貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

水が石を作る ①花崗岩

2023-02-03 11:58:15 | 岩石生成論

前に「石はどうやってできるか」という雑感文を書いて、「水が石を作る」と書きましたけど、どうもこの問題、とても大きそうなので改めて。

で、その最大のポイントが「花崗岩」。安山岩と共に「大陸地殻」を形成する主要岩石ですね。

地球というものは、核のまわりにマントルがあって、その最上部に薄い地殻がある。まあマントルといっても均質ではなくて上と真ん中と下は違うとか難しい話がありますけど、それはここでは棚の上。ややこしい話をさらにややこしくするのは好きではない。
で、地殻はマントルの上に浮いていて、動いている。いわゆる「プレート・テクトニクス」というやつですな。絵はあちこちにあるので省略。

で、この後が問題。「陸の地殻と海底の地殻は全然違う」……は?の世界ですね。

どうも昔は「大陸地殻は海洋地殻の上に浮いている」というのが主流説だったらしく、あちきたちはそう習ったような記憶がおぼろげにあるけど、今ではそれは間違いだそうで。
「大陸地殻と海洋地殻は全く別物で、ともにマントルの上を動いている」
というのが現在の主流説。そして
「海洋地殻は中央海嶺で生まれてプレート沈み込みで消滅するというサイクルを描いて動いている」
「それに対して大陸地殻は動いてぶつかったりするけど消滅しない」
とのこと。
さらに
「海洋地殻は玄武岩でできている。大陸地殻は安山岩と花崗岩でできている。全く別物」
だそうで。
海というのはただ低い所に水が溜まっただけみたいに思っているけど、海の地面と陸の地面はまったく別。

まあ地学をまともにやった人たちには当たり前の話かもしれないけど、あちきのようなド素人には、驚きですねえ。海と陸は水に隠れているかどうかではなく、まったく性質の異なる別世界。
で、だからこの「花崗岩(と安山岩)」というのは地上に暮らすあちきらにとっては、とても大事なもの。おまけにこの花崗岩、石好きの人々が愛する美稀石の形成にも大きく関与している。

既出だけどこれは「地球で最も古い石(の一つ)」と言われているアカスタ片麻岩。
39.6億年前の花崗岩が36億年前に変成した片麻岩。花崗岩なんですねえ。



     *     *     *

ところがこの「花崗岩」、どうやってできたのかわからない。いろいろ説があってまだ確定していないらしい。
けれどそこにも「水」の存在が大きく関わっているという。

花崗岩というのは一応「深成岩」でマグマからできると考えられてきた。
ボーウェンのモデルというのがあって、マントルの橄欖岩は「固体ないし流動性を持った固体」だけれど、何らかの変動を受けて溶けると「初生マグマ」である「玄武岩マグマ」になる。それが段々冷えていくと、溶けにくい成分が固まって脱落し玄武岩マグマは別のマグマになっていく。これは実験で実証されているとのこと。

で、花崗岩というのは玄武岩マグマが徐々に冷えていって、最後の上澄みが固まってできたもの、と説明された。
ところが、このモデルだと「現在花崗岩がこれだけたくさん存在することが説明できない」のだという。このプロセスでは玄武岩マグマから花崗岩は1%くらいしか作られない。単純な冷却生成にしては多すぎるというらしい。

じゃあ花崗岩はどこから来たか。それを主要構成物とする地上地殻はどうやってできたか。これがえらい難題で、あれこれ議論があって、まだ確定したわけではないらしい。
で、現在最も有力な説は、「花崗岩ができるプロセスは他に2つある」というもの。
①堆積岩がプレート沈み込み帯で融けてできる
②すでに形成されていた安山岩の大陸地殻の深部でプレート沈み込みによってもたらされた水が安山岩を融かし、花崗岩マグマ(正確には流紋岩マグマ)ができる
ただし、どちらもその変成には大量の「水」が必要となる。
《水は珪酸塩の化学結合を切り、融点を下げる働きをするので、低温でも大量のマグマの生成が可能となる。》『基礎地球科学』朝倉書店
①の場合、海洋地殻に含まれた水が大量にあり、それが可能になる。ただし、様々な花崗岩の組成を調べてみるとこのタイプは少ない。
②も、プレート沈み込みによってもたらされた水が地殻深部で安山岩を溶かす。

かくしてこれら複数のプロセスによって大量の花崗岩は作られた、今も作り続けられている、と考えられている。
つまり、花崗岩の形成には「水」が必要なのである。ほお。

     *     *     *

……って、ちょっと待った。「すでにあった安山岩の大陸地殻」はどうやってできたのかな?
これはさらに難題。まだわかっていない。
一つの説は、「原始海洋地殻から安山岩マグマが噴き出し、“島弧”が形成され、それが“プレート移動”によって集まって大陸となった」というもの。
前にも触れた『三つの石で地球がわかる』から著者藤岡換太郎氏の考えを、あちきの理解できた範囲でものすごく大雑把に要約すると、こういうことらしい。

・原始地球=玄武岩マグマの海
  大気と雨 玄武岩地殻生成とプレート沈み込みの発生(プレートテクトニクス誕生)
  運び込まれた水による安山岩マグマの生成
  火山噴火による安山岩マグマの噴出と島弧の発生
  プレート移動による島弧の集合
・大陸地殻の誕生=安山岩
  プレート沈み込みに伴う水による安山岩の溶融で花崗岩大量生成
  軽い花崗岩の浮上
・現在の大陸地殻=安山岩と花崗岩

細かい仕組みは省略。
……でもちょっとわからない。島弧がどうして安山岩なのかとか、島弧が集まって大陸になるなんて本当かしらとか。
ちょっと他の本もチラ見してみたけど、初期大陸地殻は玄武岩だという説もあるみたい。
(つうか、この問題、いくら読んでも、メモを取っても、うまく頭に入らない。よくない頭がさらに老化しているせいもあるだろうけど、何か変な心理的抵抗が働いているような感じもある。何なんですかねえ。神様の秘密?)

     *     *     *

ともかくも、あちきら地上生命が暮らす地上地殻は、かなりの部分が花崗岩でできている。花崗岩がなければこれだけ広い陸地は生まれなかった。地上生命の繁栄は花崗岩に支えられているとも言える。
そして石好きにとっては、花崗岩は多くの美石の母体。
花崗岩マグマは SiO2 成分が多く、石英・正長石・雲母・角閃石などを生み出す。

ちなみにほかの火成岩との成分比較は以下の通り。( )内は時々、ということらしい。
・橄欖岩 橄欖石・輝石
・玄武岩 橄欖石・輝石・斜長石・磁鉄鉱(角閃石)
・安山岩 斜長石・輝石・角閃石(磁鉄鉱・黒雲母・チタン鉄鉱・石英)
・花崗岩 石英・斜長石・正長石・角閃石・雲母(磁鉄鉱・チタン鉄鉱)ほか
  *黒雲母は正式鉱物名ではない。なお角閃石と雲母は含水鉱物。

さらに花崗岩マグマは粘性が高いのでなかなか上昇できない。そのおかげで周囲の岩石から諸成分を取り込み、ゆっくりと冷やして大きな結晶を作る。こうして「ペグマタイト」ができる。ペグマタイトの主な鉱物は、諸水晶、トルマリン、アクアマリン、トパーズなど。
また、花崗岩が固化する際に分離した水=マグマ水が、あちこちで熱水鉱脈を作り、金属鉱脈や二次鉱物などを産む。あるいは晶洞に入り込み、華麗な結晶群を作る。玄武岩マグマや安山岩マグマではマグマ水は少ない。

花崗岩はかくも大きな役割を果たしている。そしてそれを作ったのは「水」である。
太陽系の同じ岩石型惑星の金星・火星には花崗岩は見つけられていない。ほぼ玄武岩。水がないから。
《花崗岩は水惑星地球を特徴づける岩石といえる。》前掲『基礎地球科学』

まあいろいろ迷走してきましたが、細かいことは置いておいて。
水が最初の陸を造り、大陸を造り、そして鉱床や美石を造るのですねえ。


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