国立新美術館開館15周年記念 李禹煥 

国立新美術館

2022年8月13日(土)



現代アーティスト、李禹煥(リ・ウーファン)のことがよくわかる展覧会です。


出品リスト、スマホで聞ける無料音声ガイド、子ども向けの解説漫画が、とてもわかりやすいので、コラムを書くのがイヤになります。


李禹煥は1936年に韓国の慶尚南道で生まれました。インテリの家系だったみたいで若い頃、書、詩、水墨画を学び朝鮮大学に進学、美術を学びます。


その後、日本に留学。哲学など様々なことを学びながら国内外で色々な人に出会い、やがて美術の道に進み「もの派」を代表する国際的アーティストとなります。


今回の展覧会は前半は立体作品、後半は平面作品という構成です。立体作品はもの派のアーティストらしく、シンプルに素材を組み合わせています。無駄を極限まで削ぎ落とし意味を廃した枯山水のような作品です。逆に見るものの心中が解釈に投影されます。


それでは、私なりに見立てをしてみましょう。 

何が見えるでしょうか。



7  現象と知覚B 改題 関係項

石とガラス板の作品です。石の下、地面に置かれたガラス板には割れ目が入っています。落下した重い石がガラスに、バキッとヒビをいれた瞬間に時を止めたような作品です。物理的な現象が人に与える緊張感が具体化した造形です。

 

 

12  関係項(於いてある場所)Ⅱ  改題 関係項

彫刻という位置付けですが、2メートルほどの高さの木製の9本の角材をそのまま、使っています。3本の角材は壁に整列するように立て掛けられ、3本が床に置かれ、3本が支え合って塔のように建てられています。建築物とも人間とも山並みとも見てとれます。置き方だけでイメージを誘発することができることを示した実験的な作品に見えます。

 


13  関係項 改題 言葉

床に敷いた赤い座布団、その上に石が置いてあります。ある程度の大きさ、質量のある石には存在感があり、人の姿を想起させます。身体をまるめて何かを語りかけている噺家のようにようにも見えます。きっと面白い話をしているのでしょう。



49  関係項ー棲処(B)

展示室いっぱいに黒っぽい石の板が敷き詰められています。大小様々な形の石をうまく隙間なく並べています。特に固定されている訳ではないので、歩くとカタカタ音がします。石を集めて立てて塔のようにしたお墓のようなオブジェ、平たく積み上げ祭壇のようにしたオブジェ(?)があり、宗教的な道具にも見えてきます。

2017年、フランスにあるル・コルビジェの建築、ラトゥーレット修道院にて行ったインスタレーションの再現です。フランスの様子とは全く違うものになっているとは思いますが、本来意味を持たない石も何某かの崇高な空間に見えてきます。



30  関係項ーサイレンス

床に置かれた石と、その向かいの壁に立てかけられた金属の板。祭壇に向かう聖職者が沈黙にうちに祈りを捧げている、或いは懺悔しているかのようです。静寂が場を支配しています。



47  関係項ー星の影

天井から吊り下げられた電球の光が床に置いた石を照らしている。石をよく見ると何故か影が二つ。ひとつは本物、もうひとつは床に描いた偽物の影です。室内展示なのに妄想が過ぎるかもしれませんが、描いた絵の影は空の星の微かな光りで生じた影で、それを人工の光りが打ち消している様を目に見えるようにした作品ではないでしょうか。知らぬうちに本来あるものを、人間は打ち消して発展してきた。そのような行いに警鐘を鳴らしているのかもしれません。



52  関係項ー鏡の道

白い砂利が展示室一面に敷き詰められている。

大きな石が二つ並べて置いてあり、その間に細長いステンレスの鏡が通り道のように通っている。観るものは道の上を歩くことができます。

私は経験がありませんが、結婚式でバージンロードを歩く新婦のような気持ちかもしれません。大きな二つの石は花束を持って待つ小さな子どもたち。初めて、幸せなイメージが浮かびました。私の精神のコンディションは良好なようです。

 


48  関係項ーアーチ


今回唯一の屋外展示作品。李禹煥の作品は野外に向いています。これは2014年にフランスのベルサイユ宮殿に展示したものを、再現した作品です。ベルサイユ宮殿では大きなアーチでしたから虹に見立てられていましたが、こちらは小さめで六本木のビル群を仰ぎ見るような借景なので、虹と見るのは無理がある気がします。




これまで石の塊と違い、地面に敷かれた道のような金属板の上を歩いてくぐり抜ける形はこちら側とあちら側を分つ結界の門に見えます。一方から見ればビル群、一方から見れば空、違う世界が開けています。門の両脇の巨大な石が曲がった板を押さえ込むように見える構造はどこか生々しい緊張感があり、今目にしている風景は刹那なものであることを予感させます。



この作品が真ん中で、この次から後半、平面作品の展示でした。制作年代順に絵画の変遷を紹介しています。


・点より

・線より

・風より

・風と共に

・照応


どの作品も白い背景に点や線を描いただけのシンプルな抽象画なのに、どこかユーモラスで親しみやすく、何かのキャラクターのようです。存命中に個人の美術館が作られるのもよくわかります。

 配布されている李禹煥鑑賞ガイドが、とてもわかりやすいので、国立新美術館に訪れて片手に持って読みながら作品を見てみてください。



カンヴァスに描いた平面作品の後は、展示室に描いた平面作品です。



59  対話ーウォールペインティング

真っ白な展示室の一方の壁に大きな点。白からグレーのグラデーション。湯飲み茶碗のような形をしています。立った状態で少し見上げるくらいの高さに描いています。

そこに何が描かれていようと、人は見上げてモノを見る時、何か高い位のものと接するような気分になります。神を見上げ敬虔な心となるのか、両親に伝えきれない思いを届けたいと願うのか、師に教えを乞う心持ちなのか、倒すべき巨大な敵に心を燃やすのか。

白い空間を自らのイメージが広がります。

ここは己と対話する空間です。



 43  関係項ーサイレンス

最後の展示作品は立体作品と平面作品を組み合わせたインスタレーション。真っ白な展示室の一方の壁に何も描かれていない白いキャンバス。その前に石が置いてあります。前述した「30 関係項ーサイレンス」と同じタイトルの作品です。鉄の板と石の組み合わせから、カンヴァスと石に、コーナー展示から展示室そのものにバージョンアップしています。


この作品については、目を閉じて想像力を働かせて、あなたなり見立ててください。コツは考えないことです。


何も見えなかったとしても、少し心が静まるかもしれません。それも現代アートの効能です。




↓ランキング参加中!押していただけると嬉しいです!

にほんブログ村 美術ブログへ