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「人が旅するのは到着するためではなく旅をするためである」byゲーテ。「到着」ではなく「旅」をする人生に憧れる日々

鳥越皓之『環境社会学 生活者の立場から考える』

2022-05-01 13:59:51 | Book review
1. 環境問題について理解したこと
鳥越皓之『環境社会学 生活者の立場から考える』(2004)によれば、従来環境問題は大きく2つの考え方で解決策が講じられてきた。一つは「自然環境主義」(またはエコロジー論)とよばれ、人間の手の加わらない自然がもっとも望ましいと考える立場であり、主として自然生態学的な知識を中心とする考え方である。もう一つは、近代技術の進歩が環境問題を技術的に解決するという「近代技術主義」という考え方である。
しかし、この2つの考え方は日本における環境政策を考える際、必ずしも有効ではないという1)。たとえば「自然環境主義」においては、原生林がもっとも価値ある森林とみなされがちだが、日本においては知床半島や白神山地、屋久島のみに見られ、割合にすると日本国内の全森林の1%に充たないそうだ。
また、2つ目の考え方についてはそもそも近代技術こそが環境破壊をもたらしてきたので、環境分野においてはかなり信頼度が落ちるという1)。
 これら2つのアプローチに加えて、「環境保全」か「開発」といった二者択一論ではなく、地域の人たちの暮らしに目を向け、自然を「利用」しながら環境「保全」を目指す考え方が、「生活環境主義」と呼ばれる1)。特に日本では、山里に住む人たちが森林を生活の中で利用することによって、森林の破壊や崩壊を守ってきた歴史がある。鳥越によれば、日本人にとって山は決して「観賞用のもの」ではなく、「科学的な観察のためのもの」でもなかった1)。人びとはそこから燃料や田畑のための肥料、山菜などの食料、建材、門松のような象徴世界での利用物を持ち帰るというように多様なものをえてきた1)。さらに、水田や水路、ため池等の新たな水環境の創出 は、動植物の生息・生育環境をも増大させた。たとえば、嘉田によれば「琵琶湖では、稲作が始まった弥生時代以来、湖に暮らすコイやナマズなど多くの魚は産卵期になると水田に入り、産卵するという湖と水田の関係が長時間続いてきたと推測される」2) このように、「里山」は人びとによって適正に管理をされてきた場所であり、その結果、人びとの生活は保障されてきたし、生物多様性も高く維持されてきた。

2.私が考える里山生活推進策
 環境省によれば、「里山」は、特有の生物の生息・生育環境として、また食料や木材など自然資源の供給、良好な景観、文化の伝承の観点からも重要な役割がある3)。しかし、近年里山の多くは人口の減少や高齢化の進行、産業構造の変化により、里山林や野草地などの利用を通じた自然資源の循環が少なくなることで、大きな環境変化を受け、生物多様性は、質と量の両面から劣化が懸念されているという3)。環境面において様々な役割が期待される「里山」の再生をしていくにはどうすれば良いのか。単なる行政による整備で終わらず、私たち自身が普段の生活と両立させながら里山に関心を持ち、実際に森林に入るための提言を2点記載する。
まず、高校や中学校の修学旅行や大学のゼミ合宿などで、里山の民泊体験をするという案である。公益財団法人日本修学旅行協会によれば「中学校における修学旅行の内容は、歴史学習」が 41.5%で最も多く、次いで「芸術鑑賞・体験」が 10.4%、「平和学習」が 8.6%で、自然環境学習は6%程度にとどまる4)。つまり、他項目と比較するとまだまだ、伸びしろがあると言える。また、里山生活を体験できるプロジェクトは全国的に複数あり、たとえば私が2010年に参加したNPO法人「森は海の恋人」5)の活動では、「自然環境に最も大きな影響をもたらすのは、そこに住んでいる人々の生活に他ならない」という理念のもと毎年様々なプログラムを実施している。当時私は、毎晩美味しい牡蠣を頂きながら、地元の方に「牡蠣が採れるきれいな海にするには、森が不可欠」というお話を伺うことができた。知識をインプットしただけでなく、気仙沼の海の清掃活動や、植林や伐採を実際に行ったことで、里山生活に貢献できていると実感できたことも嬉しかったことを記憶している。このような取組を行うことは、若い世代への意識付けという観点だけでなく、里山体験を行う地域住民にとっても活気が生まれるだろうし、民泊による経済効果も期待できるといえる。
もう一つの案は、「都心と里山との二拠点生活」である。PEN(2021年9月号)6)によれば、近年働き方の変革により、平日は都内に住み、休日は里山にある家で過ごす人が増加しているという。東京と千葉県の南房総市との二拠点生活を送っている馬場氏によれば、「畑を始めれば採れたて野菜の桁違いな美味しさがすぐ分かる。海に近ければ新鮮な魚が日常の食卓にのる。お隣さんの親切に感謝したり、お裾分けに感動することも多い」という。このような形式であれば、普段の生活をしながら里山生活をも送ることができると思う。

3.まとめ
各国の経済がグローバル化し、地球上の様々な資源がこれまで以上に利用されることで、地球全体での資源の枯渇の恐れが高まっている。このような社会においては今後、嘉田が述べるような「遠いもの」ではなく「近いもの」の活用2)や、鳥越の言う「生活環境主義」1)の視点を意識し取り入れていくことは有効だと言える。それらの考え方が取り入れられた「里山生活」は今後推進されていくべきであり、そのためには上記で述べた2つの提言は有効であると推測される。

引用参考文献
1) 鳥越皓之『環境社会学 生活者の立場から考える』東京大学出版会,東京,2004,pp.66-73
2) 嘉田由希子,『環境社会学』, 岩波書店, 東京, 2002, pp.91-111
3) 環境省自然環境局 “里地里山の保全・活用”
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html
4) 公益財団法人日本修学旅行協会 “2019年度実施の国内修学旅行の実態とまとめ(中学校)<抜粋>
”https://jstb.or.jp/files/libs/3166/202106281518595201.pdf
5) NPO法人 森は海の恋人 “活動紹介 環境教育”
https://mori-umi.org/about/activity/activity_kankyo/
6) PEN 2021年9月号 “移住、多拠点、ワーケーション……新しい住みかの見つけ方”、CCCメディアハウス

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