオーウェンはこう答えています。
オーウェン:僕は慎重なドライバーだよ。スピード違反なんかしたことないし、乱暴な運転もしたことない。(中略)僕はね、歩行者に優しいドライバーなんだよ。
ちょっと脱線しますが、『トラブル・マリッジ』でオーウェンと共演したマット・ディロンが「俺の運転はハチャメチャなんでね」と話していたのを思い出しました。
あの映画では配役もあべこべだったけど、運転の仕方もまるで反対なんですね。
オーウェンはカーレースについては、「観るのは楽しいよ」と答えています。
ここでは『カーズ』1作目に絞って、オーウェンらしさをお話ししました。
『カーズ2』や『カーズ/クロスロード』についても順次まとめていくつもりです。
・『カーズ』シリーズ解説一覧