真冬の虚構の駅舎に漂う、奥村チヨの絶妙な震え声!
日本の歌謡曲史上、最も寒い歌って何だろう…?
寒波厳しい極寒の2月は、ついそんな事を考えてしまいがち。(私だけ?)
吹雪の夜、連絡船で海峡を渡る、石川さゆりの「津軽海峡冬景色」。
夜汽車のデッキで風雪に見舞われる、吉幾三の「雪國」。
「ヒュルリ ヒュルリララ」と吹雪の音を歌う、森昌子の「越冬つばめ」。
昭和歌謡には、厳寒の冬を舞台にした聴くだけでシバれる歌が多々ある。
そんな中、やはり外せないのが奥村チヨの「終着駅」。
「終着駅」は、1971年12月リリースの奥村25枚目のシングル。
「落ち葉の舞い散る停車場は 悲しい女の吹きだまり」と、この歌の舞台はさいはての終着駅。
この駅がどこにあるのか、歌詞中では語られない。
この駅には「最終列車が着く度に」「今日もひとり 明日もひとり」、愛を失った女が「過去から逃げてくる」。幻想世界に存在する「駅」のごときファンタジックな描写が魅力。
「ちょっと映画音楽的なところがある。私はソフィア・ローレンの『ひまわり』を思い出しました。」奥村は、初めて聴いた時の印象をそう語っているが、たしかにこの曲は、ナポリ郊外の駅舎を想像して聴いても十分ハマる。
大きな鞄を抱え、続々と終着駅にたどり着く失意の女たちは「真冬に裸足」!
中島みゆき「悪女」しかり、失恋女性は悲しみ極まるとなぜか裸足で列車に乗る。
こんな虚構的な歌の世界観に説得力を与えているのが、奥村チヨのか細いボーカル。
65年のデビュー以来、和製ポップス、ベンチャーズ歌謡、お色気歌謡…と、様々な曲を歌ってきた奥村だが、その声にはどこか被虐的な香りが漂っていた。「恋の奴隷」はその声の被虐性で大ヒット。この「終着駅」でもこの声質が大いに生かされている。
冒頭からブレスする間のない淡々としたメロディーを、少し苦しげに歌う奥村の震え声には、裸足で冬の駅に降り立つ女性たちが見事に重なる。
真冬の夜、映画音楽のように聴きたい極寒歌謡の名曲。
「終着駅」
作詞:千家和也
作曲:浜圭介
編曲:横内章次
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