鎌倉時代、公家の立場にも関わらず幕府の重役を担った男、三善康信。
自らの出身とは異なる武家社会の鎌倉幕府内において、源頼朝の信頼を得て問注所の最高責任者である執事となった人物です。
学問に優れ、渡来人の帰化だともされている彼ですが、そんな異色の経歴を持った三善康信の出身や成し遂げた役割について説明します。



京の貴族出身?三善康信はどんな人物か

三善康信の出身は、平安末期の下級貴族にあります。
もともと学問、特に算術に長けている家系の出身で、その拠点は京都に置いていました。
源頼朝との仲は、康信の母が頼朝の乳母の妹という部分で関係もしていました。
それによって、頼朝が伊豆に流刑になった際、月に3度は京の状況を頼朝に知らせたと言われています。この献身さが、後の鎌倉幕府を起こす際の重役抜擢に買われた要素の1つとなっていたのですね。
頼朝が亡くなった後は十三人の合議制のメンバーの1人となり、その人生を鎌倉幕府の発展にささげました。

※参照:源頼朝の生い立ちや平治の乱における動向について。伊豆では何してたの?

そもそも三善家とは?算術の家系?三善清行との関係は?

さて、三善康信を語る上で欠かせない要素、それが彼のルーツと家柄です。
三善氏の由来は、大陸からやってきた渡来人でした。同じ氏でも漢系と百済系があり、康信の先祖は百済系。どちらにせよ帰化系氏族です。
古代から学問に長けた家系で、中でも三善氏の中で特に有名なのが平安中期に活躍した三善清行です。
彼は特に算術に優れていたとされており、三善氏の地位を朝臣(あそん:平安時代における姓の最高位)にまで押し上げました。
ちなみに、三善清行と三善康信の血縁関係はないと考えられています。
なぜなら清行の子孫で子に恵まれない代があり、そこで迎えた養子の子孫が康信であるからです。
しかし、学問に優れた三善氏の家系ということに変わりはなく、その教養や知識が先述の信頼に加わり、後の鎌倉幕府の問注所執事として生かされることになるのです。

問注所とは?執事として何を行った?

それでは、三善康信は問注所の執事としてどのようなことをしたのでしょうか。
まず問注所という機関に関してですが、今でいう裁判所のような役割を果たしており、訴訟問題を処理する場所でした。執事というのはその最高責任者のことを言います。
本来、鎌倉幕府は武家の社会とされており、戦に強い頼朝であってもこと政治関連においてはどのようにすればいいのか経験が足りません。
朝廷の文化・風習における知識を持つ者がいないと、幕府は成り立たなかったわけです。
三善康信は朝廷の知識はもちろん学問にも長けていたということもあり、その長官あるいはブレーンとして、頼朝の側近を務めました。
しかし実質のところ、裁判は行わず頼朝に訴訟事案を進達する補佐的な役割が実態だったといいます。
とはいえ、この問注所という機関がないと武士たちの統一を図れなかったことは事実で、鎌倉幕府の基礎を固めました。

三善康信の子孫は日本中に存在!?

最後に、三善康信の子孫についても調べてみました。

康信には三善康俊、行倫、康連という3人の息子がいたと伝わっています。このうち長男の康俊は父親が努めていた問註所執事を継承。康俊の子(三善康信の孫)である三善康持も引き続き問註所執事を務めますが、北条家と対立してこの職種を罷免されてたと言われています。

また、三善康俊には康行という子供がいました。この康行は戦国武将・大友宗麟を輩出した大友家の初代当主・大友能直に仕え、九州に土着します。やがて康行は「問註所康行」と名乗り、その子孫は大友家、小早川家、立花家に仕えたと伝わっています。立花家が藩主を務める柳川藩では、幕末に問註所康重という、弓術や兵法、砲術の師範を務めたという人物が中老を務めた記録が残されています。

三善康信の子孫は問註所氏以外にも存在します。会津藩士として知られる町野氏や、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』を編纂したとされる大田氏、長州藩の家老を務めた椙杜(すぎもり)氏が有名です。記録に残っていない人物を含めれば、三善康信の子孫にあたる方は、今なお日本各地に数多く存在するのではないでしょうか。

まとめ

三善康信という人物や行ったことについてまとめると、下記のようになります。

・母を源頼朝の乳母の妹にもち、頼朝と関係があった
・学問に優れた家系で、朝廷文化に関しても知識と教養があった
・その経験を買われ、問注所の執事を務め鎌倉幕府を発展させた
・子孫は日本各地に存在。大友家や柳川藩に使えた問註所氏などが挙げられる。

武家ばかりの鎌倉幕府において、彼のような公家出身の者がいないと幕府の仕組みは整わなかったとまで言われています。
鎌倉幕府が滅んで室町幕府になっても、問注所の執事は三善家が世襲しました。
このことから、三善康信は長きにわたる時代の礎を築いてきたといえます。