心理学を体感できる漫画「学校のこども」あらすじと感想(ネタバレ)
秘密の共有は何より人を親密にさせる。これは由緒正しき女学院の外部生のみが知る「秘密」を“あなた”と共有する物語―。
ミステリアスな表紙絵が印象的な下待迎子さんの漫画、「学校のこども」をご紹介します。あらすじや感想を書くなかで、上巻のネタバレを含むことをご容赦ください。
「学校のこども」あらすじ
歴史ある女学院に隠された秘密が、複数のキャラの視点から明かされていくサスペンス群像劇。
学校の生徒の8割が金持ち令嬢の内部生で、のこり2割は貧乏な外部生である。お嬢さまたちにとって貧しい彼女たちは憂さ晴らしの的。学費免除と生活費の保証と引き換えに地獄のような日々が待っている。
しかし、ある秘密を外部生だけで共有することで結束力が生まれ、みんなで内部生のいじめに抵抗しはじめる。
その秘密とは、拾ってきた男の子を学院内でこっそり育てることだった―。
冒頭はなにも知らない転校生視点からはじまるなど、読者が物語に入り込みやすいように工夫されています。
「学校のこども」感想
ミステリアスな世界観に翻弄される
コマのいたるところに意味深な描写があったり、次のページでなにか起きそうなドキドキ感を味わえる。そんなミステリアスな雰囲気がこの作品の一番の魅力である。
冒頭の転校生のように、秘密を暴こうものなら逆に飲み込まれるかもしれない。まるで自分自身も、彼女たちと秘密を共有したような感覚になる作品。
過去への導入含め、場面の切り替えやキャラの心情の移り変わりを描くのもうまい。たった数コマなのに次巻の経過を感じる。それもまた、魅惑的に感じるところである。
人の心をコントロールできる策士
バラバラだった外部生を統率したのは、いじめられっ子のリザと、はみ出しもののジーノ。
みんなが団結できるように秘密を共有し、乗り気じゃない生徒には罪悪感と安心感を与え懐柔していく。状況把握ができ、心のコントロールがうますぎる。
1ページをまるまる使って、手を握りながら言葉巧みにそれっぽいことを語る技は、自身も作者に引き込まれていくかのようでゾッとすることだろう。とにかく読者の心をつかむのもうまい。
このふたりの策士によって作られた少年を育てる環境は、彼女たちがいなくなったあとも後輩へと引き継がれていくことになる。
上巻で描かれた7年間、誰ひとり裏切ることなく少年は学校で育ち美麗な青年へと成長していったのだった。
少年と少女たちの共依存関係
リザに拾われ旧女子寮で内密に育てられることになった少年は、実の母親にDVやネグレクトを受けていた。母の愛は恋人にそそがれていたようで、自分だけに向けられる愛に飢えている。
それゆえか、彼女たちにも自分をいちばんに想い、自分だけにキスして愛してくれるママを求める独占欲の強さを見せる。
どんなに酷く暴力をふるわれても自分だけ愛してくれるならいい。
その歪んだ思想が彼女たちの利害と一致している。少年は愛を。少女たちは希望を。それぞれが望むものを演じ、共依存でともに満たされる関係性を築きあげた。
彼女たちにとっては学園生活を送る数年間だが、少年にとっては長いようで、いつ終わるかもわからない不安定な状態である。そんな中で、まっすぐなままいられるのだろうか。
すっかり大人になった彼が見せるミステリアスさが、何を意味するのか気になるところである。
「学校のこども」詳細
さいごに
下待迎子さんの「学校のこども」をご紹介しました。
作中に登場するセリフ、「秘密の共有は何より人を親密にさせる」を作者と読者で実現したような作品です。下巻が読みたくなりますし、他の漫画ももっと読んでみたい気持ちにもなるはず。
調べたところ、歌舞伎座でNo.1になるホストもこの術を使うそうです。
“ここまでやってくれているのだから自分もやらなきゃ”と思わせることで、脳が相手を親しい人だと錯覚し、行動や態度が変化する。これをうまく利用すれば、相手を思うように誘導できるのだとか。
無意識のうちに心理学を体感させられているくらい、自然と寄りそう技術が詰まった1冊です。
上巻では過去にさかのぼり秘密が明らかになったあと、冒頭で転校生アビーが彼女たちの“こども”と出会ったシーンに戻ったところでおわりました。いったいどんな結末を迎えるのかは下巻をふくめの展開をおたのしみに。