なぜ、雇用統計が予想より悪かったのに、円高が進まなかったのか?

【背景の解説(お詳しい方は読み飛ばして下さい)】

1)         コロナウイルスの流行により、景気が悪くなってしまったため、アメリカ政府(正確にはFRB)は、毎月、米国債や株を買って市場にお金を供給する金融政策を実施してきました。また、金利も下げました。金利が下がると、銀行に預金しても利子が付きませんし、安くお金を借りることもできるようになります。

2)         要は、景気が悪い
→政府が株を買ったり金利を下げたりして、市場に沢山お金を供給する
→人々が沢山お金を使う
→物が売れる
→景気を回復させる
という政策です。

3)         しかしながら、いつまでもこれを続けるのは良くないので、景気が十分に回復した時点で、毎月購入する額を減らし続ける予定です。これがテーパリング(量的緩和縮小)です。更に景気が回復すると、金利も上げる予定です。

4)         政府が毎月株を買い続けるが、買う量を減らす(テーパリング)
→金利を上げる
→これまで買った株を売る
という順番ですね。

5)         問題は、どの時点で購入する額を減らすか、です。これまで株を買っていた政府が、買う量を減らす、ということは株が下がる要因となりますので、上手に、タイミング良く減らしていかないと、一気に株価が下がって、再び景気が悪くなりかねません。

6)         この点、政府(FRB)は、雇用が順調に回復すれば、景気が回復している証拠なので、テーパリングを開始する、と示してきました。ここ数か月、雇用が順調に回復してきましたので、もし8月の雇用統計が良ければ、いよいよテーパリングが近づくだろう、ということで注目が集まっていました。

7)         しかしながら、8月の非農業部門の就業者数が235000人増にとどまり、市場予想の72万人を大幅に下回りました。本来であれば、これを受けて、米国の景気回復はまだ先が長く、テーパリングも難しくなった、金利が上がるのも難しくなった、ということでドル安円高が進んでもおかしくないはずです。しかしながら、昨日の終値は1ドル10970銭前後で、雇用統計発表前の10990銭台からあまり変わりませんでした。それは何故だろう、というのが以下の考察です。

【円高が進まなかった理由(考察)】

1)         雇用統計が、実は、そんなに悪くない

①.   失業率が5.4%から5.2%に改善している。5月頃には6%を超えていましたので、順調な回復を裏付けています。

②.   6月、7月の就業者数の増加幅があわせて約13万人上方修正されています。雇用統計は、月毎にバラツキがでるので、数か月分を平均してみた方が良いと思います。

③.   連邦政府が失業給付に州300ドル上乗せする特別加算が94日に切れます。逆に言えば、8月中までは貰えた訳で、9月の雇用統計は更に改善する可能性があります。

④.   こちらの記事Here’s where the jobs are — in one chart https://www.cnbc.com/2021/09/03/where-the-jobs-are-august-2021-chart.html も、今回の結果は、コロナが原因であって、経済そのものはそんなに悪くないのではないか、と指摘しています。

2)         ユーロが高い。何か問題が起きてドルが売られる際に、安全通貨として買われる可能性が高いのはユーロか円ですので、ドルとユーロの両方が売られると円高が進むパターンがあります。しかしながら、ここのところ、ユーロ圏の物価が上昇しており、欧州中央銀行がテーパリングを開始するのでは、という観測も高まっており、ユーロが上昇しています。ドル売りがあるとしても、円が受け皿になっていないと思います。

3)         菅首相の辞任。コロナ対策が上手くいかず、支持率が低迷した上での辞任ですので、海外の投資家からすると、しばらくは政治混乱が続くということで、円を買う気にならないのではないでしょうか。

 

色々、興味深いですね。皆様のご意見頂ければ幸いです。

Comments