K.H 24

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小説 風俗で働いているけど、何か?-②

2022-05-17 08:44:00 | 小説
弍.マルチプル
 
「サヤカさん、新規の方ですが、よろしいですか」
「構いませんよ」
 
 沙弥がデリヘルのキャストになって半年でナンバーワンになった頃のボーイさんとの普段の会話だ。
 しかしながら、これまでに例のない事態が訪れた。
 
「初めましてサヤカです、緊張なさってます」
「初めまして、えっと、えっと、アキラって呼んで下さい、緊張してます、はい、でも、ごく普通のお嬢さんなんですね」
 
 店と暗黙に提携の形を取っているホテルの前で待ち合わせし、緊張している客を前に、どう和らげてあげようかと思慮しだした沙弥だった。
 
「ネットの写真は服が派手ですからね、もっと派手な格好でこればよかったかしら、何かご要望があるとそれに合わせるんですけど、初めての方の場合はこんな感じ、これ、自前なの、もしも、この後気に入ってもらって、ホンシになって下さったら、お好きな服装、前以ていって下さいね」
 
 沙弥主導で話しを進め、ホテルへ入っていった。
 
「アキラさん、シャワーからにしましょ」

 先にベッドに腰掛けたアキラの真正面に腰を落とし、両手で両膝を触れて、普段通りの笑顔で声かけした。
 
「は、は、あの、相談してもいいですか」
「はい、構いませんよ、本番行為はできませんが」
 
 沙弥は姿勢と表情も変えず凛としていた。
 
「はい、分かってます」
 
 アキラは間を置いて、真剣な面持ちでゆっくり立ち上がり、肩幅より広く右脚を広げた。
 
「実は、ないんです」
 
 右手の手のひらで股間を押さえた。
 
「元、女なんです、性転換手術を受けて、地元から遠くへ離れてきて、戸籍を男にできて、生活しだして半年です、女性に恋をしたいのですが、一歩踏み出す勇気がなくて」
 
 アキラは細マッチョで、綺麗に剃った髭の剃り跡があり、声も低く、頼もしい男性に見えるが、この時は身体を震わせていた。
 
「丁度良いじゃないですか、本番できないんですもん、私と色々、シュミレーションして下さい、私は受け入れますよ、何かお手伝いも」
 
 態度も何も変えずに答えたことに、アキラは驚きを隠せなかった。
 
「ありがとうございます」
 
 目から涙を溢さないように力強く目を閉じてこうべを垂れた。
 
 嘗て、沙弥が幼少期の頃、母親の志津香は、仲良しになったママ友である音羽と一線を越えた。
 音羽は明日香を産み、その後、夫とセックスレスになり、五年を迎えようとした頃に、それがストレスでトラブルを起こしていたいたのだ。
 そのトラブルは、浮気だった。初めは、運送会社のドライバーの男性との浮気で、弄ばれて身も心も傷つき、直ぐに捨てられた。
 それは、ドライバーの男に音羽が無意識に依存していったからだ。本人は気がつかなかった。夫にもバレなかった。
 その後は周りのママ友や幼稚園教諭たちと夜遊びが増えた。勿論、女子会だった。
 特に、幼稚園教諭たちの呑みの場が増えていった。その中にレズビアンがいた、フミコという教諭でタチだった。
 音羽はカラオケボックスの個室でキスをされ、愛撫され、快感を覚えた。そして、同性との肉体関係を受け入れた。寧ろ、男性より女性の方が興奮することに気がついた。
 ママ友たちへも手を出すようになった。音羽のトラブルは同性の身体を求めるということだった。
 このトラブルは問題となり、フミコはレズビアンで園児の母親と肉体関係を持ったことは伏せる条件で解雇となり、同じく音羽は明日香を別の幼稚園へ転園させられることになった。これに加え、音羽と夫は離婚しなかったものの、心療内科でのカウンセリングを勧められ、夫婦でカウンセリングを受けることになった。
 その効果で、音羽は落ち着くも、仮面夫婦となってしまったのだ。全て明日香のためだった。
 しかし、音羽と志津香の出会いは、音羽の女性の身体を求める気持ちを再燃された。
 
 その頃沙弥は、両親の夜の営みを目にしてしまうことがあった。
 
「お父さんとお母さんは、おねんねの時に身体をモミモミしてるんだね、お父さんもお母さんも毎日疲れちゃんうんだね、沙弥のために、ありがとうね」
 
 沙弥は夜中に物音がすると、一緒に寝ていた母親がいないのに気がつくと、居間でその様子を目にして、両親がいることを確認し、安心して寝室に戻るのであった。その翌日の朝食時に、そんなことをいいだすのだった。
 
「明日香ちゃん、眠くなってきたね、一緒におねんねだね」
「うん、今日も楽しかったね、沙弥ちゃんと沢山遊んだね」
 
 竹男が出張の時は、音羽と明日香親子は泊まりにくることが増えた。そして、音羽は子供たちが寝沈むと志津香を求めた。
 お互い、酒に酔っていて、志津香は音羽の悪ふざけと思っていたが、巧みな音羽の誘惑に負けてしまうのだった。
 
「明日香ちゃん、沙弥のママと明日香のママは、沙弥たちのために頑張ってくれてるよ、だから疲れちゃっていて、昨日の夜は、身体をモミモミしあってたよ、お母さん、おばちゃん、ありがとうございます」
 
 沙弥は、両親の行為と同じように感じ、四人での朝食の時にお礼をいった。
 
「そうなのね、お母さん、おばちゃん、ありがとう」
 
 明日香も続けていった。
 
「いいのよ、明日香と沙弥ちゃんが元気で仲良く遊んでくれるから頑張れるのよ」
 
 透かさず音羽が話し出すと、志津香は顔を引きつかせ、音羽と同じような言葉を返した。
 
「あっ、でもね、幼稚園のお友達とか、先生たちには内緒よ、ママたちが疲れているって分かると心配しちゃうからね」
 
 音羽はいい加えた。
 沙弥と明日香の二人は鵜呑みにし、納得していた。
 
 そんな幼少期の経験から沙弥は、意識しないながらも、ジェンダーレスへの考えを身につけていた。だから、アキラのことも違和感なく受け入れた。
 それ以来、デリヘルの客層はレズビアンや女装家、トランスジェンダー等等、性的マイノリティーを差別せず、沙弥はそんな客に合わせて、そんな客の要望に応えた。
 
「沙弥さん、特別ボーナスです」
 
 キャストとして不動の一位となった沙弥にオーナーから他のキャストがいる前でピンク色の縦長な封筒を差し出した。目を見開き、軽く口を開けたまま受け取った。
 
「茉莉花《まりか》さん、えっ、いいんですか、ありがとうございます」
 
 沙弥は喜んだが、これがきっかけで、一波乱起こることは、オーナーの茉莉花さえ予測できなかった。
 
 続


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