司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

司法修習生、受動態やめるってよ

【読むとよいタイミング】修習開始前〜修習終了まで

 

 75期の司法修習は、導入修習・集合修習ともオンライン形式でした。従来のアナログ修習では、和光の司法研修所に参集したクラスの仲間同士で起案をコピーして配ることによって、起案能力を高めていたらしいです。

 しかしまあ、オンライン形式だとなかなかそれも難しかろう…ということで、75期の場合、クラスの教官が、修習生60名程度の中から3~5通程度「参考起案」を選び、それをスキャンして配布してくれていました。

 教官によっては参考起案の配布がない科目もあったのですが、私の起案は、合計5回、参考起案に選んでもらいました。

どやっ

 そんなに選ばれたならば、多少ドヤ顔で文章術について語ってもバチが当たらないのでは…と思い、文章術に関する記事を書いてみることにしました(とはいえ、ジブン流の文章術を語ったりしないのでご安心ください)。

 以前、一般的な文章術に関する記事を恥ずかしげもなく書いてみましたが、今回は、法律文書に関する本の紹介です。修習中に読んだ本の中からオススメの4冊を、入手しやすい順に並べてみました。

article23.hatenablog.jp

(pixabayからのイメージ画像)

目次

『法律文書作成の基本』(入手困難度☆☆☆)

 まず紹介するのは、『法律文書作成の基本』(日本評論社)です。著者は元裁判官で弁護士の田中豊先生。有名な本なので、今さら私が紹介するまでもないかもしれません。実務修習地の小さな本屋さんにも置いてありました。

 この本が優れているところは、「法律文書作成」と銘打っておきながら、文章術に関する内容だけではなく、訴訟手続の流れを丁寧に解説している点です。訴訟手続どころか、法律相談の段階から解説が始まります。

 そして、訴状、答弁書準備書面、判決書…と、修習に直結する法律文書が取り上げられているため、修習中の起案にも直接役立ちます。実務修習の予習にも復習にもなるので、どこかの段階で読んでおくことをオススメします。

 ちなみにこの本、479ページもあってビビるかもしれませんが、最後のほうはサンプル(実際の起案例)なので、読むべき中身は実質375ページ分です。契約書作成のパートを除けば、301ページしかありません。読みやすい文章ですし、ビビらなくて大丈夫です。

 ただ、修習中の起案には直接関係しないかもしれませんが、契約書作成のパートも大変勉強になります。担保責任や無催告解除や損害賠償請求など、民法の復習にもなるので、余裕があれば375ページ分はぜひ…

『起案添削教室』(入手困難度★☆☆)

 次に紹介するのは、『弁護士はこう表現する 裁判官はここを見る 起案添削教室』(学陽書房)です。弁護修習先の事務所に置いてあったので、指導担当の先生にお借りして読みました。私の実務修習地の県内の本屋さんには1冊も在庫がなかったので、入手困難度は星1つ。

 この本は、タイトルからもわかるように、弁護士という「書く」立場から本文が書かれていて、1章ごとに、裁判官という「読む」立場からの補足コメントが加えられる形で進んでいきます。

「添削教室」と言うだけあって、NGな起案例と、それを改善した起案例も掲載されています。そのため、具体的なイメージがつかみやすく、自らの起案の改善にも活かしやすいです。ただ、私はそれ以上に、読み物として面白いと感じました。ふだんは水面下にある「裁判官の苦悩」を垣間見ることができる点も、貴重だと思います。

 また、この本は『法律文書作成の基本』と異なり、取り上げている文書の種類が独特です。例えば「刑事事件の被害者に送る手紙」「依頼者に対して辞任を申し出る際の書面」など、実用的(?)なチョイスになっています。そのような特徴も、読み物としての面白さを高めていると感じました。

『訴訟の心得』(入手困難度★★☆)

 以前にブログで紹介したことのある本ですが、なぜか“就職活動”というテーマの記事で紹介してしまったので、ここで改めて紹介します。企業法務の第一人者・中村直人先生が書いた『訴訟の心得』(中央経済社)です。

 この本は2022年4月時点で「出版社在庫切れ」となってしまっていました。幸いにも電子書籍化されていたので、私はkindle版で読みました。

 そもそもこの本は文章術について書かれた本ではありません。起案について書かれているのは、全8章のうち、1章分だけです。すみません。

 それでもあえて勧めているのは、私が中村直人先生の本のファンだから…というだけでなく、この本で学んだ事実認定の考え方や、証拠の使い方、事件のストーリーの捉え方が、修習中の起案に役立ったと感じているからです。

 まあ、そうじゃなくでも、中村直人先生の文章を読むこと自体が一番の文章術の勉強になるのではないか……なんて言い始めたら何でもアリになってしまいますね。すみません。

『訴訟に勝つ実践的文章術』(入手困難度★★★)

 最後に紹介するのは、『訴訟に勝つ実践的文章術』(日本評論社)です。アメリカの訴訟弁護士が書いた本を、日本の弁護士が翻訳したものです。

 私はこの本を裁判所の資料室で見つけました。内容がすばらしかったので購入しようと思ったものの、新品での購入ができず、電子書籍にもなっていませんでした。やむなく、私は中古で購入しました…

 …が、先日、司法研修所敷地内にある至誠堂書店で1冊だけ在庫があるのを発見しました!

 75期の場合、二回試験期間中しか司法研修所に立ち入れず、しかも書店が試験時間中しか営業していないため、「二回試験を途中退室しない限り入店できない」という過酷な条件付きでした。RPGの隠れ里にある武器ショップでしか買えない幻のアイテムみたいですよね。

 この本には、まさに文章術、具体的なテクニックが多数紹介されています。「受動態ではなく能動態で書く」「事実から議論を組み立てる」「仮定的な議論をしない」「同じ内容を指すには同じ言葉を用いる」などなど、すぐに使いたくなるテクニック満載です。

 ただし、原著は20年以上前に海外で書かれたものなので、さすがに令和の世の中では通用しないテクニックも載っています。まあ、そういう歴史的記述も含めて、最後まで楽しく読める内容になっていると個人的には思います。

「悪い文章」で書いた雑談

 結局、良い文章って何なんでしょう?

 だいたいどの本にも共通して書かれていたのは「一義的な文章」です。そのための手段として「短い文章」が推奨されていました。「主語と述語をハッキリさせる」というのも、文章を一義的にする手段です。

 ところで、日本語には「正反対の2つの意味を持つ言葉」が存在します。「適当」という言葉には、「適切」という意味と、その正反対の「いいかげん」という意味があります。デートに誘った相手から「大丈夫!」と言われても、「OKです」という意味なのか、正反対の「遠慮しておきます」という意味なのか、正しく読み取らなくてはいけません。最近の言葉だと、「ヤバい」なんかも、正反対の意味を持ちます。

 こういう種類の言葉は、正しいコミュニケーションを阻害するだけなので、淘汰されて無くなってもおかしくないですよね。しかし、世界中、どの言語にも存在するそうです。もちろん、社会を成り立たせるために必要な機能があるからです。

 はたして、どんな機能があるのか?…なんて語り出すと長くなるのでやめておきますが、文学的に優れた文章とは、こうした多義的な言葉を上手に使いこなす文章だと考えています。そうでなければ、何万人もの共感を得られるような物語は書けません。

 他方、法律文書では、共感を得ることよりも、まずは情報が正しく伝わることのほうが優先されます。そう考えると「文学部的な良い文章≒法学部的な悪い文章」「文学部的な悪い文章≒法学部的な良い文章」なんて等式が成り立つのではないか…と思えてきました。

 おそらく文学部出身(あるいは小説好き・評論好き)の方には、自分の書く文章に意識的な方が多いと思います。「文学部出身だから法律の論文式試験は不利なんじゃないか?」と考えている方がいたら、そんなことない、むしろ強みになるかもしれない、ということを伝えたいです。

 …いいかげん(これも正反対の意味を持つ言葉ですね)、長くて何が言いたいかわからない「悪い文章」になってきましたね。この辺でやめておきます。