夫と山へ行く。
去年の夏にも義父の姉と散歩をしたが、その時夫は別件でおらず、私が撮った写真を見て「自分の故郷にこんな場所があるなんて知らなかった。一緒に行きたかった」と言った。
春節の時は多忙で余裕が無かったので、2人で向かうのは今回が初である。
道には大量に牛の糞が落ちている。
できるだけ上を目指して進むなか、途中で見つけたのが草木の陰の牛2頭。
頭だけ白く、体はチョコレート色の不思議な模様で、微動だもせず顔をこちらに向けている。
夫は写真を撮っている。
すると近くでチリンチリンと鈴を鳴らす音がした。
どこからともなくオバチャンが出てくる。
夫が「あなたが飼っている牛ですか?」と聞いた。
「そう」と答え、もう家に帰るところだと教えてくれる。
「何頭くらい飼ってるんですか?」
「40頭よ」
想像以上に多い…だからあの糞の量かと納得がいく。
オバチャンは、鈴を鳴らしながらまた奥の方に消えていった。
こちらを見つめていた牛2頭も、その音に釣られて賢くオバチャンの後ろを着いていく。
私たちは変わらず前へと進む。
10分ほどで、山の開けた場所に出た。
そこでビックリ…草を啄む牛の群れ。
オバチャンは40頭を飼っていると言っていたが、残りの38頭はここに居たかと思う。
お母さん牛と赤ちゃん牛もいた。
そのうち、私たちに気付いた牛の1頭が静かに静かに近づいて来る。
そしたら、また1頭…
もう1頭と…
あっという間に囲まれた!
赤ちゃん牛がいるから群れに警戒されたのかもしれない。
ビビる私に夫は「焦らず、目を合わせなかったら大丈夫」と言って、牛に背を向け、ポケットに入れておいたオレンジを食べ始める。
この状況でオヤツとは、私に相反する余裕っぷり…
オレンジに余計集まって来たらどうするんだ。
自分の夫ながら可笑しかった。
そして数分で人間観察に飽きた牛たちは、モーモー鳴いて去って行く。
夫は「丸腰の人間は本当に無力」と笑った。
突進されなくて良かった…と思う。
互角に戦うツノも甲羅もキバもなく、私たちが手に持つのはスマホとオレンジだけだから。
帰り道、あの牛も結局人が食うのかと思うとちょっと複雑。