細川ガラシャ夫人
三浦 綾子
パンローリング株式会社
2021-02-19

どんな本?

細川ガラシャの生涯を描いた歴史小説。
明智光秀の娘として何不自由なく育てられた玉子は、十六になった時、織田信長の命令で細川忠興のもとに嫁ぐこととなった。女性が男性の所有物でしかなく、政略の道具として使われた時代に、玉子は真の人間らしい生き方を求めて行く……。実の親子も殺し合う戦国の世にあって、愛と信仰に殉じた細川ガラシャ夫人。その清らかにして熾烈な悲劇の生涯を浮き彫りにした著者初の歴史小説。

作者/時代背景

著者は、『氷点』、『塩狩峠』の作者でもある三浦綾子さん。
闘病を経てキリスト教信者となった方で、細川ガラシャについては信者として、女性として共感を感じる部分も大きかったのかな、と本作を読んで感じました。

感想

  • スラスラと文章が入ってきて読みやすい
  • 勝手に「難しそう」という印象を持っていたのですが、スラスラと頭に入ってくる文章です。雑誌に連載されていたそうなので、限られた字数で展開が分かるように書かれた文章だからなのかもしれません。読みやすいだけでなく、玉子の生涯を知った上で読んでいても飽きずに読み進められ、早く先を読みたいという気分になります。もっと早く手に取っておけばよかったと後悔するほどでした。
  • 細川忠興の嫉妬半端ない
  • 細川忠興は、玉子を屋敷の外に決して出さない、屋敷内でも男性の目に極力触れさせない、自分の父親や弟さえ玉子と会うのを快く思わない、というほど、玉子に対しての執着が強く、嫉妬深い性格。現代の生活に慣れ切った私からすると、窮屈極まりない生活、面倒くさい夫、という印象ですが、本作では、そんな忠興の性格が描かれつつも、忠興なりの理由も描かれているため、異常な性格という印象は薄い気がします。
  • 玉子は忠興を愛していた
  • 夫と別れたいと宣教師に告白しているという話もあり、『胡桃に酒』(司馬遼太郎著) を読んでいた事もあり、相性の悪い夫婦ながら簡単に分かれることができない状況にいたんだろうなという印象を持っていたのですが、本作では玉子の忠興への愛情が描かれています。現代とは全く違う、いつ命を取られるのか分からない時代に、聡明な玉子の目線で世の中、夫、女性として生きる事を見た時、そして受洗して篤い信仰心を持つ彼女の心持ちを考えたら、確かに玉子も忠興を愛していたのではないかという気がしてきます。

蛇足ですが、、

司馬遼太郎さんの細川ガラシャを描いた短編『胡桃に酒』は、『故郷忘じがたく候』に収められています。
新装版 故郷忘じがたく候 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋
2004-10-10

本のタイトルになっている『故郷忘じがたく候』は、薩摩焼の陶工たちのルーツを描いた物語。