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絵本『おつきさまこんばんは』赤ちゃんと一緒にお月見!寝かしつけにもオススメ

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満月を見上げる猫2匹の会話に心が和む、とっても可愛いお話の赤ちゃん絵本。

脳の発達が目覚ましい0歳後半から1歳代にかけて読み始めるのがオススメ!

描かれた色や形を楽しむだけだった赤ちゃん絵本から一歩進めて、絵本には「物語」があると気づき、「物語」の楽しさを初めて学ぶのにぴったりの1冊ですよ。

夜が舞台なので寝かしつけ絵本の定番としても愛されていますし、人間関係の基本「あいさつ」を学ぶのにもうってつけ!

 

ストーリーも絵も一見シンプルですが、これが実は技ありの絵本です。

絵と文章の両方に張り巡らされた、赤ちゃんの好きな要素、赤ちゃんにとっての読みやすさ、赤ちゃんの興味を引く工夫……赤ちゃん、といっても早くても0歳代後半以降ですが、その心理をよく考え抜かれてあるんですよ。

作者の林明子さんは子供を描くのを得意とする絵本作家ですが、子供の心を理解し寄り添うのも得意だというのが、この絵本を読むとわかりますね。

 

大人は誰もが知っている月、でも、赤ちゃんにとっては見慣れぬ不思議な存在の月。

その月を身近に感じて、一緒に愛でるひとときをこの絵本の読み聞かせで過ごしてみませんか?

 

 

 

簡単なあらすじ

日が暮れて、辺りがとっぷりと暗くなった頃、家の屋根に登ってきた2匹の猫。

猫達が待ちに待っていたのは……夜空にぽっかりと現れたおつきさま。

淡い光を放つ丸いおつきさまへ、猫達から「こんばんは」とご挨拶。

と思いきや、大きな雲が横切って、おつきさまが見えなくなっちゃう~~!?

 

絵本の紹介

おつきさまに隠された創意工夫

おつきさまがこの絵本の主人公、ではありますが、実は作中におつきさま自身のセリフはありません。

文章は猫2匹が話すセリフが主体、1ページだけが空を去っていく雲のセリフです。

メインの語り手である登場人物が主人公と考えるならば、この絵本を「おつきさまの絵本」と呼ぶのはふさわしくないとも思えますが……?

しかし、この絵本の主人公は間違いなく、おつきさまです。

 

一体どういう事か?

それはまず、絵本内で語られる内容が全ておつきさまの事ばかり、という点に尽きるでしょう。

絵本の内容をざっとまとめると、こんな感じです。

 

2匹の猫が夜の空を見上げ、屋根の上に射した光に気付き、ゆっくり姿を現したおつきさまへ「こんばんは」。

月が雲で隠れれば、雲に向かって抗議をして大騒ぎし、謝罪して去っていく雲を見送り、お月様の笑顔を見上げて安堵しながら、改めて「こんばんは」。

 

そう、徹頭徹尾、会話の主題はおつきさま!

猫達や雲の話題は常におつきさまオンリー、おつきさま以外のネタはでてきません。

これは、語り手を他の登場人物=猫達や雲に据え、彼らの第一人称による語りによって、おつきさまの存在を浮き彫りにする手法を取ってあるんですよ。

読む子供は、猫達へ自己投影する事で、一緒におつきさまを見上げて、おつきさまの事だけを考えて、絵本を読む事になる訳です。

これ、赤ちゃん絵本にしては、かなり高度な文学表現方法ですよ?

大抵の絵本は第三人称の語り口にするか、おつきさま本人にも話させるでしょうに、それを敢えて避けて、他の登場人物から見て語る主人公像を絵本に取り込んみ、読む子供達が絵本へ没頭する為の足掛かりにしてしまうんですから……。

何度も言いますが、これ、赤ちゃん絵本ですからね?

それへこんな文学としての手法をバランスよく取り込むなんて、林明子さんは並々ならぬセンスです!!

 

そして、絵が表現のウエイトの半分を占める絵本ならではですが、おつきさま自身は表情のみでその内面を表現し、子供の想像力を刺激。

直接話すセリフがない事で、月の神秘性、その存在の不思議さを演出する効果もあるというのには、もう頭が下がります。

定点観測のように固定したアングルから、月が昇り、中天へと座す様子をじっくりと捉えるというのも、頭の中で場面の切り替えがスムーズにできず、月の動き方も知らない赤ちゃんにとっては、理解しやすい仕組み。

うーむ、初めて手に取った時は、シンプルな月の絵本だと思ったのに、読み込んでいくと芋づる式に出てくる工夫の数々……ページ数は少ないですが、読んでいて感心させられる事ばかりです。

 

 

 

 

赤ちゃんが絵本から学べる会話表現

ちなみに、この絵本は、発語間もない年頃の赤ちゃん達にとって、基本的な会話例となるであろう言葉が使われている事も特徴的です。

 

  • 「くらくなった」「あかるくなった」=明暗の対比
  • 「こんばんは」「さようなら」   =挨拶
  • 「だめ」「こないで」「どいて」  =拒否の意志表現
  • 「ないちゃう」「わらってる」   =感情表現
  • 「ごめん」 =謝罪
  • 「まんまる」=形状表現
  • 「よかった」=感動詞・肯定的表現

 

どうでしょうか、上記で述べた高度な文学表現を駆使する一方で、平易な言葉遣いだけを使い、普段に役立つ会話表現を種類豊富に取り込んであるでしょう?

この絵本の読み聞かせには、赤ちゃんにとっての気づきが沢山!

人間のコミュニケーションの根幹である挨拶、人間独自の感情表現、相手へ許しを請う謝罪という行為、などの言葉を学べるんです。

泣くだけが抗議の表現でしかなかった赤ちゃんが「これをしてほしくない」と意志表現する方法を身につける事もできますね。

 

そんなの絵本には普通でしょ、と思われるかもしれませんが、「物語」を初めて学ぶであろう赤ちゃん向けの絵本としては、「普通」ではないんですよ。

ひとつひとつの言葉が選び抜かれていて、無理なく配されている点にも、私は感心してしまいます。

 

赤ちゃんが好きな「丸いもの」と「人間の顔」

赤ちゃんは、「丸いものと人間の顔が好き」と聞いた事がありませんか?

 

実際、赤ちゃんの未発達な視覚でも見やすく、最初に認知しやすい基本の形は丸です。

複雑な形を認識し、それを言語化できるようになるには、かなりの時間をかけて、心身の成長を待たなければなりません。

その点、丸は一番簡単に認識して理解できる、最もシンプルな形状。

既に幼児期の育児を経験済の方ならば、初めてのお絵描きで一番最初に書ける図形は丸が多い、と言えば、ご納得いただけるのではないでしょうか。

丸いものが好き、というよりも、丸が一番わかりやすい、と言えるかもしれませんね。

赤ちゃんのオモチャに丸い形状が多いのも、怪我などを考慮した安全面だけでなく、赤ちゃんにとって最も認知しやすい形という理由もあります。

 

そして、人間の顔!

一般的に、視力0.8程度まで視覚が発達する生後6カ月以降は、知能の発達も加速して、人間の顔の認知能力、表情への理解力が飛躍的に上昇します。

喋れない赤ちゃんにとって、自分の世話をしてくれる大人、一番身近な存在の表情を観察する事は、大切な外界とのコミュニケーションですから、顔へ興味を示すのは本能的なもの。

顔の動き、特に目鼻口の動きを見て、その表情が相手の声や行動とどのように結びついているのか、を学習。

情報をスポンジのように吸収して知的成長を遂げる赤ちゃんにとって、いくら見ても見飽きないものが人間の顔ではないでしょうか。

いないいないばあに喜ぶのも、鏡に映る自分の姿に興味を示すのも、大体この頃からですね。

 

「丸いもの+人間の顔」となると、赤ちゃんの興味を引くものが二重で揃っている訳でして、そりゃ~~気になる!

そう考えると、国民的アニメヒーローのアンパンマンなんて、この条件が揃っているキャラクターなんだな、と作者のやなせたかしさんにちょっと感心してしまいます。

 

 

 

 

さて、ここで本作のおつきさまをご覧ください。

おつきさまは丸くて人間の顔がついてますよね……こ、これは、赤ちゃんが好きな2つの条件が揃ってるじゃありませんか!

しかも、このおつきさま、表情豊かなんですよ。

すました顔、泣きそうな顔、不思議そうな顔、にっこり笑顔、オマケに裏表紙では「あっかんべー」!

なんだか、表情がくるくる変わる赤ちゃんの顔そのものにも見える、おつきさま。

個人的には、泣きそうな顔が次男の泣く寸前の顔にそっくりで、笑いが込み上げます。

 

大人から見れば、表情にそこまで種類があるとは思えないかもしれませんね。

でも、知識も経験も認知能力も少ない赤ちゃんにとっては、おつきさまが浮かべる基本的な表情を押さえるだけでも、充分刺激的なんです。

大人が知っている複雑な感情と、それを表現する表情は、成長と共に獲得していくもの……赤ちゃんはまず、一番最初のシンプルな感情とその表現方法をこの絵本から学ぶという訳ですね。

 

月は月でも、三日月でも半月でもなく、満月のおつきさまを採用しているのには、表情を表現しやすいという意味を推察できます。

 

ちなみに、夜闇に浮かぶ月、という設定により、紺色の夜空に浮かぶ黄色のおつきさまが描かれている訳ですが、この色使いにも林明子さんのひと工夫が!

赤ちゃん絵本らしい優しい色のチョイスと、赤ちゃんの注目を集めたい部分(=おつきさま)を目立たせて視線誘導する為の配色を両立してあるんですよ。

もしこの夜空が黒だったら……おつきさまの黄色と黒ではコントラストが強すぎますし、そもそも家や猫達のシルエットが目立ちません。

かと言って、家や猫達のシルエットを他の色にすれば、おつきさまを優先的に視線誘導する効果が薄れてしまいます。

グレー系の色を選んでも、結局は背景が黒とグレーでは全体の印象が重過ぎ&きつ過ぎますから、赤ちゃん絵本としてはちょっとね……。

そう考えていくと、この絵本の色使いが計算され尽くしているのがわかるでしょう?

普段何気なく読んでいる絵本のちょっとした部分にも、作者の工夫がこもっているんだなあ、と実感します。

 

林明子さんが綴る物語の世界

林明子さんの絵本は、子供だけでなく、大人のファンも多い事で有名。

代表作の『こんとあき』を始めとする作品はどれも、優しく温もりのあるタッチと繊細な情景描写の積み重ねが特徴的です。

子供を描くのを得意としていて、ふっくらした頬とつぶらな瞳の子供達、さりげない仕草や表情は見る者の心を捉えます。

「おつきさまこんばんは」では、子供こそ出てきませんが、おつきさまの表情は林明子さんが描く小さな子供そのもの。

林明子さんの絵の魅力がよ~くわかると思いますよ。

 

 

林明子さんの絵本は文学的表現の工夫が多く、ストーリーは人間ドラマ的な面が強め。

時には、そのストーリーは決してわかりやすい訳ではないんですよね。

絵と言葉の両方で情景描写や心理描写を幾重にも重ねる事で、登場人物達の細やかな心の動き、直接は描かれない人物像の背景をも描き出し、絵本というよりも児童文学に近いとも思えるドラマ性の高さと奥行きのある世界観を確立。

大人が読めば、没頭してしまいそうな面白さですが、子供にとって一から十までわかりやすい説明、なんてものはないので、絵本によっては、初見ではウケが悪い事もあります。

 

ただ、使われる言葉、言い回しは、子供にわかりやすい簡単なものばかり。

繰り返し読み込めば「物語」の面白さをじっくり楽しめるので、豊かな感受性、読解力と想像力を育んでくれる作品ばかりです。

「おつきさまこんばんは」は0歳から楽しめる赤ちゃん絵本ですが、その片鱗は上記で取り上げた「語り手の主体をどこに据えてあるか」に見る事ができますよ。

 

 

我が家の読み聞かせ

私にとっては、特に長男との思い出の絵本です。

長男が生まれ、初めての育児に産後ノイローゼになりながら奮闘していた頃の思い出が詰まっているので、思い入れが深いんですよ。

 

我が家では、長男8歳・次男6歳の今でも、夜寝る前に3冊絵本を読む習慣があります。

長男が8か月の頃から4歳直前までは、この絵本を最後の3冊目に読むのが、お決まりの寝かしつけの儀式でした。

「おつきさまを読んだら、泣こうが騒ごうが問答無用で電気を消して寝る」というのを条件反射で刷り込もうと計画して実行したんですよ。

ゆっくり静かにおつきさまのお話を読み聞かせたら、「おつきさまを読んだから、おやすみなさいねー」と、電気を消して夢の世界へGO!

 

ただ、そんな簡単に最初からいくはずもなく……。

ハイハイをする時期には、暗がりでも横になっている私の身体を何度もよじ登ったり、首の上に全体重をかけて乗っかってきたり、アウアウ声を出しながらエアーキックしたりしている姿に、寝たふりしながら「これ、意味あるんかな……」と遠い目。

でも、1歳過ぎて歩き始めた頃には、暗い中で目が覚めていても静かに横になっているようになりました。

色んな要因が絡んでの事とは思いますが、おつきさまの条件反射も少しは効いてくれたのかな……と、今も表紙を見ると、あの頃の寝かしつけの苦労を思い出します。

 

それだけ毎日読んでいたので、幼い頃の長男も中身を丸覚え。

日暮れ頃に空へ浮かぶ月を見て、絵本と同じおつきさまだと気づき喜んでみたり。

黒猫達がぎゃんぎゃん騒ぐ様子を近所の野良猫に重ね合わせてみたり。

おつきさまが雲に隠れるのと同じタイミングで、いないいないばあをして笑ったり。

最後のページでは、出てくる親子連れのシルエットを指差し、「これ、おかあさん、こっち、ぼくー」と言って甘えてくるのが大好きでしたね。

 

今では、長男は全く読まなくなりましたが、私にとっては、読めば赤ちゃんの頃の面影が蘇る1冊。

成長した今も勿論可愛いですけど、赤ちゃんの時の可愛さは格別なんですよねー。


 

まとめ

息子達が生まれる前は、赤ちゃん絵本なんて描くのは簡単なものでしょ、と思っていた節がありましたが、今ではどの絵本にも様々な工夫が凝らされていると知り、そんな風に軽く扱っていた過去の自分を注意しに行きたいです。

「おつきさまこんばんは」にもこれだけ色々な要素があるなんて、気づくのには随分長い時間がかかりました。

赤ちゃん絵本を侮るべからず、ですね。

こちらは、月をテーマにしている赤ちゃん絵本の中でも、特にオススメ!

この記事を読んで興味を抱いてくだされば、とっても嬉しいです。

 

なお、お子さんがこの絵本を卒業する年頃になったら、ぜひ林明子さんの他の絵本も読み聞かせてみてくださいね。

林明子さんが描く絵本の中の世界は、ゆったりとした時間が流れていて、取り巻く全てがとても優しい……。

美しい月の光が地球上全ての人々を平等に照らすように、本当にこの世界の全てがこんな優しさに溢れていればいいのに、と思わずにはいられません。

 

 

作品情報

  • 題 名  おつきさまこんばんは
  • 作 者  林明子
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  1986年
  • 税込価格 880円
  • ページ数 20ページ
  • 対象年齢 0歳から
  • 我が家で主に読んでいた年齢 0歳8か月~3歳(最初に反応を示すようになったのは生後10カ月以降)