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2023.12.10
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第13章 真なる戦役 6


 ベーリックは自室で、フライズ軍から土産に貰った上位四次元のローザンシルト星で醸造されて三次元の物質に転換されたビリバリー酒を片手にお気に入りの葉巻を燻らせていた。
 「元帥総司令、ライプニッツです」
 「おお、参謀総長か?入り給え」
 「失礼します」
 ライプニッツと彼の部下2名が、大きな箱を抱えて総司令室に入って来た。
 「ライプニッツ君、それは何だね?」
 「ハッ、これらの品はフライズのレーマンド元大元帥からベーリック総司令への贈り物です」
 「レーマンドから?」
 「レグルス王朝に伝わる王冠と、レグルス王朝最後の皇帝、ゼットラリオス十八世が愛用していたマントと長靴だそうです」
 「何?レグルス王朝だと?」
 「ええ、元帥閣下がご存じの通り、かつて、獅子座の宙域を支配していたあのレグルス王朝です」
 「レグルス家は太古の時代からアルクトゥルスの民と親交が深くて、彼らが持つ卓越した知識を授かって、銀河史に類を見ない強大な帝国を築き上げたのだったな?」
 「そうです。彼らの宮殿が有った星の恒星が、今でも王朝の名を取ってレグルス星と呼ばれていますし、分家のデネボラ家も同じように別の恒星にその名が残されています」
 ライプニッツの部下達は、ベーリックの執務机の脇に箱を置くとそそくさと退室した。
 「だが、レグルス王朝の遺品は全てゲール財団が買い取って、市場には出回っていない筈だが?」
 「総司令、ゲール財団は財団と言っても実態は商団です。彼らは昔から白鳥座の財宝や遺物を取り扱っているのですが、レグルス王朝滅亡の時だけは獅子座に関心を寄せました。一説ではゲール財団がレグルス王朝を打倒した民主化勢力に莫大な資金を提供していたそうです。確かにゲール財団は、レグルス王朝歴史博物館を建設すると言う名目で、レグルス王朝の遺品を全て民主化勢力から買い取りましたから、恐らくその説は真実かと?」
 「う~む。財宝や歴史的な価値が低い遺物の売買なら大銀河憲章に抵触しないと思うが、レグルス王朝の遺品だったら間違いなくアウトだ!下手したら最悪、首謀者はセントラルサン送りだな」
 「それが、これまで市場にレグルス王朝の遺品が出回らなかった最大の理由だと思われます」
 ベーリックは、自らの手で2つの箱を開けて見た。
 「おお、何という荘厳な王冠とマントと長靴だ!何故、こんな貴重な物をレーマンドが手にする事が出来たのだろう?」
 「閣下、ここからは私の推測ですが、ゲール財団の本拠地は北白鳥座の宙域で、彼らのオークションは主にデルバッハと呼ばれる星で行われています。そして北白鳥座はフライズの三次元艦隊が仕切っている宙域です」
 「そうだな。北白鳥座の宙域は、我々も迂闊には立ち入れないものな」
 ベーリックは、ライプニッツとの話の遣り取りよりも、一刻も早くこの王冠を頭に被りたくてソワソワしていた。
 「ですから、ゲール財団は密かに違法な売買をしていて、それに眼を瞑って貰う為にレーマンド大元帥に賄賂として贈った物ではないでしょうか?レーマンド元大元帥は今も実力者のひとりですが、彼が現役の大元帥だった頃は、フライズ軍では絶対的な存在でしたから」
 「確かに君が言う通りかも知れないが、これは恐らくレプリカだとわしは思う。若しも本物をわしが持っていたら大銀河憲章に違反している疑いを持たれてしまうから、そんな危険な物をレーマンドがわしに贈る筈がない。何、わしはレプリカで全く構わないのだよ!王様の気分さえ味わえればそれで満足なのだから」
 ベーリックはライプニッツにそう言った後、我慢が出来ずにレグルス王朝の王冠を自分の頭に被ってしまった。

 「ライプニッツ君、どうじゃ、似合うかね?」
 「ええ、お似合いです。ですが閣下のお言葉を返す様ですが、この王冠とマントには、一緒にバルデンヒャンテス研究所の鑑定書とレーマンド大元帥が贈呈したと言う証明書まで同梱されていまして、ご丁寧に王冠には大元帥がベーリック総司令に贈呈したと言う文字が刻まれています。また、マントにも同様に絶対に消せないインビラン刺繍でその文字が織り込まれています。これらの事から恐らくこれは本物かと?」
 それまでうきうきと楽しそうにしていたベーリックの顔付きが、ライプニッツの言葉で一気に引き攣った。
 「た、確かにこの王冠には文字が刻印されているな。何々?デミアン歴7万8238年、祝杯の月の凪の日、敬愛するベーリック・ギャバター氏にこれを贈呈する。ジークラントフォン・レーマンドより!と刻まれているな。デミアン歴と言うのはフライズが使っている暦だよな?」
 「私もデミアン歴は詳しく有りませんが、恐らく停戦協定が締結された後の日付でしょう」
 「うむ。こんな貴重な物をわしに贈るとは!まあ、その気持ちは分からなくはない。フライズ軍は戦闘艇の数では勝っていても、主力は三次元で戦闘経験が無い高次元艦隊だ。レーマンドなら負け戦は分かっていただろうし、矢面に立たされる三次元艦隊は全滅まで覚悟していた筈だ。それが全員無事で停戦を迎えられたのだからこれは感謝の印だろう。有り難く戴いて置く事にしよう!」
 ベーリックは、その王冠が歴代のレグルス王朝皇帝が被っていた物だと知って、うやうやしく王冠を箱に戻した。
 「閣下もご存じかも知れませんが、レギナント歴5万2千年より前の骨董品は、それ以降の物よりもとんでもなく高値で取引されます」
 「ほう?そうなのか?」
 「ええ、プレアデスで基礎研究が行われてシリウスの技術者が完成させた、物質を分子レベルに分解して目的の物体の組成を再構築する、所謂、レプリカント技術はレギゾンテス歴5万2千年から普及し始めました。その後、銀河系のあちこちでレプリカント技術を使って歴史的な名品のレプリカが作られ始めて、骨董品の値打ちは事実上無くなりました」
 「ああ、その話はわしも聞いた事が有るな」
 「ですが今から約1万年3千年前に、一度、物資化されたしまった分子の経年測定技術が考案されて、それ以降は骨董品市場が復活したのです。ですが、市場が取り扱うのはレプリカント技術が未だ無かった頃の、詰まり、レギゾンテス歴5万2千年よりも前の骨董品が主です。その理由は、それ以降の骨董品はレプリカが多いからです」
 「レプリカだと分かっていても、その物に愛着が有れば欲しく成る気持ちも分かるな。しかもレプリカは安いのだろう?」
 「ええ、分子経年測定の結果、レプリカと判明した物はバッタモンテ級と呼ばれていて、古物商は取り扱いません」
 「バッタモンテ?」
 「確か、地球の言葉でコピー商品を表す言葉だとか?」
 「地球の言葉なのか?だが、そう言う事なら、それ以外は全部、本物だと言う訳だな?」
 「いいえ、本物と同じ時代に造られたレプリカは、分子経年測定技術では本物かどうかの判別が付きませんので、これらはアンノウン級と呼ばれていて、それ成りに安価ですが古物商でも取り扱っています」
 「本物かも知れないと言う可能性を、ロマンとして買い求めると言う訳か?」
 「何れにしても、ベーリック元帥総司令!レグルス王朝が滅びたのはレギゾンテス歴で5万5百年でレプリカント技術が発明される前です。そして、バルンデンヒャンテス研究所の鑑定書付きで高名なレーマンド大元帥の著名入りと成れば、若しこれらを闇市場で売り払わられたら、多分、曾孫の代までお金には困らないでしょう」

 ライプニッツのその言葉を聞いて、心臓の鼓動が著しく早く成った気がしてビリバリー酒をグラスに注ぎ足すと、ベーリックはガバッとそれを一気呑みした。
 「き、君も喋り疲れただろう?どうかね、一杯?これは四次元のビリバリー酒だよ」
 「ハッ、大富豪に成られたベーリック元帥総司令閣下のお言葉に甘えます」
 それまで起立していたライプニッツは、ベーリックと机越しに置かれていた椅子に座ると、注がれたビリバリー酒を旨そうに口に含んだ。
 「まあ、わしはライツの由緒正しき軍人だから大銀河憲章に違反する訳には行かないが、少なく共、この品は我が家の家宝には成るな。それは嬉しい反面、わしはレーマンドにお返しが出来る様な物を持っていないので途方に暮れる羽目に成ってしまった気もするが・・・そうだ!ライプニッツ君、君は博識の上に頭が切れるからその若さで少将、しかも総司令部の参謀総長にまで成ったのだったな。それならこの件についても何か名案が無いだろうか?」 
 ベーリックはそう言いながら、一度、座り直した椅子から再び立ち上がると、未だ三分の一も呑み切っていないライプニッツのグラスにビリバリー酒を注ぎ足した。
 「名案かどうかは分かりませんが、フライズの軍人達は我々ライツの軍人の様に清貧に甘んじてはいません。元々、ダークサイドの流れを汲みむだけの事は有って、職務上の地位や特権を利用して私腹を肥やすのはむしろ才覚だと、逆に人々から尊敬を受けるらしいのです」
 「それは本当か?」
 「レーマンド元大元帥ほどの人物だったら資産はきっと莫大でしょうから、私達が高価だと思う品を贈っても何処かの倉庫行きで日の目を見る事は決して無いでしょう」
 「ふむふむ。じゃあ、どうすれば?」
 「ですから、ここはこちらも職権を使って、彼が喜ぶであろう無形の物を贈るのです」
 「職権を使った無形の物とは?」
 ライプニッツは、ここぞとばかりビリバリー酒を呑み干すと二杯目を所望した。
 「総司令は、銀河連合本部から卿爵までの軍の爵位を与える権限を与えられていますよね」
 「ああ、その通りだが?」
 「レーマンド元元帥に卿爵までの軍の爵位で、最高位の関伯卿爵位を贈るのです」
 「関伯卿爵位を?」
 「確かに今回の停戦は、フライズのホルスタール総司令聖大主教様のご決断が有っての事ですが、三次元レベルではレーマンド元大元帥の功績も大きかったと言う事にするのです。若しもユウカ様のパワーが不発で、彼らと全面戦争にでも成っていれば負けはしなかったでしょうが、ペテルギウス守備艦隊は全滅して我々本隊の被害も甚大だった事でしょう。増してや今はユウカ様がご不在の中、ネオルシフとニビリアンズ同盟軍との戦闘が現実味を帯びていますので、この停戦は歴史的な意義が大きい筈です。そう言う理由で敵側では有りますが、レーマンド元大元帥に関伯卿爵位を贈られても大した問題には成らないでしょう」
 「う~ん、君から言われてみれば、そんな気もして来るな」
 「フライズで、ライツの爵位を持っている人物なんてこれまで誰も居ません。ですから、レーマンド元大元帥は初めて爵位を贈られる程、ライツ側からも飛び抜けた尊敬を受けている人物と言う事に成って、元大元帥もきっと喜ばれると思います」
 「うん、矢張りそれは名案だ!そうしよう!第一、わしの身銭を切らなくて済む事が素晴らしい!それに関伯卿爵は純白の軍服に深緑のマントと長靴だがら、何となく今回の返礼品っぽく成るしな。流石は参謀総長!ライプニッツ君、君の中将昇進はわしに任せて呉れ給え」
 「有り難き幸せに存じます」
 ライプニッツが深々とベーリックに頭を下げた時、参謀次長のラッシール准将がノックもせずに総司令室に入って来た。
 「総司令、大変です!ネオルシフとニビリアンズの同盟軍が、エネルギーの消費量を無視して連続ワープで地球の宙域に急接近中です!」
 「何だと!」



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    Last updated  2023.12.18 19:18:54
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