司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

蒼ざめた修習生を見よ 〜事前課題篇〜

【読むとよいタイミング】修習開始前

 

 司法試験に合格した喜びも、うたかたの夢。いきなり希望もしていない実務修習地に飛ばされることになって、大量の資料が段ボールで送りつけられて、事前課題の提出が命じられる。就活もしなければならない。私も昨年の今ごろ、なかなかメンタルが削られていました。

「事前課題なんて提出さえすればOK」「ロースクールの友達に写させてもらった」みたいな話も聞きます。そういう方にとっては、どうでもいい話かもしれません。他方、司法修習生の知り合いが皆無で、ただただ不安を募らせているような方もいるのではないかと思います。

 というわけで今回の記事は、事前課題の思い出を少し紹介しつつ、「通読しておいたら気が楽になる白表紙」を紹介するのが目的です。

 ただ、そもそも事前課題の内容は機密情報ですし、75期の事前課題と76期以降の事前課題が同じとは限らないので、直接的には役に立たないかもしれません。以下、すべてにおいて「75期と同じであれば」という注記が必要なのですが、まあ、いちいち書いてはいません。あらかじめご了承ください。

 ちなみに、次回以降、修習中に読んだ一般書籍の中でオススメのものを紹介する「民事篇」「刑事篇」と、起案の注意点に関する「二回試験篇」を書こうかと考えています。途中で飽きたらすみません。

(pixabayからのイメージ画像)

目次

検察:『終局処分起案の考え方』(全69ページ)

 事前課題の中で最も重たいのが、検察だと思います。私は通算で11時間程度かかりました。

 検察起案は、良くも悪くも「起案の型」が決まっているので、とにかく覚えるしかありません。その他にも細かいルールがたくさんあるので、とにかく慣れるしかありません。実務修習中に作成する各種資料も、これらの「お作法」に拘束されるので、この機会に『考え方』を読んでおいて損はないです。

 なお、『検察講義案』という白表紙は、実務修習中の問研起案や集合修習中の即日起案でも持込みが可能です。どこにどんなことが書いてあるのかをパラパラ眺めておくといいと思います。ただし、書込みがあると持ち込めなくなるのでお気をつけください。

(2022/11/20追記)

 二回試験では、『検察講義案』のうち、一部(略語表、起訴状サンプル等)を抜粋した小冊子が配られました。

民裁【事実認定】:『事例で考える民事事実認定』(全119ページ)

 検察の次に重たかったのが、民事裁判。通算で9時間程度かかりました。

 事前課題に限らず、民裁の起案では事実認定と主張整理という2つの作業をしなければならないので、他の科目よりも負担が大きいです。二回試験でも、民裁で落ちる司法修習生が多いと聞きます。今のうちから勉強しておいても、無駄にはならないのではないでしょうか。

 まずは、事実認定について。『事例で考える民事事実認定』(通称:ジレカン)は、普通に本屋さんでも売っている本です。司法修習生以外がこのブログ記事を読んでいるとも思えないですが、大きい紀伊國屋さんにはだいたい置いてあるので、もし興味があったら見てみてください。

 ジレカンでは、民事裁判の事実認定の判断の枠組みが紹介されています。

① 直接証拠である類型的信用文書があり、その成立に争いがない

 → 特段の事情を検討

② 直接証拠である類型的信用文書があり、その成立に争いがある

 → 文書の成立の真正を検討

③ 類型的信用文書はないが、直接証拠である供述証拠がある

 → 供述の信用性を検討

④ 直接証拠がない

 → 間接事実を検討

 この4つは、今のうちに暗記しておいて損はないと思います。実務修習で裁判記録を読む際の「基礎」にもなりますし、起案ではほぼ必ず書かされます。

 そして、第二弾の紙爆弾では『学修用手引』なるプリントが送られてきます。これを74期以前の方がTwitterで「起案の型」として紹介しているのを見ました。個人的には、改行方法の美的感覚が合わないので「型」としては参考にしていませんが、起案に書くべき内容がわかる点でとても参考になります。

民裁【主張整理】:『新問題研究要件事実』(全146ページ)『紛争類型別の要件事実』(全154ページ)

 続いて、主張整理の話。すなわち、訴訟物とか要件事実の話です。好き嫌いがあると聞きますが、個人的には「パズルみたいで楽しいなあ」と思って勉強しています。

 主張整理の話は、事前課題との関係では必要ない話かもしれませんが、少しだけ白表紙の話をします。私は『新問題研究要件事実』(通称:新問研)を、予備試験の口述前に通読していました。この本も、大きい紀伊國屋さんにはだいたい置いてあります。

 新問研の内容だけでは心許ないですが、反対に、新問研の内容くらいは完璧に理解しておきたいところです。謎に文字が大きくて1時間くらいあれば通読できる量になっていますので、もし読んだことがなければぜひ通読しておくことを勧めます。

 もう1つ送られてくるのが『紛争類型別の要件事実』(通称:類型別)です。予備試験の口述前にこの本を読む受験生も多いと聞きます。私は口述前に『完全講義 民事裁判実務の基礎』(通称:大島本)のほうを通読していました。

 なので「類型別は読まなくていいかな〜」と思っていたのですが、最近、改心して読み始めました。コンパクトにまとめられていて、読みやすいです。副題にあるとおり、「攻撃防御方法の構造」が図でまとめられている部分が大変有益です。

刑裁:『刑事事実認定ガイド』(全51ページ)

 3番目に重たかったのが、刑事裁判。通算で6時間程度かかりました。

『刑事事実認定ガイド』では、事実認定に関する基本的な考え方(直接証拠型 or 間接事実型)のほか、供述の信用性を検討する際の着眼点が紹介されています。

① 他の証拠による裏付け・符合

② 知覚・記憶・表現の条件

③ 供述経過

④ 供述者の立場(利害関係)

⑤ 供述内容の自然性、具体性、迫真性等

⑥ 供述態度

 この6つは、今のうちに暗記しておいて損はないと思います。刑事系3科目で共通するものですし、実務修習でも指導担当から繰り返し問われました。

刑弁:『刑事弁護の手引き』(全26ページ)『みんなでつくるケース・セオリー』(全52ページ)

 刑事弁護は、事前課題がありません。弁護科目は実務修習中の問研起案もないですし、それだけで愛せますよね。

 ただ、もし余裕があるなら「ケース・セオリー」という言葉に対する抵抗感をなくしておいたほうがいいのではないかと感じます。なかなか捉えどころのない概念です。正解は“みんな”の心の中にしかないのではないか…と思えてしまいます。ちなみに私は「裁判官や裁判員を説得するための、わかりやすい物語」という風に理解しています。

 刑事弁護は白表紙以外の一般書籍で名著が充実していますから、それはまた別の記事で紹介しますね。

民弁:なし

 民事弁護は、執行・保全と和解に関する、ちょっとした事前課題があります。3時間程度で終わる内容でした。それぞれ対応した白表紙の記載を参照するだけなので、おそらく精神的にも負担はないと思います。

 民事弁護に関してもオススメの一般書籍がいろいろあるので、また別の記事で紹介しますね。

その他:司法修習ハンドブック(全29ページ)

 というわけで、資料の整理の時間も含めると、事前課題にかかった時間は通算30時間程度でした。多いような少ないような。

 先日、Twitterで「通読をオススメする白表紙」を紹介する際に、半分冗談のつもりで『司法修習ハンドブック』も載せてみたんですが、特に誰からもツッコミがありませんでした。まあ、欠席日数に関しては厳格なルールがあったりしますから、冗談抜きにルールを頭に入れておいたほうがいいかもしれません。

 そして、欠席日数も重要ですが、その他の罷免事由も重要です。特に、機密情報の取扱いについては、注意しても注意しすぎることはないでしょう。

 私も、今回の記事を書くうえで(書くかどうかを含めて)とても悩みました。まあ、機密情報に触れるようなことはしていませんし、「まじめに事前課題やろうぜ!」というテーマの記事なので、司法研修所から怒られるようなことはないのではないかと信じています。

 …なんて言いつつ、数日後には消している(あるいは、存在ごと消されている)かもしれません。ここまで読んでくださった方がいれば、私が二回試験前に罷免されないことを一緒に祈ってもらえるとありがたいです。