1 2022年4月13日の東京高裁の判断

  大幸薬品の「クレベリン」という商品の一部について,消費者庁が措置命令(景表法7条1項)を出したところ,これに不服があるとして差し止めを求めた仮処分の事件について,東京高裁が同社の主張を認めない決定をしたとの報道がありました。

  2022年4月13日付 共同通信の記事「クレベリン広告,根拠否定 東京高裁,大幸薬品の主張認めず」


 ※裁判所のウェブサイトには,現時点では仮処分事件の即時抗告決定は掲載されていません。


 原審の東京地裁では,広告の根拠を認めていたとのことであり,どの点で判断がわかれたのか,景表法に関する判例として興味のあるところです。



2 景表法違反による措置命令

  前回の記事で,景品表示法に違反すると消費者庁から措置命令を出されることがあることをお話しました。


  


 第七条 内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
 当該違反行為をした事業者
 略
 略
 略
 内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。


3 大幸薬品に対する措置命令


  消費者庁の大幸薬品のクレベリンに関する措置命令はこちらのとおりです。


  消費者庁では,景表法7条2項に基づき,大幸薬品に対し,表示の合理的根拠の資料提出を求めたようですが,消費者庁はこれを合理的根拠とは認めなかったということです。

  同社は,一定の時期以降,いわゆる打ち消し表示を表示していましたが,消費者庁の判断としては,その打ち消し表示が,景表法違反を左右するものではないと判断しています(以下,引用)。

  前記アの表示について、消費者庁は、それぞれ、景品表示法第7条第2項の 規定に基づき、大幸薬品に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理 的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社から資料が提出された。しか し、当該資料はいずれも、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すもので あるとは認められないものであった。 なお、前記ア(ウ)の表示について、例えば、本件商品①について、平成30年 9月13日以降、商品パッケージにおいて、「ご利用環境により成分の広がりは異なります。」、「ウイルス・菌のすべてを除去できるものではありません。」 等と表示するなど、別表2「対象商品」欄記載の商品について、同表「表示期 間」欄記載の期間に、同表「表示媒体」欄記載の表示媒体において、同表「表 示内容」欄記載のとおり表示しているが、当該表示は、一般消費者が前記ア(ウ) の表示から受ける本件4商品の効果に関する認識を打ち消すものではない。

  東京地裁,東京高裁がこの点をどのように判断したのか知りたいところですが,とりあえず,表示(広告)については,当該表示についての合理的根拠がなければ打ち消し表示だけで,景表法違反を免れるものではないと考えるのが無難といえます。
 もちろん,製品・商品・サービスの性質などによってもその位置づけは異なってくるでしょうが,一般的な消費者向けの商品に関しては,打ち消し表示はあくまで補助的な効果しかもたないということです。
 これは,わたしたちのような一般的な消費者が,商品を購入するときに,いちいち打ち消し表示を子細に確認して判断しているわけではないという実態に照らせばそのような帰結になることは道理といえます。


4 景表法違反のリスクは大きい


 景表法違反として消費者庁の措置命令を受けると,課徴金納付命令にとどまらず当該商品のみならず事業自体(その他の製品)全般に対する評判の低下や品質への不信感,広告表示への疑念からくる買い控え(●●社の製品はやめておこう,という現象)など,大きなリスクが発生します。

 広告表示については,景表法だけでなく,その他の法律による規制(例えば,食品表示法,薬機法,特定商取引法,宅建業法など)がある場合があります。

 事前にその適法性を検討することが重要です。
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