将棋の歌 #6

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将棋の短歌

いつかブルーシートが波打つ風の日に君と春待つ将棋がしたい
堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』

堂園昌彦の第一歌集『やがて秋茄子へと到る』(2013年)に収められた一首です。

この一首は「愛しい人たちよ、それぞれの町に集まり、本を交換しながら暮らしてください」という長い題の一連の最後に置かれています。この小題自体がひとつの歌のようにも感じます。

ブルーシートは敷物としても用いられますが、この一連を読んでいると、ここでの「ブルーシート」は自然災害後の屋根や家を覆うためのブルーシートであるように思います。

「君」とは恋人かもしれませんし、友人かもしれません。いずれにしても主体にとって大切な人であることは間違いないでしょう。「君」はいったいどこにいるのでしょう。どこか遠い存在のようにも感じます。その「君」と「春待つ将棋がしたい」というのです。

将棋というのは本来じっくり考え時間をかけて行うものですから、急ぐイメージはありません。そしてこの歌では、「春待つ」とされているので、さらにゆっくりとした時間の流れを感じさせてくれます。

主体は将棋がしたいといっていますが、この将棋はいつか実現する将棋なのでしょうか。初句の「いつか」がとても気になります。「ブルーシート」「風」「春」「待つ」などの背景とどこか捉えがたい印象のある言葉を考えた場合、この将棋は永遠に実現することのない、主体の中だけに願望としてずっと残り続ける将棋なのではないかというような気がしてきます。

今後実現することのない願望だったとしても、なぜか暗い一首には感じません。それは主体の思いがはっきりと述べられていることと、春という季節のもつ明るさとがそう感じさせているのかもしれません。

将棋の具体的な中身がどうであるという一首ではなく、将棋全体のもつ時間的性質が存分に引き出された一首だと感じます。

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