【読むとよいタイミング】修習開始前〜修習終了まで
弁護士登録をして3週間ほどが経過しました。このブログは今後どうしようかな〜などと考えないこともないのですが、とりあえず「修習中に読んだ本を紹介する」シリーズを終わらせるまでは続けます。
まずは刑事系科目です。
地域ごとに異なるらしいのですが、私が実務修習をした土地では「新人でもいきなり1人で国選弁護人を担当させられる」と聞いていました。ビビりますよね。
どこで弁護士登録するかはさておき、民事事件よりも刑事事件のほうが独り立ちさせられるのが早いことは間違いなさそうです。なので、刑事系科目は、危機感を持って、比較的まじめに勉強していました。
コンメンタールや書式集など、修習中に参照した本はたくさんあるのですが、とりあえず、通読した本に限定して紹介しようと思います。
目次
- 『刑事弁護の基礎知識』
- 『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』
- 余談:添削するなら刑事系科目で
- 『刑事事実認定重要判決50選』
- 『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典』
- 『九条の大罪』
- 『なんで、「あんな奴ら」の弁護ができるのか?』
『刑事弁護の基礎知識』
まずは『刑事弁護の基礎知識』(有斐閣)です。Twitter上で「この本を白表紙にして配るべき」という意見を見たことがあります。私も同感です。重要な基礎知識はひと通り書いてあります。
起訴前の弁護活動から公判活動まで、条文や判例の知識が網羅的に解説されているので、裁判官や検察を志望する修習生も読んでおいて損はないと思います。また、後に触れる「量刑」についても、厚く解説されています。
ただ、個人的には、冒頭部分の「弁護士倫理」(刑事弁護人倫理?)のパートが最も読む価値のある内容だと思いました。共感できるかどうかはともかく、刑事弁護に携わっている方々がどんな思考をするのかを知っておくことが、集合修習の起案や二回試験の起案に直接役立ちます。
『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』
学習意欲を削ぐようなことを言って恐縮ですが、「二回試験を乗り切る」という観点からは、受験生の頃に勉強した刑法や刑事訴訟法、刑事実務基礎科目の知識だけで十分間に合うと思わなくもないです。事実認定も、民事系科目ほど複雑ではありません。
ただし、受験生の頃に唯一勉強していない領域が「量刑」です。
勉強していないにもかかわらず、実務上は最も重要と言っても過言ではありません。1人の人間の今後の人生を決めるわけですから、当然です。
実務修習中、裁判所でも検察庁でも弁護士事務所でも、指導担当から「この事件、何年だと思う?」と聞かれました。「執行猶予はつくと思う?」「起訴されると思う?」などのバリエーションもあります。最初のうちは全く何も答えられなくて焦りました。
前置きが長くなりましたが、量刑を学ぶために一番役立ったのが『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』(法曹会)です。
私が勝手にこの本をパート分けすると、①量刑判断の考え方、②今後の判決書に対する提言、③死刑、の3つに分かれます。このうち、②と③は読み物として面白いですが、修習には役立たないかもしれません。
①パートでは、量刑の判断枠組みと、量刑を決める上での着眼点が網羅的にわかりやすく解説されています。残念ながら、読んだからって具体的に「懲役12年だと思います!」などと答えられるようになるわけではありません。ですが、少なくとも指導担当のみなさんと量刑について議論できるようになるはず。
余談:添削するなら刑事系科目で
さっき書いたことを少し補足します。二回試験の話です。
細かい例外はありますが、おおむね、刑事裁判の小問では、勾留・保釈や刑事裁判手続の知識が問われます。検察の小問では、捜査やら伝聞やら幅広く問われますが、判例の知識が中心です。刑事弁護の小問では、弁護士倫理と量刑が問われます。
他方、民事系科目は事情が異なります。民事裁判の小問では、実務的な民事裁判手続の知識が問われます。そして民事弁護の小問は、①執行・保全、②和解、③証拠収集の3本柱です。執行・保全は予備試験レベルの知識では不十分ですし、和解も証拠収集も修習で初めて学ぶ知識です。残念ながら、新たに勉強するしかありません。
というわけで、結局何が言いたかったかというと、「添削のアルバイトをするなら、刑事系科目がオススメ!」という話です。日常的に記憶喚起しておくと、二回試験前に慌てて復習する必要がなくなります。
ちなみに私は検察修習の即日起案で、その前週に添削した問題の事案と、素材となった判例が全く同じ事案が出たことがあります。「これ、進研ゼミでやった問題だ!」状態で起案することができました。
『刑事事実認定重要判決50選』
さて、通読したまじめな本は、さっきの2冊だけです。ふざけた話に行く前に、もう1冊だけまじめな本を紹介しておきます。「通読した本を紹介する」と宣言しておきながら半分も読まなかった本を紹介するのは憚られますが、『刑事事実認定重要判決50選』(立花書房)です。
この本は、テーマごとに裁判例を取り上げながら「判断枠組み(規範)」と「法的評価(当てはめ)」が紹介されています。
私のクラスの検察教官は、集合修習の講義で「みんな、読んでいて当然だよね!」と言い放っていました。実際、検察志望の同期はきちんと通読していたようです。集合修習の起案の出来が突き抜けていました。
さすがに私は通読しませんでしたが、「殺意」とか「急迫性」とか「共謀」とか「供述の信用性」とか「犯人性の総合評価」とか、修習中の起案も直接役立つテーマもあるので、その辺は志望に関係なく読んでおいたらいいと感じました。
『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典』
さて、ここまでは修習に役立つ本の話でした。ここから先は、正直、修習には役立たない本を紹介します。まずは『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典』(現代人文社)です。
書名には「刑事弁護人のための」と付されていますが、本来読むべきは検察官志望の修習生じゃないかと思っています。まあ、こんな本を読まなくても1年目で自然に学べてしまうのかもしれませんが…
「にんべん」「ごんべん」「ゆみへん」「さんずい」…それぞれ何の犯罪を指しているかわかりますか? 実務修習中、供述調書とかを読んでいると、意外と遭遇します。知らなくても問題ありませんが、知っていると、記録を読むのが少し楽しくなるかもしれません。
まあ、修習とか関係なく、もし「裏社会もの」の小説とか漫画とか映画が好きだったら、解説を読んでいるだけで楽しいと思います。不謹慎ですが、個人的には「寝る子は育つ」の解説が一番笑いました。
『九条の大罪』
さて、裏社会ものの漫画と言えば、『闇金ウシジマくん』。その作者の最新作が『九条の大罪』(小学館)です。
主人公の九条間人は、反社などの「裏社会の住人」を主な顧客とする弁護士。父が大物弁護士、兄はエリート検事、本人も凄腕の弁護士です。九条の事務所には、大手弁護士事務所から移籍してきた若手イソ弁も在籍。九条のもとには様々なトラブルを抱えた依頼者が訪れて来て……と、もうこの設定だけでわくわくしてきますね。
2022年12月現在、7巻まで発売しています。6巻まで母に貸したところ、母がハマってしまい、最新刊も母が買い足したらしいので、私はまだ読んでいません。
九条弁護士の主な顧客は裏社会の住人。なので、接見室でヤクザ屋さんから「先生、ちょっとスマホ貸して?」と言われた時の対処法が学べたりします。
そういった実践的知識が学べるのも良いんですが、そもそも「なんで、悪人の弁護ができるのか?」という問いを考える良いきっかけになるような気がします。
例えば、最近の6巻では、九条弁護士と嵐山警察官の次のようなやりとりが出てきます。
九条:弁護士が守ってるのは悪人ではない。手続きを守っている。
嵐山:手続きだと? どうゆう意味だ。
九条:あんたら警察には理解されないだろうが、適正な刑事手続きを進めてる。
嵐山:反社の犬が詭弁並べやがって。
本当はこれに続くセリフのほうが好きなんですが、重要なネタバレを含んでいるので書かないでおきます(悪質な誘導広告みたいですね。すみません)。
『なんで、「あんな奴ら」の弁護ができるのか?』
私は心が狭いので、ルールを守らない人間が苦手です。他人に迷惑をかけるような人間は( 自主規制 )だと本心では思っています。
しかし、諸般の事情から、仕事としては刑事事件にも携わりたいと思っています。なので、実際に仕事をし始めたらおそらく葛藤を抱えるに違いない…
というわけで、二回試験直後から『なんで、「あんな奴ら」の弁護ができるのか?』(現代人文社)を読み始めました。アメリカで刑事裁判に長年携わってきた方々がオムニバス形式で書いたエッセイ集のようなものです。
できれば「この本を読んでスッキリしました!」と言いたいところですが、すみません、実はまだ半分くらいしか読んでいません。意外と刑事事件に携わるのはもう少し先の話のようなので、今は慌てて交通事故処理や破産処理などを勉強しています。
冒頭で「通読した本を紹介する」と宣言しておきながら、読みかけの本を紹介するのは大変恐縮ですが、ぴったりのテーマだったことと、今のところ良い本だと思ったので紹介させてもらいました。
読み終えたらTwitterとかで感想を書くかもしれません。
期せずして大晦日の更新となってしまいました。こんな日に最後まで読んでくださった方がいたら、ありがとうございました。
2022年は個人的に大変な一年でした。2023年は健康に恵まれ、皆様にとっても素敵な一年となることを祈っています。