市制90周年記念 

「リアル(写実)のゆくえ 

現代の作家たち 生きること、写すこと」

平塚市美術館

2022年4月30日(土)


 

 

平塚市美術館は東京からは遠いのですが、オリジナリティの高い企画展を行うので、たまに頑張って行きます。とても立派な美術館です。平塚市は財力がありますね。

 

この企画は日本人アーティストが、近代の西洋美術の導入以降、リアルという概念をどのように学び消化して現代に至るのかを追求する展覧会です。特に現在のアーティストはみな注目です。

 

最初は歴史的な油絵画家から。

 

高橋由一「豆腐」

美術の教科書に載る日本の写実的な油彩画の第一人者です。「鮭」が有名ですが「豆腐」も厚揚げ、焼き豆腐、木綿豆腐の描き分けという難易度の高い仕事です。今日の私たちの目で近くから見ると細密ではありません。描く技術が進歩すると共に見る人の目も進歩しています。

 

始まりの歴史をおさえた上で現代の作家を。

 

水野暁「杉のドローイング(白神神社/東吾妻町・伊勢の森/中之条町)」

木を真下から見上げた大きな作品です。覆いかぶさるように木の幹、葉、一筆一筆しっかり描いてあります。何よりこの大きさこそリアリティです。

 

本田健「夏草(芝棟の土)」

雑草の上を歩いている時、足元をじっと見ることなどありませんが、絵画になると思わず見てしまうのは面白い現象です。画像では草一本一本しっかり描いているように見えますが、近くで見ると絵の具がかなり盛り上がっていて色彩も混ぜていない。その分、離れて見ると本物よりヴィヴィッドな印象を与えます。

 

安藤正子「オットの人」

オット=夫の絵だそうです。ただしその顔は焦茶に塗り潰され人相はわからない。対して夫の着ているニットのセーターの編み目を徹底的に描いている。縫い目ひとつひとつから全部描いていて存在感が凄い。この絵の本当のタイトルは絶対に「オットのニット」です。

 

横山奈美「逃れられない運命を受け入れること」

木目の板の上に何かを置いた静物画のシリーズです。いずれも暗い背景でポール・デルヴォーのような明暗の空間。この作品はグシャと曲げた紙筒を机の上に立てて置いてあります。

この他にフロッピーデスク、たばこ、薩摩藩の砲弾などでも描いています。見た目はどこにでもあるような単なる物ですが、それぞれ独自の物語があり唯一無二の物です。その特別性がこの空間では感じられます。

紙筒に話を戻します。元はキレイな円柱だったはずですが、何者かによって傷んだ姿に変わっています。動くこともできなければ復元力もない。受けたままの状態が「逃れられない運命を受け入れること」に通じます。

私たちは物を無機的な物体として見ることは難しい。その物がどういう出自を経て今ここにあるのか。それにどのような意味を見出すのか。観ている側のリアルは様々な表現でカンヴァスに投影されます。

 

秋山泉「静物XXV」

鉛筆絵画です。ろうそくを描いています。鉛筆の描線は全く判別できず、写真と見間違えるようなリアリティ。トーンはとても淡いのですが、炎は輝いて見えます。

この他に、カーテン、花瓶などの作品もあります。いずれも淡いのですが、カーテン越しの光、花瓶のハイライト、紙の白のみなのに輝いて見えます。

本来、絵画は光りません。光らないもので、光のリアリティを追求した作品です。

 

 

 

(つづく ※後半は立体のリアルです。)

 

 

 

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