イギリス新首相のリシ・スーナクさんとはどんな人?

イギリスでは大減税に対応する資金調達の行き詰まりがいきなり顕在化し、通貨価値を危うくした失政の責任を問われリズ・トラス首相が就任後僅か6週間余で辞任に追い込まれるという異常事態となりました。その後任首相となるべく保守党党首に選出されたのが、42歳のインド系移民2世であるリシ・スーナク氏で、彼はヒンドゥー教徒でもあり、まだまだ社会における階級・階層意識が強く残っているイギリスにおいてはまずまずのレア属性だと思ったのですが、それは全くの早合点でした。ご両親の職業は医師と薬局経営者ということなので、中流階級ど真ん中の雰囲気を感じますが、7年前に35歳で下院議員となる前は、ゴールドマン・サックスを経てTCIといった著名ヘッジファンドのパートナーを勤めるなど順調にキャリアを積まれており、ビジネスパーソンとしての成功で先ずは階級の壁を突き崩されたようです。更に、スタンフォード大学経営大学院在学中に、IT・ビジネスコンサルティングやアウトソーシング大手であるインフォシスの創業メンバーの一人で初代CEOとしてインド有数の実業家であるナラヤナ・ムルティ氏を父に持つアクタシャ・ムルティ氏と出会いその後に結婚するのですが、恐らくそちら側の財産が甚大な貢献をした結果、夫婦合わせての資産規模は日本円にすると1200億円超の7億ポンド越えで、どこからどう見ても圧倒的にリッチな上流階級に属されているお方ということを理解いたしました。移民ではありませんが日本でインド系というと、ソフトバンクグループの元副社長で孫正義氏の後継者最有力候補であったニケシュ・アローラ氏ぐらいしか思いつきませんが、以前このブログにも書いた通り、ビジネス界は勿論のこと、W.A.S.P.が隠然たる権力を維持しているアメリカ政界にさえ民主党のカマラ・ハリス副大統領や共和党で元国連大使のニッキー・ヘイリー氏、ヘイリー氏がサウスカロライナ州知事になる前はインド系唯一の州知事であり一瞬大統領選への立候補を表明したこともあるルイジアナ州のボビー・ジンダル氏など有力なインド系の政治家がおり、13億人という数の力を背景に今後優秀なインド系人材の様々な分野での台頭がどんどん顕著になるものと注目しております。全然関係無いですが、ノラ・ジョーンズ氏もインド系で、その父がインドで最も著名な音楽家であのビートルズにも多大な影響を与えたとされるラビ・シャンカル氏だと〈インド系〉で検索している最中に知りました(笑)。

さて本の話です。先ずはインドつながりということで、「マハラジャの葬列」(アビール・ムカジー著 早川書房)を紹介します。このブログでも書いた「カルカッタの殺人」(同)の続編にあたる本作は1920年にサンバルプール藩王国の皇太子がカルカッタで暗殺されるところから始まります。前作では大英帝国インド総督の下にインド固有のカースト社会が無理矢理に押し込められることによって生じる社会の複雑な重層性やその歪みが物語のテーマとして印象的に描かれましたが、本作ではそこに更に独自の社会体制と文化を有し、マハラジャ=大王による自治が半ば認められた藩王国を舞台にストーリーが展開するという一捻りが加わり、正にインド的な混沌が生み出す先の見えない物語の面白みが倍増する仕掛けとなっております。歴史ミステリーでもあるので、恐らく史実に忠実に表現されているであろう贅を極めた王族の生活、虎狩りや象による処刑の場面はなかなかエキゾチックで刺激的でした。妻を亡くした痛手から立ち直れず時にはアヘンに溺れるウィンダム警部とバラモンの家系に生まれながらオックスフォードに留学し刑事になるという異端のキャリアを歩むバネルジー部長刑事のバディは健在で、今回はウィンダムの混血美女への恋心が前面に出てバネルジーは脇役的な位置づけでしたが、本シリーズは第4作まで刊行されているとのことにて、彼の今後の活躍にも期待して続編も読んでいこうと思います。

「#真相をお話しします」(結城真一郎著 新潮社)は本屋大賞2023候補作入りが濃厚なミステリー短編集です。5作が収められていますが、いずれもどんでん返しが凝っていて、ただでは終わらないぞという著者の意気込みが感じられる秀作揃いでおすすめです。最初の「惨者面談」で、展開を見破った!と調子に乗せられた後にもうひと捻りされて著者の計略に引っ掛かった敗北感を感じるので、必然的にその後の4作を非常に注意深く読み進めさせられることになり、それでも結局騙されるというミステリー好きにはたまらない内容となっております。金次郎は「#拡散希望」がよく練られたプロットで伏線回収も心地よく気に入りました。

ここまで来たら全部ミステリーで良かろうと思い「犯罪小説家」(雫井脩介著 双葉社)を紹介します。新鋭作家である待居の出世作「凍て鶴」の映画化が決まり、その監督・脚本・主演に鬼才と称される小野川が名乗りを上げます。このオノミツこと小野川が自殺サイトである〈落花の会〉とその主催者のセンセーショナルな自殺を「凍て鶴」の主題と結びつけようと異常なまでの執着を見せる気持ち悪さに辟易としながらその背景が気になり始めるところが前半のクライマックスです(笑)。後半は心に闇を抱えるフリーライターの今泉が〈落花の会〉の謎に取りつかれ深みにはまっていく様子が不穏に描かれますが、犯人はやはりこいつかと薄々分かっているにも関わらず、ラストシーンの迫力は圧巻で最後にタイトルの意味を噛み締めつつ十分な満足感と共に本を閉じること請け合いの秀作です。雫井先生の作品ではミステリー要素は味付けに過ぎず、サスペンスの不穏さでぐんぐん引っ張っていく筆力が凄いと改めて感心しました。

「二重らせんのスイッチ」(辻堂ゆめ著 祥伝社)もミステリーです。真面目に生きてきたSEの雅樹が全く身に覚えの無い強盗殺人容疑で逮捕されてしまいます。自身の犯行を裏付ける防犯カメラ映像と現場に遺されたDNAに当惑する雅樹に更なる驚きの展開が待ち受けているのですが、ミステリーなので殆ど内容に触れられません(苦笑)。ただ、読みながら意識してしまう、〈単純なあのトリックなの?〉という懸念は100%裏切られ、大満足の読後感となること間違い無しのおすすめ作品です。

だらだらと長期休暇を過ごしてしまっておりますが、こんな時でないと着手できないと思って全部で1500ページぐらい有る宮部みゆき先生の「模倣犯」を読み始めてしまい休みのかなりの部分が潰れてしまいそうな気配です。

 


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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