【読書記録】ラテン文化に気持ちがほぐれる!『グアテマラの弟』片桐はいり 著
中米のグアテマラの古都•アンティグアで暮らす弟を訪ねる旅の話。
そこでの約半年間の暮らしや出来事、文化などを書いた片桐はいりさんのエッセイです。
グアテマラの市場に行ったときのこと
黄色や赤の車体に派手な飾り文字、装飾過多のデコトラみたいなボンネットバス、ビニールに覆われていない色とりどりの元気な野菜たち、けばけばしい安物色のプラスチックの雑貨の山、そこを行き交う鮮やかな民族衣装の人たち。
この世で思いつく限りの色という色が乱れ舞っていた。
色。色。色。原色の、生の。殴られたような気分だった。トマトの赤が、民族衣装の藍が、それぞれ拳をふりあげて飛びかかってくるような印象なのだ。
“背景の空も、目もさめるような、なんて生やさしい青じゃない。のどをからして叫んだような、青っ!だった。
活気があって、陽気なラテン文化。読んでると気持ちがほぐれてきて心がパーっと晴れやかになった。
写真もイラストもないのに文章から太陽とラテンの文化ぎ目に浮かぶ。
カラフルで強い色彩を見てるだけでも
小さなことなんてどうでもいいや!っていう気持ちになりそうだ。
他にも、
流れないトイレ爆発事件。
お酒とたばこが大好きな神様、
『サンシモン様』に会いに行くお話
もはいりさんらしい視点と語り口で笑えました。
そして、グアテマラの人々の生活について
少しでもお金に余裕があれば、貯め込まずに人に使う。貯め込まずに人に回す。
彼らはなにやら、少ないお金と仕事をみんなで分け合っているようなのだ。
わずかなお金を貯めるくらいなら、お手伝いさんに任せて昼寝でもいていたほうが良いのだろう
この国の暮らし方のコツなんだろうな。
人々が陽気でおおらかなのは、こういう考え方だからなのかもしれない。
【読書記録】『何もかも憂鬱な夜に』中村文則 著
養護施設で育った孤児の刑務官の“僕“が主人公。
時々犯罪性を帯びた行動をし、いつか何かやってしまうのではないかという混沌を抱きながら生きている。
刑務官として
どこか自分に似た“山井“という若き犯罪者と接する中で、自殺した友人の記憶や大切な恩師・養護施設の『施設長』とのやりとりを回想する。
施設長の存在で主人公は破滅の一歩手前で押し留まることができたが、犯罪者とのスレスレの精神状態であったこともある。
思春期の頃のまどろこしい、自分自身への苛立ち、多感で複雑な心境が手に取るようにわかる。
主人公と犯罪者との会話シーンなどから、犯罪者になりゆる人間の思想や犯罪を犯してしまった人間の衝動をこの小説で表現している。
人間の暗部に向き合う、とても重くて暗い内容でしたが、小説の中の様々な場面で雨が降っていたりと、どこかに『水』が描かれていて『命』が感じられた。
そして、主人公の“僕“も彼の恩師も芸術を鑑賞することの必要性を語っている。
“どのような人間でも、芸術にふれる権利はあると、主任が言ってくれた。芸術作品は、それがどんな極悪人であろうと、全ての人間に対してひらかれている“
ベートーヴェン、バッハ、シェークスピア、カフカ、安部公房、ビル・エヴァンス…
“お前は、まだ何も知らない。この世界に、どれだけ素晴らしいものがあるのかを。“
“自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ“
“考えることで、人間はどのようにでもなることができる。世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる“
読み始めはなんて暗い話なんだ…と
思ったけど、読後は心の中の押さえつけられていたものが流された感じがしてスッキリした。
不器用でもいい。地道に生きていけばいいと
思えた。
【読書記録】『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 著
著者のブレイディみかこさんは英国•ブライトン在住。
ブライトンには私も語学留学で2年ほど滞在したことがあるので興味があって読んでみました。
人種も貧富の差もさまざまな生徒たちがいる中学校に通う10歳の息子さんを通して日々気付いたことが綴られています。
イギリスのリアルな社会問題を親子で共に考え、悩みながら毎日を乗り越えていくというストーリー。
この本を読んで
“多様性“という本当の意味が少しわかった気がする。
マルチカルチュラルな多様性ワールド、イギリス。
多様性は物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えない。
多様性はめんどくさいけど無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思うと息子さんに教える。
他者について『知ろう』『理解しよう』といった『知ろうとする行動』がないと無知なままで、偏見や差別が生まれるんですね。
学校でもあえて蓋をせずFGMに関する授業をしたりしている。
“この国の教育は波風を立ててでも少数の少女たちを保護することを選ぶ。
そして、こうやって波風が立ってしまった日常を体験することも、様々な文化や慣習を持つ人々が存在する国で生きていくための訓練の一つなのだろうか。“
“シンパシーとエンパシー“
この違い、あまり意識していなかったけど
シンパシーはふつうに同情したり共感することで、
人間が抱く自然な感情。
エンパシーは他人の感情や経験を理解する能力で知的作業。
イギリスの中学校では『ライフ•スキル教育』という教科があって、英国の公立学校教育では社会において充実した積極的な役割を果たす準備をするための知識とスキルを身につけるために『シティズンシップ・エデュケーション』が義務付けられているそう。
その期末試験の最初の問題が『エンパシーとは何か』という問題だった。
世界中で起きているいろいろな混乱を乗り越えていくには自分とは違う意見を持つ人々の気持ちを想像してみることが大事だと中学校で教えている。
エンパシーは感情ではなく、能力だから学ぶ(教える)ことができるんですね。
ある日、教室で差別的なことを言われてカッとなって殴りあいのケンカになった2人の生徒に先生は平等に叱った。
“暴力は言葉でもふるえるんです。2人とも殴られるよりそっちの方が痛かったでしょう“
どの差別がいけないということより、人を傷つけることはどんなことでもよくないのだと先生は教えている。
日本で生活していると考えることがないようなことを知ることができました。
子供の視点で書かれているのでわかりやすいし、
押し付けがましくなく、いろいろなことを考えるきっかけをくれる本でした。
2021年に読んだ本
ざーっと、2021年に読んだ本です。
仕事の昼休みにちょこちょこ読んでいるだけなので
冊数はあまり多くないのですが、
昨年からなるべくスマホを見るのをやめて
読書する時間を作るようにしています。
コロナ禍で予定外に転職することになって
自分のやりたいこと、仕事について
考える年になり、そういった本も読みました。
“仕事や生き方に関する本では
ヤマザキマリさんの『仕事にしばられない生き方』
がよかったです!
ブックオフの閉店セールで買った本だけど、
20代の頃に憧れていたイラストレーターで
若い頃の感性を思い出させてくれて
読みながらワクワクしました。
中山七里さんの『護られなかったものたちへ』。
コロナ禍もあり、世の中が目まぐるしく変化し
うまく適応できなくて生きていくのも大変になってきた現代社会。
この本は生活保護問題がテーマになっていて
読んでいて怖くなってくる…。
ほんとに考えさせられました。
【読書記録】『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』穂村弘 著
【読書記録】『第2図書係補佐』又吉直樹 著
又吉さんの本を初めて読んでみた。
又吉さん自身の経験など
おもしろエピソードを綴ったエッセイと
好きな本の紹介なのですが、
エッセイが9割本の紹介が1割という感じで
こんな書評の書き方もあるんですね。
自分の経験に絡めて、
自由な発想でさりげなく本の紹介をしてしまうって
簡単そうでなかなか難しそう。
ひとつひとつの出来事に対する感じ方の深さはさすがだなぁ。
又吉さんは国語の『便覧』(←懐かしい〜)
を辿ってたくさんの純文学を読んでいる。
巻末の作家の中村文則さんとの対談で興味深い話が
でてきた。
純文学をたくさん読んだ人っていうのは、
自分の内面に自然と海みたいなものが出来上がる。それは作家になるとかお笑い芸人になるとか、
もちろんそれ以外の職業の人達にとっても非常に素晴らしいもの。
つまりいろんな角度から物事を考えられるようになる。文学にも“ポリフォニー““多声性“というのがあり
作家は書きたい思想をまず書いて、
自分と正反対の意見もわざと書いて戦わせる。
つまり、いろんな考え方を自分の中に放り込む。
それができるといろんな考え方を取り入れたり、
いろんな人に憑依できる
そうだ。
おもしろいなぁと思った。