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小説 風俗で働いているけど、何か-③

2022-05-23 07:36:00 | 小説
参.前へ前へ
 
「アキラさん、どうですか、私を男性として相手することできました」
「はい、やっぱ、女性の身体の柔らかさと曲線は興奮できました。でも、サヤカさんだったからじゃないかな、俺の緊張を和らげるのがとても上手かった。」
「うん、どうしても仕事なので、演じる、ってことは多少なりともあったと思いますが、アキラさんのフェザータッチ良かったですよ、このタッチは武器になるんじゃないでしょうか」
「そうですか、それは良かった」
 
 沙弥とアキラのプレイがひと段落ついて、二人は意見交換した。
 
「あっ、そうか、色々、今みたいにお互い意見を言い合えばいいのか」
 
 アキラは閃いた。
 
「そうそう、お話し合うこと大切だと思います、うん、少し違和感を感じたことが二回程ありましたけど、男性、アキラ、さんに攻められるのに夢中になってると、〝当たらない〟なんて感じちゃいました」
「やっぱりそうか、陰茎を作るのが金かかるんですよ、尿道を長くする手術もしないといけないから」
「お金かかるんですね、まぁ、先ずは話し合いです、お互い理解し合えるように」
 
 アキラはその後、沙弥のホンシになった。そして、沙弥は茉莉花オーナーにこのことを告げ、ジェンダーレスのお客さんの受け入れやキャストの対応法を検討した結果、そのような人たちを集客することが増えた。
 
 一方、特別ボーナスを沙弥がもらった後は、沙弥にリスペクトするキャストと僻むキャストとに二分した。
 
「ねぇ、オーナーとサヤカって二人でよく話ししてるよね」
「ほんと、何なのあの女、良い子ちゃんぶって」
「あとねぇ、オナベさんとかレズビアンも客にしてるみたい、ううう、気持ち悪い」
 
 沙弥を僻むキャストたちはこんな陰口をいうことが多くなった。
 そんな裏を、キャストを送迎する運転手から茉莉花オーナーへ筒抜けだった。その運転手、実は茉莉花の兄、安孝《やすたか》だった。
 
「茉莉花、サヤカさんのホンシになってくれたFTM(female to male)のアキラさんだけど、電話口でサヤカさんにはそうだけど、俺にまでお礼を言って下さるんだ、びっくりしたよ」
「サヤカからも聞いたけど、アキラさんって方、良い感じね」
 
 茉莉花は確信した。サヤカの働きの素晴らしさと、性的マイノリティーの人たちの中には、自覚していた本来の性別へ、心身共に替えることができたとしても、その後の人生に対しての不安や悩みを持つことがあることを。
 
「サヤカ、ホンシのアキラさん、どう?」
「どうと仰るのは?」
「二週に一回くらいのペースでいらしてくれてるみたいだけど、落ち着いてきたの、心の状態とか、生活とか」
 
 茉莉花は、それとなく聞いてみた。
 
「はい、だいぶ明るくなりましたよ、でも、陰茎を作る手術を受けたい気持ちが強くなってきたって、最近は仰ってますよ、そろそろ、仕事一本に専念しようかって、勿論、私はその方向を勧めてます」
「陰茎形成術は一番お金かかるって聞くからね、大変だね」
 
 沙弥は素直にアキラの向かいたい道を後押ししているようだ。
 それを聞いて茉莉花は、これまでにない行動を起こすこととなった。アキラが予約の電話をしてくる頃合いに合わせて、店にいる時間を増やし、電話対応を試みたのだった。
 
「お電話ありがとうございます、〝秘密の花ビラ〟でございます、大変申し訳ございませんが、本日出勤しておりますキャストの枠は全て埋まっておりまして、明日以降ですと空きがあるのですが」
「はい、明日の予約を取りたいのですが、サヤカさんの枠は空きがありますでしょうか」
「少々お待ち下さい」
 
 茉莉花は電話口がアキラであることを期待し、沙弥のスケジュールの確認をした。少々、緊張が高まり、慌てずに電話対応しようと心がけた。
 
「お待たせ致しました、明日でしたら、一四時からの枠と、二三時からの枠に空きがありますが」
 
 アキラは一四時からの枠を選び、いつも通り、一二〇分コースを選び、茉莉花は予約名と連絡用の電話番号を確認した。案の定、アキラだった。
 
「アキラ様でございましたか、日頃より私共のサヤカをご指名して頂きましてありがとうございます、私、オーナーの茉莉花と申します、一度は私が直接お電話に出てお礼を申し上げたいと思っておりました、お電話、もう少しお時間宜しいでしょうか」
「はい、大丈夫です、わざわざお礼なんて、サヤカさんとはいつも楽しい時間を過ごさせてもらってて、こちらこそ、ありがとうございます」
「いえいえ、とんでもございません、毎度ありがとうございます、大変申し訳ございませんが、オーナーとしての仕事で、定期的にキャストとは面談をしておりまして、サヤカからはアキラ様がいつもご丁寧になさっていて、ありがたいと申しております、当店はアキラ様のようなお客様へお食事に招待するということをしておりまして、私とですが、いかがでしょうか」
「えっ、そんなことを、えっ」
 
 アキラは戸惑ってしまった。
 
「そう申しましても、高級な飲食店ではないのですが、完全個室でですね、キャストの評価をお聞きしたいのでございます、そして、今後のサービスへ活かせたらと考えております、まぁ、ご無理は申し上げませんが、お礼を兼ねて、私共のサービスの質を向上にご協力頂ければと考えております」
 
 茉莉花は恩つけがましく思われないように話した。
 
「あぁ、いいんですか、ご馳走になるなんて」
「はい、私共は店舗を簡単に広げる方針ではなくて、質を重視しておりますもので」
「なるほど、分かりました、だからサヤカさんのような女性が、何だかオーナーさんのお顔も見たくなってきました、じゃあ、お言葉に甘えて」
 
 アキラは納得し、更には、沙弥以外の女性と性行為への考えを聞いてみたいことに興味が沸いてきたことも相まって、茉莉花の誘いを受けることにした。
 この会食は、沙弥との時間を終えて、ホテルから車で一〇分くらい離れた所にある割烹ですることになった。
 
「サヤカさん、この後、オーナーさん、茉莉花さんだよね、ご飯ご馳走してくれるみたいなんだ、聞いてる?」
 
 アキラは沙弥とホテルのエレベーターに乗ると、ほんの少し、笑みを浮かべた。
 
「あら、そうなの、茉莉花オーナー、素晴らしいお客様には、何か還元したい、なんていうことがあるの、これまでも何人かと食事してるみたい、私たち茉莉花オーナーと面談以外に会うことないから、具体的に誰って聞くことはないけどね」
「あっ、不味かった、黙ってた方がよかったかな」
 
 アキラは罰が悪そうにした。
 
「大丈夫よ、茉莉花オーナーは信頼できるし、尊敬してるし、美味しいのご馳走になったらいいよ、アキラさんが楽しい時間になると思うわ」
 
 それを聞いてアキラの表情は緩んだ。
 
「へぇ、オーナーさんが女ってのもびっくりしたけど、女の人じゃなかったら断ってたかも、今日はラッキー、なのかな」
「アキラさん、エッチ」
 
 こうして、アキラは沙弥の言葉で安心し、茉莉花との会食が益々、素直に楽しみになった。
 
 一方、茉莉花は当日となり、アキラに会えることで、アキラへの興味を無意識に掻き立てていた。しかしながら、この機会を無駄にしたくないと我に返り、冷静であるように振る舞うことが精一杯だった。



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