小児総合診療医のひとりごと

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ヘアーターニケット症候群(特徴や機序などについて)

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  • ヘアーターニケット症候群は、体毛や糸が小児の手指や足趾に絡まることで絞扼を呈す病態。2006年時点で、海外は200件以上が報告されているが、国内の認知度は低く、検索しえた限り2021年時点でも国内報告は数例にとどまる。
  • 急性虚血による組織壊死を起こしうるため、早期診断と速やかな絞扼解除が必要である
  • 絞扼部位:足趾、手指、陰核や陰唇、陰茎が多い。そのほかに、舌や口蓋垂などの報告がある
  • 年齢により絞扼部位に特徴がある

  ⇒乳児:手指・足趾に多い。学童期から思春期は会陰部に多い。

原因

  • 産後女性の約9割に出産後のホルモン分泌変化による脱毛が一過性(通常2-6か月)に生じる。この現象がヘアーターニケット症候群に関係している。乳児は、抜けた母親の体毛による絞扼が、手足・足趾に好発する。
  • その他に、体毛を蓄積させやすい性質の衣類(ミトンや靴下など)や、乳児の足底反射によりターニケット症候群が起きやすい
  • 学童期・思春期は、二次性徴による陰唇や陰核・陰茎の形状変化と、やわらかい陰毛の性状が組み合わさって、陰部のターニケット症候群を起こしやすくする

  • 絞扼物が強く巻かれたとき、保護者による絞扼部位の発見が難しい
  • 多くが偶発的に起きるが、遊びで自己で巻いた場合や、虐待もありうる

国内症例

乳幼児では、患者自身が絞扼による痛みを訴えることができないため、『泣き止まない』もしくは『不機嫌』が唯一の症状となりうる

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国内報告は、おおむね海外報告と一致している。海外では高齢者や陰茎絞扼の症例報告がある。

また、海外のヘアーターニケット症候群210例のReviewでは、切断が必要であった症例も報告されている。

手指切断(4例)、足趾切断(2例)、陰核完全切断(1例)、陰茎完全切断(4例)

手指の壊疽(5例)、手指の軟部組織欠損(3例)

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治療

  • Beanらは迅速な診断によって患者の90%以上が観血的処置が不要と報告している。
  • 剪刀による切断、皮膚埋没例は側正中から数mm程度の皮膚切開を行い、皮膚と共に絞扼物の切断が必要となりうる
  • 解除できない場合は、全身麻酔下での切除もありうる

まとめ

  • 疾患認知度が低いため、医療者は『ヘアーターニケット症候群』という疾患概念を知っておくこと
  • 乳児は足趾・手指、学童以降は会陰部のターニケット症候群が起きやすい
  • 乳児の四肢が腫れている場合、『糸や毛』で絞扼してないか『しっかり』診ること
  • 通常、早期受診で後遺症なく解除が可能
  • 日本の症例報告は、海外症例の特徴と一致してはいるが、国内報告が少なすぎるので、より多くの症例蓄積が望ましい

参考文献:

日本小児科学会雑誌 2019;123:1243-1247

Ann Plast Surg 2006;57(4):447-52