ラリー・カルプによるGE解体の今後 (個別銘柄:米国株)

 初版 2021.08.20 (旧タイトル GE再建とコングロマリット経営の光と影)

1.世界有数の優良企業
 GEは、20世紀を代表する指折の巨大企業(コングロマリット)である。ダウ平均銘柄の当初からのメンバーで、1907年から2018年まで111年にわたってその座を維持していた。
 また、素晴らしい組織力と経営力は他の企業のお手本とされ、さまざまな教材に利用されている。そういう優良企業であるGEが、2018年に今までの評価を全て覆すような未曽有の危機に陥ってしまい、現時点でも再建中である。
ここでは投資家の視点で、コングロマリットの超優良企業の代名詞であるGEに何が起こったのか、そして投資家は何について気を付けなくてはいけないのかについて考察をしなければいけない。

2.ジャック・ウェルチによるGEの隆盛
 80年代前半にジャック・ウェルチは、GEのCEOに就任した。最初の5年間に10万人ほどの人材をレイオフして、事業の売却や清算を推し進めた。
その一方、「世界で1位か2位になれない事業からは撤退する」スタンスで企業の合併・買収(M&A)を繰返し、小型家電事業や半導体事業などの製造事業を売却する一方で、証券会社やリース会社、消費者金融会社、「NBC」などの放送会社を買収し、非製造業ビジネスの売上高を4割以上に高め、2000年には金融事業の中核である「GEキャピタル」の利益が会社全体の利益の52%を占めるまでに至った。
こうして、総合家電メーカーから世界有数のコングロマリットに転換させることになる。
売上高は、1981年からの20年間に272億ドル⇒1732億ドル、純利益は16億ドル⇒107億ドル、株価は4ドル⇒133ドル(株式分割(4回)を考慮)、株式時価総額は140億ドル⇒6010億ドルまで膨れ上げることに成功する。このようにして、経営の神様の名を欲しいままにする。

3.ジャック・ウェルチCEO交代と衰退の始まり
 ジャック・ウェルチの経営は神がかっていた。しかし、一流の製造業が一流の金融業も兼ねることのハードルの高さを次の経営者が直面し、GEの経営は水面下に逆回転する。
2001年、ジェフ・イメルトがGEの次CEOに就任する。世間は、ジャック・ウェルチの指名した後継者なら同等の成果を出してくれるだろうと期待をした。しかし、ジェフ・イメルトは、GE本来の出自でもある製造業をコア事業に位置付け、ビジネス競争力の強化に努めた。しかし、ジェフ・イメルトの改革は、恐竜のように巨大化した組織に対しあまりにも無力であった。
 改革の効果を得られないまま2008年のリーマン・ショックに遭遇し、利益の中核である金融事業が粉々になった。メリルリンチ、シティバンクやAIGなどの金融機関と同様に政府の支援に受けることになる。
 リーマン・ショック以降は、当初の標榜を実行すべくGEキャピタルやNBCを売却。アプライアンスや電球のようなレガシービジネスから撤退した。それと同時期にIOT等のシリコンバレー方式のハイテク路線に舵を切る。
 しかし、GE製造の本流であるエンジンやタービン事業は往年の競争力を失って業績は低迷の一途を辿った。投資家からGEの決算がわかりにくいとの悪評も出回るほど決算の化粧に苦慮した。株価は、S&P500が2001年~2017年に2倍以上に値上がりしたのと反するように29%下落し、2017年8月にジェフ・イメルトは退任する。

4.ダナハー元CEOラリー・カルプ招聘による事業再興
ジョン・フラナリーが次CEOに就任するとジェフ・イメルトが蓋をしていた様々な問題が浮上した。ジョン・フラナリーは、こういった負の側面にメスを入れるとともに、膨れあがった債務の整理及び非中核事業を売却することで、事業をコンパクトに縮小する方針を打ち立てたが一向に改善せず、株主はダナハー出身の名経営者であるラリー・カルプを招聘しGE再興を託すことになる。しかし、ラリー・カルプでさえGE再建は容易ではなかった。2020年のコロナ禍では、同業他社と比べ物にならない程に業績を悪化することで、GEの事業競争力の低さをあからさまに見せつけることになる。
それでも、金融事業を切り離すことで有利子負債に一区切りつけ財務を健全化させることに成功し、本丸である主要事業を三つにスピンオフすることで新たなる出発を果たすところまで漕ぎつけた。

5.コングロマリットの弊害
 コングロマリットはある意味、事業ポートフォリオにも似た経営で、複数の事業に対して相互に競いあわせながらプラスの相乗効果を生み出して会社の経営を安定させていく。ジャック・ウェルチの経営理念はコングロマリットに適合していた。
その一方、特定事業の競争力が低下したら容赦なく売却や分社化をして切り離さなければならない。コングロマリットの経営者は労働者の代表でなく、投資家視点の非情な経営が求められる。最も避けなければいけないこと、それは事業間で安易な支えあいが常態化し、甘えの構造が染みついてしまうことである。この安心感が事業の競争力を長期的に大きくそぎ落とすことになる。
  
6.投資家の迷走と最悪期からの脱却
GEは、つい最近まで、ジャック・ウェルチ、ジェフ・イメルトの経営に関する提灯記事のオンパレードだった。しかし、ジョン・フラナリーが大規模な経営改革に乗り出すと、提灯記事から辛辣な批評記事に様変わる。
ジェフ・イメルトの能力不足と言えばそれまでだが、ジェフ・イメルトの事業戦略は、専門家を唸らせる卓越した内容で、長きにわたって称賛を受けていた。投資家は、これらをどのように判断していけばよいのだろうか。ここに投資の難しさがある。
幸い、ラリーカルプによってGEは最悪期を脱したようだ。どんなに腐っても、GEの主力事業の技術力や人材が二流や三流であるはずがない。本当の試練がこれからであるが、GE事業の本当の力を発揮できるチャンスでもある。

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