この表紙をご覧ください、いかにもやんちゃな笑顔を浮かべた男の子デイビッド、その手元で大きくぐらつく金魚鉢……数秒後に訪れる惨状を予想して、つい反射的に「だめーっ!」と叫びたくなるでしょう?
デイビッドが次は一体何をしでかすのか、怖いもの見たさで気になりませんか??
しかし、この表紙のいたずらなんて、デイビッドの日常のひとこまに過ぎないのです……!!
いたずらっ子デイビッドの魅力に、ついジャケ買いしてしまった絵本ですが、実際に読み聞かせてみたら面白いだけでなく、愛情を伝える大切さも教えてくれる素敵な1冊。
自分もいつも怒ってばかりかも、と大人にもドキリとする気付きがあるかも?
子供に必要なのは、否定の言葉ではなく、肯定の言葉。
大好きなママには、「だめ!」よりも「大好きよ」と言ってほしい。
子供だけでなく、育児を頑張っている親御さんにもぜひ読んで頂きたい、オススメ絵本です!
簡単なあらすじ
デイビッドはやんちゃ盛りの男の子。
泥まみれで部屋の中に入ってきたり、ご飯中に食べ物で遊びだしたり、素っ裸で外へ走り出したり、おやつをつまみ食いしようと椅子をよじ登ったり……手を焼くママは「だめ」「だめ!」「だめ!!」の連続っ。
それでもデイビッドはぜーんぜん懲りません。
しかし、ママの「だめ!」を聞かず、とうとう花瓶を割ってしまったデイビッド、これはさすがにまずいんじゃ……!?
絵本の紹介
デイビッドのいたずらとママの愛情
日本語では「だめ!」、英語では「No!」がこれほど飛び交う絵本、他になかなかありませんよ。
でも、それも納得……なにしろ、デイビッドはママの「だめ!」を一切聞く事なく、あらゆるいたずらを繰り返します。
汚いから、危ないから、もったいないから、うるさいから、みっともないから、お行儀が悪いから、とにかく何が何でもだめーーーっ、というママの心の叫びが聞こえてきそう。
表紙裏の見返しにびっしりと羅列された「No!」は、日々どれだけデイビッドにママが振り回されているかを想像できて、思わず笑いが込み上げますね。
このデイビッド、なーーんてパワフルで可愛いんでしょう!
実際にママの立場になったら、笑っているだけでは済まないのですけれど(想像するとゾッとします)、一瞬たりとも目が離せないデイビッドは、最高に魅力的なやんちゃ坊主です。
まさか、このデイビッドのいたずら、全部1日の内ににしでかした事だったりして……まさかね、と思いたくなりますが、1日でやりかねないのが子供というもの……いやはや、恐ろしいですねー。
親にとっては恐ろしいですが、読んでいる子供にとっては、デイビッドの行動全てが痛快。
自分ではとても真似できない事でも、デイビッドが代わりに全部やらかしているのを見るのは、絵本ならではの追体験ができて、爽快な気分になるでしょうね。
自分が実際に怒られるのは嫌ですけれど、絵本の中のお話なら、自分が怒られる訳じゃないですから、怖くもなんともありません
更に、普段の自分を棚に上げて、デイビッドのいたずらにダメ出しをするのは、ちょっとお兄さんお姉さん気分も味わえて、なかなか癖になる楽しみ方。
上の兄弟がやらかして怒られているのをこそっと物陰から見ている下の子、の立場を味わえる絵本かもしれません。
さて、いくら注意されても懲りないデイビッドが調子に乗った挙句、致命的な大失敗!
これはさすがにやらかしてしまった、と悟ってシュンとするデイビッド。
ついにママの怒りが大爆発、と思ったら、そこでママはデイビッドを優しく抱き寄せます。
この一連の流れが、子供のみならず、読み聞かせている親の心にヒットするんですよ。
デイビッドが泣きべそ顔で「抱っこして」とばかりに手を広げてみせるポーズがリアルで、私はまるで息子達を見ているような錯覚を覚えます。
子供って、自分が悪い事したなとわかっている時でも、安心感を求めて、抱っこをせがみますよね。
ママが怒るのは「自分を否定している」訳ではないのを確認しようとしているのでしょうか。
絵本を通すと客観的に見る事ができるせいか、いかに、この>幼児の「抱っこして」ポーズが相手への愛と信頼に満ちているかを再認識。
手を広げるデイビッドは、いつものやんちゃな表情は鳴りを潜め、素のままの顔で、愛情と安心を求める小さな子供そのものです。
ああ、子供ってこんな顔で抱っこを求めるんだ……と、ふと胸を突かれますね。
そして、叱らず怒らずに抱きしめるママの行動に、同じ親として、目が醒める想いが!
ママが「だめ!」を連発するのは、デイビッドへの愛、そして素敵な大人へ成長してほしいという想いからのはず。
つまり、しつけの一環。
デイビッドの行動へイエローカードを突き付けてはいても、決して、デイビッド自身を否定している訳ではありません。
けれど、それがどんなに愛情ゆえのしつけだったとしても、「だめ!」は否定の言葉……子供にとって、大好きなママから聞きたいのは否定の言葉の「だめ!」ではないんですよね。
自分でも悪い事をしてしまったと自覚したデイビッドの気持ちへ寄り添い、受け入れて抱きしめるという選択を取ったママ。
果たして、自分が同じ状況の時に同じように抱きしめてあげられるだろうか、と自問自答します。
日々の生活、目の前で起きているトラブルに気をとられて、我が子を肯定し愛を伝える時間を忘れてはいないか、「だめ!」という否定で子供の伸びやかな心を縛ってばかりになってはいないか、と自省を促される気がして、初めて読み聞かせした時は背筋が伸びる思いがしました。
幼児向けの絵本ですが、親にとっても教えられるものが多い1冊だと、私は思いますよ。
デイビッドの絵本の特徴を紹介
低年齢の幼児向けですから、セリフ以外の文章がなく、そのセリフの8割も「だめ」のアレンジしただけ、というシンプルな構成です。
その分、絵が全てを物語っていて、百聞は一見に如かずを地で行くような絵本。
基本的に、見開き2ページを使って、ひとつの場面を描いています。
ママ視点に立っているので、ママ自身の顔は描かれず、ママから見たデイビッドの姿のみ。
カラフルでダイナミック、子供の落書きを彷彿とさせる勢いのある絵は、デイビッドの笑い声が絵本の外にも響き渡りそうな臨場感がたっぷりなだけでなく、室内の調度やオモチャのひとつひとつまで、丁寧に細かく描きこまれています。
デイビッドの豊かな表情、一瞬たりともじっとしていない元気いっぱいの子供の動きもよく捉えていて、躍動感が素晴らしい!
人物も情景描写も、非常に高い物語性を持って描かれているのが特徴的。
ママがデイビッドの何を「だめ!」と言っているのか、説明がなくても、絵が充分過ぎるくらい物語っています。
多分、セリフがなかったとしても、絵を見るだけでも充分お話を楽しめるでしょう。
これは文字の読めない年頃の幼児向け絵本としては、とても優れた美点ですね。
年齢的には2歳前後から読むのがオススメ。
この絵本は、デイビッドの行動がどんな結果に結びつくか、予測できるようになれば、どんどん面白さが増してくる仕組み。
思考能力の発達具合からして、2歳前後から少しずつ絵の物語性を理解できるようになってくるので、読み聞かせた際の反応が良くなっていきますよ。
ちなみに……お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、主人公デイビッドと作者デイビッド・シャノンさん……そう、名前が一緒です。
これは絶対偶然ではないでしょう、自分で描いた絵本の主人公へ気づかずに自分の名前をつける訳ありませんものね。
もしかしたら、デイビッドのリアリティある子供像には、デイビッド・シャノンさんご自身の経験、もしくは育児に際しての経験が反映されているのかも?
そして、デイビッドのお話、日本語訳では他に3冊出版されています。
どれもデイビッドのやんちゃぶりは相変わらずでして、中でも、『デイビッドがやっちゃった!』はデイビッド目線から語る言い訳のオンパレードが面白いんですよ。
機会がありましたら、どうぞデイビッドの言い分も聞いてあげてくださいませ。
子育てに苦戦するデイビッドのママに共感!
常に動き回って目を離せないデイビッドに、「だめ!」を連発するママの気持ちが、私にはわかり過ぎるくらいわかります……。
思いっきり指を突っ込んで鼻をほじるデイビッドの顔が、これ以上ないくらいのドアップで描かれているページでは、「これ、うちの子も毎日やってるわ」と思わず苦笑。
なんでしょうね、この全体通して感じる「子育てあるある感」は……。
理想ではいつも微笑んで余裕のある優しい母でいたくても、子育ての現実は厳しいんですよね。
ふわふわした理想の夢を追う間もなく、頭から鬼の角がにょきにょき生えそうになって「だめ!」とつい口にしてしまう経験、私にもありますよ。
読み聞かせると、デイビッドのママに気持ちがすっかりシンクロ。
いやー、子育てに苦戦するのは万国共通なんですねー。
こちらはアメリカの絵本なんですが、同じ絵本を読む者同士として、遠いアメリカの顔も知らぬママさんパパさん達へ急に親近感が湧きまくりです。
国も文化も肌の色も違っても、子供が小さなモンスターなのは変わらないし、親が子供のやらかしに振り回されるのも、「こらーーーっ!」と怒りモード常時発動するのも同じなんだ、と思うと、世界中に仲間がいるような気持ち。
みんな、怒りたくて怒ってる訳じゃないんですよね……。
この絵本を読んで、デイビッドを通して我が子の可愛さを再認識したり、大好きだよと沢山抱きしめようと思ったり、いつも叱ってばかりの自分に凹んだり……。
きっとみんな似たような気持ちを抱えているんだと思うと、「ひとりじゃないよ」と励まされているみたいな気分。
幼児向けの絵本のはずが、一緒に読んでいる親の私までパワーを貰ってます。
いつも怒ってばかりの自分にお悩みのお母さんお父さんがいらっしゃいましたら、ぜひこの絵本を読んでみて下さいね。
私のように、ちょっと元気づけてもらえるかもしれませんよ。
英語版をオススメする理由
機会がありましたら、英語の原書で読むのがオススメ!
いや、むしろ英語で読まないともったいないかも……!
英語が苦手でも大丈夫、アメリカの乳幼児が使う言葉ばかりで、基本が「No!」ですから、とーっても簡単ですよ。
なぜ、英語版をオススメするかというと、ラストの「No」と「Yes」の対比があまりにも鮮やかで素晴らしいから!
ずーーっと「No」を並べ立てておいて、最後に全てを受け入れての「Yes」。
否定と肯定によるシンプルな対比、ストレートな言葉の強さが心にグッと深く刺さり、一種のカタルシスを感じます。
日本語版では、ここまでの強烈な印象はありませえん。
ああ、これは意思表示が曖昧になりがちな日本語の訳文では決して味わえない、意思表示の明確な英語ならではの言葉の美しさだと、心から感銘を受けました。
私は最初、日本語版→英語版の順番で読みましたが、もし英語版が先だったら、日本語版を買っていなかったかも、と思ったくらい、英語版の文章の完成度が高いんですよ。
ぜひ、図書館などで読み比べてみて下さいね、2つの言語の違いがとっても面白いです!
我が家の読み聞かせ
我が家では5歳頃まで読み聞かせリクエストがありまして、特に息子達がイヤイヤ真っ盛りの2~3歳頃によく読んでいました。
イヤイヤ期の理不尽さには私も散々手こずりましたよ。
でも、『だめよ、デイビッド!』を読むと、冷静さを取り戻し、自分を振り返る余裕が出るんですよね。
癇癪にイラついたとしても、どんなに色々やらかされて腹が立ったとしても、その怒りと息子自身への愛情は別物。
叱ってばかりいないで、ちゃんと「大好きよ」と抱きしめてあげたいな、と思える機会をくれたこの絵本には、今でも感謝の気持ちを抱いています。
なお、親の私がアレコレ反省しているのを他所に、当の息子達は叱られるデイビッドの姿にケタケタ笑い、「だめ!」を連発するのを楽しんでいました。
自分達がダメ出しされるのは「イヤーーーッ!」と反抗しまくりだったくせに、絵本で自分以外が怒られているのはOKなんですから、全く人間なんて勝手なものですネ。
デイビッドの真似をするのも大好きでしたよ。
まあ、人前で思いっきり鼻をほじるのも、外を全裸で走るのも、全部子供の頃に済ましておくのがベター。
大人になってからだと、ちょっと問題ありですものね~~~。
まとめ
小さな子供には、しつけの為の「だめ!」の言葉よりも、大好きの気持ちを毎日シャワーを浴びるように沢山伝えてあげたいですね。
子供の心は愛情で健やかに育っていくものですから。
でも、そうは言っても、子育ては綺麗事だけではできませんから、叱らざるを得ない時もある訳で……。
そんな時は、『だめよ、デイビッド!』を読み聞かせたら、最後にお子さんを「大好きよ!」と伝えて、ぎゅっと抱きしめてあげる、と決めてみるのはどうでしょう?
そうすれば、どんなに叱る事があっても、この絵本があれば、本当は心から大切に思っているよと伝える機会を親子でお互いに持てます。
「だめ!」という言葉よりも、「大好きよ」の言葉が最後に心へ残ってほしい……と私は思うのですが、いかがですか?
作品情報
- 題 名 だめよ、デイビッド!
- 作 者 デイビッド・シャノン
- 訳 者 小川仁央
- 出版社 評論社
- 出版年 2001年
- 税込価格 1,430円
- ページ数 32ページ
- 対象年齢 2歳から
- 我が家で主に読んでいた年齢 2~3歳(幼稚園年長でもゲラゲラ笑います)