コロナ感染拡大による認知症の症状悪化が指摘されている。
広島大学大学院の石井伸弥教授が行った調査では、
約4割の介護支援専門家が、介護サービスの制限などで「認知症者に影響が生じた」としており、
在宅者では、半数以上が「認知機能の低下が見られた」と回答している。
この調査は、昨年2月から6月ごろまでに行われたものだが、
昨年以来の「在宅時間が長い・活動量減少・ストレスの高い生活」は、まだ続く。
それによってリスクが高くなると考えられるのが、高血圧、肥満、糖尿病だ。
自宅での飲酒量が増加した人がいることも指摘されている。
国立長寿医療研究センターもの忘れセンター副センター長の佐治直樹医師が言う。
「世界的権威の雑誌ランセットに昨年発表された論文では、
認知症の要因となる危険因子の40%は、改善可能。
この5%を占めるのが、高血圧、肥満、糖尿病、飲酒と、食関連でした」
「認知症と食事」という観点から、
佐治医師が取り組んでいる研究テーマのひとつが、「認知機能と腸内細菌の関連」だ。
近年、脳と腸が自律神経などを介して、
互いに影響を及ぼし合う「脳腸関係」が注目されている。
昨年、神経学の専門雑誌ランセット・ニューロロジー誌に、
アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中といった神経疾患と
腸内細菌が関連していることを示す論文が発表された。
「脳と腸との関連には、さまざまな経路があり、認知機能にも影響している。
認知機能と腸内細菌に関する論文は、ここ数年だけでも複数あります」(佐治医師=以下同)
「アルツハイマー型認知症の患者では、腸内細菌の多様性が乏しい」、
「善玉菌のビフィズス菌breve A1が、認知機能を改善」、
「腸内細菌叢の異常が脳に悪影響」などだ。
■腸内細菌の代謝産物も認知症に関連
佐治医師らも2015年から、腸内細菌についての研究を開始。
もの忘れ外来を受診した患者の検便サンプルを採取・解析した研究では、
認知症の有無で、腸内細菌のタイプが異なっていた。
認知症でない人を対象にした研究では、
認知症の前段階である軽度認知障害でも、腸内細菌は認知機能の低下に強く関連しており、
腸内細菌の変化は、軽度認知障害のリスクを5倍高めると分かった。
「最近では、腸内細菌が産出する代謝産物にも注目。
アンモニアや有機酸が、認知症との関連度が高いとの結果でした」
腸内環境は、言うまでもなく食事内容に左右される。
認知機能を保つエビデンスのある食品としては、
地中海沿岸で伝統的に食べられている「地中海食」がある。
オリーブオイルを多用し、野菜、果物、魚介類が豊富で、牛肉や豚肉、加工肉は少量などの特徴がある。
地中海食と共通項がある日本食についても、研究が行われている。
佐治医師らは、これまでに日本食、腸内細菌と認知症についての解析も実施。
米飯、味噌、魚介類、緑黄色野菜など伝統的な日本食9品目の「伝統的日本食」、
これに大豆類、果物、キノコ類を加えた「現代的日本食(12品目)」、
さらに認知機能維持に良いといわれるコーヒーを加えた「コーヒーを含む現代的日本食」を比較すると、
現代的日本食とコーヒーを含む現代的日本食のスコアが高いほど、認知症との関連度が低かった。
「日本食の中での具体的な食材を挙げると、
DHAで知られる魚油は、認知症予防に有効だと発表されており、大豆類も有効だとされています」
認知症予防につながる薬の研究は進んでいるが、
臨床で使われるようになるまでは、まだ時間がかかるだろう。
認知症の前段階、軽度認知障害にも、特効薬がない。
だからこそ、今日から食事で対策を講じようではないか。
コロナ禍でも、全く問題なく実施できる。・・ 》
注)記事の原文に、あえて改行を多くした。