「今やLPをかけるのって一つの儀式ですよね。取り扱い注意みたいな。時代の流れだと思ってます。」
大貫妙子は、2020年の雑誌「レコード・コレクターズ」で、旧譜が続々アナログ再発売される近年の状況について、そう語っている。
シティポップブームと言われて久しい今日この頃。大貫はその中心的人物として再評価著しいが、中でも77年の2ndアルバム「SUN SHOWER」の人気が凄まじい。
このアルバムは、当時隆盛だったフュージョン・サウンドを多分に意識し、参加アーティストが超豪華!
米フージョンの祖・クリスパーカーが全面参加。ギターに大村憲司、渡辺香津美、ベースに細野晴臣、後藤次利、キーボードに坂本龍一、コーラスに山下達郎…と、シティポップ創世記の最も旬な演奏が聴けるアルバムとして人気が高い。
そんな名盤に、大貫がそっと潜ませた不思議な曲が「くすりをたくさん」。
「薬をたくさん 選り取り見取り」「こんなにたくさん飲んだら終わり」「弱気になって諦めること」「とにかく薬が一番よ」と、医者にかかると必要以上に沢山の薬を処方されるのを皮肉った歌詞。
後にエコロジストとしても活動する大貫の自然志向の萌芽が感じられる曲だが、一聴すると「医療批判」のストレートなメッセージ性は薄い。
歌詞中には「弱気になって諦めること」「とにかく薬が一番よ」と、薬の摂取を推奨するようなフレーズも散見される。結果、この曲は薬飲みがOKなの?NGなの?…と不穏な気持ちにさせられる。パンキッシュな変拍子のリズムにやや投げやりな大貫のボーカルが伴い、もしやラリったドラァグクイーンの曲?とさえ思える。
病気で熱が出た時の心持ちを、そのまま不思議なサウンドと歌詞化。
「医療や薬とどう向き合うかは、あなた自身が考えましょう!」と、その是非は聴き手に託す…。そんな大貫のリスナーの突き放し方が、クールで素敵。
とかくサウンドばかりが話題になる「SUN SHOWER」だが、そんなター坊の歌詞の魔性を味わうのも一興。
作詞・作曲:大貫妙子
編曲:坂本龍一
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