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獣医師が治療を開始するまでの考え方

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動物病院には、日々様々な症例が来院します。

その際には、限られた時間で検査や診断、治療を行う必要があります。

この記事では、獣医師が治療を開始するまでの検査や診断、治療のながれをお伝えいたします。

獣医師により考え方は様々だと思われますが、一例として読んでみるようにしてください。

目次

動物の来院

まずは、動物が来院するところより始まります。

稟告は様々であり、

  • 数日間、下痢をしている
  • 朝から吐いている
  • なんとなく元気や食欲がない
  • 散歩後から足を痛がる
  • 別の病院で○○といわれたがどうなのか?(セカンドオピニオン)

…など一つとして同じものはありません。

また、飼い主さんによっても、とらえ方や伝え方は異なります。

動物の状態をよく見ており、事細かに説明する飼い主さんもいらっしゃいますし、状態を全く把握していない方が連れてこられる場合もあります。

このときに大切なことは、『緊急性があるのかどうか?(詳しい検査をするべきなのかどうか?)』を瞬時に判断することです。

緊急性のある動物の場合には、預かって検査や治療をする必要がありますし、そうではない場合には薬を処方して家にて様子をみてもらうようになるからです。

正確な診断のためには、飼い主さんの稟告と合わせて、視診や触診が重要となります。

具体的には、

  • 顔つきや動きはどうか?
  • 脱水や被毛の状態
  • 熱はあるのか?
  • よだれや耳垢・においの状態
  • リンパ節の腫脹

…などを瞬時に診ていく必要があります。

検査・診断を行う

診察室における視診や触診にて状態がよくないと判断された場合、また、飼い主さんが希望した場合には、預かりにて検査を行うようになります。

ひとえに検査といっても、『どこまで詳しく行うか?』は獣医師の経験とさじ加減によります。

例えば、吐いているという稟告にて来院された場合、元気や食欲があるときには、簡易的に胃腸の状態をエコーにて検査するのみかもしれません。

一方で、元気や食欲がない、嘔吐が数日前より続いている、下痢をともっている…などの場合には、エコー検査をより詳細に行うことや血液検査・レントゲン検査などの他の検査も組み合わせて総合的に判断する必要もあるかもしれません。

院内にて行う検査にて診断がつかない場合には、飼い主さんと相談をして、外注検査やさらなる検査(CT検査やMRI検査など)を行う場合もあります。

治療を行う

診断がついたのなら、治療を行うようになります。

治療の内容も、症例や重症度、また獣医師それぞれの見立てや考え方により大いに異なります。

例えば、軽度の嘔吐であり、自宅にて治療をしようと思う動物がいた場合、出す薬は獣医師や動物病院によって異なります。

『おなかの薬を出しますね!』と言っても、

  • H₂受容体阻害薬(シメチジン、ファモチジンなど)
  • プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾールなど)
  • 消化管運動改善薬(メトクロプラミド、モサプリドなど)
  • 制吐薬(マロピタントなど)

…など、『何をどれくらい、どういった投与経路で、何日間処方するのか?』は獣医師によって異なります。

また、診察にて補液や注射をするかどうかの見極め、再診をかけるかどうか?もそれぞれではあります。

動物の年齢や金銭的な問題もあるため、妥協案を含め、飼い主さんと相談して決めることも多いです。

例えば、16歳のミニチュアダックスフンドの脾臓に腫瘍があった場合、獣医学的には摘出すべきではありますが、年齢を考えたときに、必ずしも手術が正解とは限りません。

猫伝染性腹膜炎(FIP)は治癒の可能性が出てきた病気ではありますが、治療には百万単位の費用がかかることもあります。

『通院できるかどうか?』も話し合うべきことです。

例えば、腎臓病で皮下補液が必要な症例において、『毎日通うのか?それとも自宅でできるのかどうか?』は考える必要があります。

自宅で行う場合においても、威嚇してくる動物や単身で飼育しているときには、飼い主さんが自宅にてできないことも考慮しなくてはいけません。

まとめ


獣医師が治療を開始するまでのながれや考え方は、獣医師や症例によって様々です。

正解はありませんが、動物の状態を把握しつつ、早期の治癒に努めるようになります。

参考資料
・桃井康行,小動物の治療薬,第3版,文永堂出版,2021
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