Eat, Run, Play

「人が旅するのは到着するためではなく旅をするためである」byゲーテ。「到着」ではなく「旅」をする人生に憧れる日々

『環境社会学』(嘉田由希子,岩波書店)

2022-05-01 13:53:26 | Book review
 食事は、私たちが健康で文化的な生活を送るうえで欠かせないものだ。「パンさえあれば、たいていの悲しみには耐えられる。」とかつてセルバンテスが述べているし、生活に対する幸福度と「食」の楽しみ方の相関関係を聞くと、食事を楽しめる人程幸福度が高い傾向にあるというデータもある1)。わざわざ偉人の名言や統計を示すまでもなく、私たちの人生の中で食事は身体的にも精神的にも最も重要だと言える。
 それにも関わらず、近年の日本の食料自給率はカロリーベースで約40%まで下降している2)。戦後直後1946年度の日本の食料自給率は88%だったことと比較すると、衝撃的な数値である。つまり、現在私たちの食材のおよそ3分の2は海外からの輸入に頼っている状況といえる。主要先進国の穀物自給率を見ると、アメリカ138%、フランス198%、イギリス118%など2)となっており、日本との差は歴然である。
 このような状況を嘉田は、「遠い食べ物の増加」と表現している2)。遠いとは、地理的に遠いだけでなく、生産と消費の分離が進んでいることを表す。ここでは食料自給率を上げて再び「近い食べ物」をとっていくことが私たちの日々の生活においてなぜ必要か、そしてそのような状態にするためどのような対策が考えられるかを以下に記していくこととする。

 まずそもそも、なぜ私たちは国内の食料自給率を向上させていく必要があるのだろうか。
第一に、「食の安全保障」2)がある。たとえば、私たちが食料生産を頼っている国が自然災害に見舞われた際や、世界の人口が増えており今後安定的な供給が見込めないといった懸念があげられる。実際、近年では2020年1月にパスタなどの欠品やタマネギはじめ加工業務用野菜の輸入の停滞が発生した3)し、現在76億人の世界人口は、2030年までに86億人、2050年に98億人になるといわれている4)。
第二に、「環境資源の浪費」2)である。嘉田によれば特に水資源は顕著で、たとえば475万トンの大豆を生産するのに20億トンの水が必要である。また、NHKBS1「2030未来への分岐点 特別編 持続可能な未来のために」5)によれば、牛肉1kg生産に風呂77杯以上の水を要するとか、すでに地下水の枯渇が一部のアメリカの穀物農家で見られているという。
上記の2つの理由のほかにも、食生活の変化による生活習慣病増加に伴う医療費増加2)や、人体の健康よりも効率性を優先した遺伝子組み換え商品など、このまま将来にわたって「遠い食べ物」に頼り続けることは、将来的に私たちの生活に様々な影響が起こると言える。
では一体どうすれば、私たちの食べ物は「遠い」ものから「近い」ものへ変わっていくのだろうか。食料自給率の向上のため、特に教育現場において私たちができることを以下に記す。
 第一に、国産食品の利用や購入のPRが必要だと考える。まずは学校給食から始めてみることを提言したい。文科省によれば学校給食における国産食材は、約75%6) と比較的高いものの、地場産物については30%弱とまだまだ改善の余地があると言える。地元の農業者が子どもたちのためを思いながら丁寧に育てた作物を全国的にもっと学校給食で提供すれば、子どもたちは安全安心に新鮮なものを食べることができるし、地域に経済的な活気も生まれるだろう。同時に、学校給食がもっと改善されれば彼らは幼い頃から食糧自給率や、和食文化についても考える機会となる。また、そんな彼らが大人になれば、肉やパン中心の欧米化している日本人の食文化も少しずつ変わっていくのではないだろうか。
 第二に、授業や総合学習での活動の一環として、「プログラミング教育」と「スマート農業」を結びつけた企画の実施を提言したい。日本の食料自給率減少の一因として、高齢化による農業生産者の減少や、それに伴う耕作放棄地の増加があげられている。高齢化が進む農業の担い手の労力を軽減したり、増え続ける耕作放棄地を少人数で利用して収量を上げるために、既に民間レベルではドローン、ロボットなどによる農作業の省力化、AI技術が導入され始めている。これを「プログラミング教育」の一環として学校で体験することで、農業に対する生徒の見方が変化し、将来的に従事する割合が増えると考える。実際に、姫路市の学校のように上記のような授業で取り入れている学校がある7)。
 以上のことから、日本は今後自国の食料自給率を上げて以前のように再び「近い食べ物」を日々の生活でとっていくことが必要である。その実現には単に民間の政策や一人一人の意識変革だけでなく、教育の現場においても上記のような企画を取り入れてくことで、徐々に高まっていくことを期待したい。

参考資料
1)東京都の人は世界一不幸!? 食事を楽しめる人は幸福度が高いことが判明
https://news.mynavi.jp/article/20150927-a016/
2) 嘉田由希子,『環境社会学』, 岩波書店, 東京, 2002 pp.91-111
3)日本農業新聞 2021年7月11日 社説
https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/12152
4) 国際連合「世界人口予測・2017年改訂版 [United Nations (2017). World Population Prospects: The 2017 Revision.]」概要
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20170626
5) 「BS1スペシャル 2030未来への分岐点「特別編 持続可能な未来のために」」NHKBS1,2021年7月23日放送。
6) 学校給食における地場産物・国産食材の使用割合(平成30年度)
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2019/07/29/1419670-1_1.pdf
7) 子ども向けプログラミング教育に、農業ロボット「ファームボット」を活用
https://smartagri-jp.com/news/2452

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