2021/12/25

第1話 最初の出会い!中年男と19歳女子大生


第6章 迷い
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<俺は何を馬鹿な事してんだ!>

水太

  そしていよいよその日がやってきた。

本当はカジュアルな服装で臨みたかったのだが、カミさんには仕事で人と会うと胡麻化していた手前そうもいかず、スーツ姿で向かうこととした。

ところがである。 いざ電車に乗り込んで電車が動き出したとたん、なぜか言いようのない嫌悪感が私を襲ってきたのだった。
(俺はいったい何を馬鹿なことをしてるのか、4〇歳を超えた妻帯者のいいおやじが、自分の娘と大して変わらない年格好の女の子と会おうとしている。まして会うだけならまだしも、卑しくもその女の子の体まで求めようとは馬鹿じゃないのか。それに、そもそもそんな若い女の子が、こんな既婚の中年おやじに会ってくれるわけがないし、まして肌を合わせるなんて。

俺はからかわれているだけではないのか、もしそうなら実にみじめであり、自分が傷つくだけではないのか) そんな思いが私の体中を駆け巡り(もう次の駅で降りてそのまま帰ろうか)とまで弱気になっており、電車内にいる周りの乗客みんなが自分を嘲笑っているような錯覚を覚えたほどであった。

突然そんな気分になったのは、これまで周囲には会社や家での、ごく限られた少数の人間だけであったのが、電車に乗り、日常生活臭の漂う多くの乗客に囲まれたことで、ファンタジーの世界から現実世界に引き戻されたような気持になってしまったのではないかと思われた。

しかしせっかくここまできて、もしかしたら会えるかもしれないのに、それをこのまま捨て去るのはあまりに惜しい。
その葛藤で迷っていた私だったが、ここで賭けに出ることにした。

私はすぐに彼女にメールを送った。
「今、電車に乗って向かってるとこ。約束の時間に着けるよ、美奈ちゃんはどうかな?」

もしこのメールに返信が無ければ、からかわれたものと判断し、天王寺からとんぼ返りして帰ろうと決めて返信を待ったが、1〇分経っても返事がなかった。

(やっぱり駄目かぁ) 覚悟はしていたものの、やはりその現実に直面すると落胆は避けられなかった。

しかしせっかく天王寺まで出てきたのだから、何か土産でも買って帰ろうかと思ったその時、メール着信のメロディが鳴り、私は急いでポケットから携帯を引っ張り出して画面を見ると、待ち焦がれた美奈からのメール着信だった。

「ごめんなさい、電車の中うるさくて着信音聞こえなかったんです。私ももうすぐ着きます」

そのメールは、ついさっきまで現実世界で嫌悪感に苛まれていた私を、ファンタジー世界へと瞬間移動させたのであった。

それと現金なもので、ほんのついさっきまでの嫌悪感は消え去り、周囲への優越感に取って代わっていた。
しかしそれでもまだ油断はできない。
(これも自宅にいながら嘲笑っているだけかもしれない)と、心の鎧を完全に解いていたわけではなかった。

そして電車が天王寺に到着して、待ち合わせの旅行代理店の前に着いた時、またしても弱気の虫が私を襲ってきた。

(本当に来るのか、やはりからかわれているだけじゃないのか。それか、もし来たとしても遠目で私を見て嘲笑っているのではないのか)

青水