全文
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2021/data/ko211201a1.pdf
図表
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2021/data/ko211201a2.pdf
記者会見
https://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2021/kk211202a.pdf

全文
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2021/data/ko211201a1.pdf より
2.経済・物価情勢
(1)経済情勢

(略)

以下では、最近の日本を含む世界経済に共通していると考えられる3つの特徴についてお話ししたいと思います。

第1の特徴は、サービス消費の底打ちと持ち直しです。これまでの新規感染者数の増加局面では、多くの国・地域において、人流抑制を目的とした公衆衛生上の措置が講じられたため、飲食・宿泊・娯楽等の対面型サービス業の多くが事実上の営業停止状態を余儀なくされました。しかし、ワクチン接種の進展等によって、それらの業種における営業活動は多くの場合は再開され、業況は持ち直しつつあります(図表2)。

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この点は経済にとって明るい材料といえますが、感染症の動向は不確実性が高い状況にあり、サービス消費がすぐにコロナ禍前の水準に戻ると考えるのは楽観的だと思われます。

(略)

第2の特徴は、企業の設備投資の積極化です。

(略)

わが国の視点では、設備投資は足もとまで持ち直しの動きをみせていますが(図表3)、先行きも設備投資需要が堅調を維持するならば、資本財の分野で高い国際競争力を有する製造業にビジネス機会をもたらし、企業の輸出や生産の拡大にも寄与するものと思われます。また、日本銀行が、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、強力な金融緩和を粘り強く続けていく局面にあることも、こうした新たな設備投資需要を支える一因になると思います。

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(略)

次にお話しする第3の特徴は、今後の経済情勢を考える上での懸念材料とも言えるもので、今後も注意深くみていく必要があると考えています。第3の特徴とは、経済における供給制約の影響です。昨年来、日本を含む世界経済は、様々な供給制約に直面してきました(図表4)。

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2020 年度後半頃からは、自動車用の半導体不足が大きな問題となってきました。コロナ禍で、当初、自動車販売が急減するもとで、世界の半導体メーカーは、比較的マージンが薄いと言われる自動車用の半導体の生産を抑制していました。一方で、自動車自体の需要は、コロナ禍で「人との接触機会をなるべく減らす」という人々の行動変容もあり、予想外の急激な増加を見せました。こうした中で、自動車用の半導体の供給不足が発生しました。その後、本年入り後には、自然災害や工場火災などの影響により、供給不足はさらに強まりました。

(略)

供給制約の影響は、予想外の需要の急拡大により深刻化したわけですが、港湾労働者における感染症の拡大に起因した港湾機能の低下による物流面での制約も影響しており、その背景は複雑です。
(2)物価情勢
(海外の動向)


次に物価情勢についてお話しします。このところ、米欧諸国では、インフレ率が中央銀行の目標値である2%を上回る状況が続いています(図表7)。

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このインフレ率の上昇には、先に述べた世界的な供給制約に加え、原油や天然ガスをはじめとするエネルギー価格の上昇等が影響していると考えられます。

(略)

米欧諸国のインフレ率の上昇については、需要・供給サイドともに、コロナ禍における一時的な要因が影響しており、それが中長期的な物価上昇圧力、例えば、中長期の予想インフレ率の上昇に波及していく可能性は小さいというのが米欧当局の現時点の中心的な見方となっています。
(わが国の動向、見通し)

わが国のインフレ率をみると、直近 10 月の全国消費者物価指数の前年比は、除く生鮮食品で+0.1%と、ゼロ%近傍の低位にとどまっています。この要因としては、4月に実施された携帯電話通信料の値下げ等の影響が大きいことが指摘できます。携帯電話通信料等の影響を除いてみれば、消費者物価の上昇率は、+1%台半ばの伸び率となっており、足もとではエネルギー価格の上昇もあって、その上昇ペースは速まっています(図表8)。

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私自身は、コロナ禍入り前は、わが国の物価の先行きについて、慎重な見方を持っていました。すなわち、わが国経済は、もはやデフレではない状況にはあるものの、相応のデフレ圧力は残っており、インフレ率はゼロ%近傍で推移するのではないかと考えていました。しかし、最近では、次に述べる幾つかの要因を踏まえて、物価上昇率が高まっていく可能性が高まったと考えています。

第1の要因は、企業の価格設定行動の変化です。コロナ禍において、企業、特に消費関連サービス業は、急激かつ大幅な需要減少に直面しましたが、過去の大幅な需要減少局面でみせたような激しい価格競争を今回は行わず、価格低下を小幅にとどめたり、価格を据え置いたりする行動をとっていると考えられます。これは、今回の需要減が公衆衛生上の措置という人為的な要因や感染症への警戒感によるものであり、企業経営者は、価格を下げても売上増加につながらないと判断したことが一因と推測されます。

(略)

また、コロナ禍が落ち着きつつある現在、企業が自社の財・サービスの価格を引き上げる動きを徐々に見せ始めています。コロナ禍をきっかけに、特に消費関連業種では、顧客ニーズの構造的な変化を見極め、過去に多くみられた「薄利多売」のビジネスモデルを転換し、高付加価値でマージンの厚いビジネスの展開を志向する先が増え、しかも売上を伸ばしている、という話も聞かれるようになりました。

(略)

第2の要因は、経済情勢のところで指摘した点とも重なりますが、企業の設備投資スタンスの積極化に裏打ちされる成長見通しの改善です。最近の企業の設備投資は、「資本ストック循環」(図表9)という観点からみると、将来の収益見通し、より専門的な言葉では「期待成長率」、の上方修正を伴った積極的なスタンスに変わってきている印象を受けます。

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(略)

第3の要因は、エネルギー価格が高止まりする可能性があることです。他国においてもエネルギー価格の上昇が足もとインフレ率上昇に大きく寄与していますが、日本においても、携帯電話通信料等の影響を除くベースでみた足もとのインフレ率の上昇の約半分はエネルギー価格の上昇によるものです。先行きのエネルギー価格は、不確実性があり、どこかのタイミングで反転し、インフレ率の低下要因になる可能性はあります。しかし、現在のエネルギー価格の上昇は、従来とは異なり、比較的長く持続する可能性も否定できないと考えています。
(ポストコロナの物価情勢の注目点)

以上のように、先行き物価上昇率が高まっていく可能性についてお話ししましたが、物価上昇が日本国民の大多数のみなさんにとって「良いインフレ」になるためには、賃金上昇率が高まっていくことが必要になると考えられます。現時点では、残念ながら、賃金上昇率が高まっていく動きはまだ明確にはみられていません。しかし、私としては、コロナ禍を通じた企業・家計の行動変容が、人々の「物価観」を変え、それを通じて企業による賃金設定にも、賃金の上昇に繋がり得る変化が生じる可能性に注目しています。
(3)為替相場の物価等への影響

このところ、為替相場の物価等への影響がメディア等で話題になっているため、その点についてお話したいと思います。

最近、円安の動きがわが国のインフレ率上昇に繋がることに関して、「悪い円安によるスタグフレーション」のリスクを指摘する声や、その流れを止めるために日本銀行は早急に金融政策の修正を図るべきであるとする声がメディア等で聞かれます。

スタグフレーションの定義は、論者によってまちまちではありますが、一般には、持続的なインフレ率の上昇と、景気の悪化が同時進行する現象を指すと思われます。

(略)

一般論としては、円安がわが国経済に与える影響は、様々な要素の相互作用の結果として決まり、その時々の内外の経済物価情勢によって変化し得ると言えると思われます。そう申し上げたうえで、私自身は、このところの為替相場の動きが、例えば、スタグフレーションに繋がるような「悪い円安」の状態にある、とは考えていません。むしろ、このところの円安は、日本企業の海外子会社の収益の増加や輸出企業の収益への寄与を通じて、企業の設備投資を下支えしたり、海外企業による日本での工場建設等の「企業立地」の検討を後押ししたり、わが国にとってプラスをもたらしている面があると思います。

なお、円相場は、中長期的なタイムスパンでみると、比較的狭いレンジ内で推移しているとみています(図表 11)。

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3.金融政策

(略)

コロナオペの来年4月以降の取り扱いについては、今後、日本銀行において、新型コロナウイルス感染症の動向や、それが企業金融面に及ぼす影響等を丹念に点検しながら、検討していくことになります。 そう申し上げたうえで、私自身が感染症への政策対応として意識すべきと考えている論点についてお話させて頂きます。

まずは、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、企業による事業の継続を支援する観点から、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる姿勢にあることを指摘しておきたいと思います。今後、もし、感染が再拡大し、公衆衛生上の措置を再び取らざるを得ない状況になった場合等には、企業の資金繰りを支える必要が生じる可能性があります。コロナオペのあり方は、感染症の動向に依存するところが大きく、その動向や企業金融面への影響を見極める必要があります。

一方で、コロナ禍の前から収益性が低く、将来的に債務返済が滞るリスクが高かった企業が延命しているのではないか、といういわゆる「ゾンビ企業論」の意見が、識者の間にあることも承知しております。仮にそれが現実に起きてしまうと、産業の新陳代謝、及び、新規開業などが阻害され、特に地域経済において、経済活性化の妨げになることが懸念されています。
記者会見は、割愛

小括

コロナ過前、コロナ過の認識の違いを説明されているが、ミクロ的な要因の方、民間の努力が大きいのではないかと思われる。これは、金融緩和の効果もないとは言えないだろうが、委員も、”一因になると思います。”と言っているように、良い想定外が起きていると考えている。

悪い円安は、予断は許されないが、識者が言うほど「悪い円安」になるとは言い切れないであろう。