越後妻有 大地の芸術祭 

2022年9月19日(月)


3日間で「大地の芸術祭」、1日目はオフィシャルツアー、2日目はチャリで爆走、そして最終日の3日目は


歩いて周ります。


公共交通機関を使い歩いて周るのが、本来の私スタイル(?)なので、今日は落ち着いて見られるでしょう。

 

行くのは松代エリア中心部にあるほくほく線 まつだい駅周辺の「まつだい『農舞台』フィールドミュージアム」です。


1日目のオフィシャルツアーでも来ましたが、農舞台しか見られませんでした。今日は真向かいの山頂にある松代城まで行きます。


まつだい駅には午前9時過ぎに到着。屋内展示は午前10時からですが、屋外展示に時間は関係ありませんので、農舞台を通り過ぎ、小高い山の斜面に設置されている作品を目指します。シャトルバスを使い頂上まで行って下りながら見る手もありますが、頂上の松代城は10時開館なので、時間的にはこの方が効率的です。

 

 

  城山

うねうねとした坂道にさしかかると、もう作品があります。登ることに飽きる前に目的地が見えるよう程よい間隔で展示しています。


砦61 クリスチャン・ラビ


遠くから見た時はそれほどでもなかったのですが、

近づいてみると、惹きつけられるものがありました。周囲に立てられている木は人の型のようでもあり、配置も単なる円形ではなく砦っぽい。完成してから時が経っているはずですが焼けた炭の匂いがします。中心には栗の木、おそらく初めからあったものでしょう。地面も少し高くなっていて小さいものの砦の感じがあります。子どもの遊び場にちょうどいい感じです。

 

水のプール 立木泉


水琴窟です。蝉の鳴き声がまだうるさくて、残念ながら音がよく聞こえません。水を張っているからか、屋外展示なのに細かいタイルの青い色がとても鮮やかに綺麗で、ハッとしました。

 

坂道が続きます。結構坂道がキツく、自動車無しだとプチ登山状態です。これで作品見てスタンプ押して写真撮ってとかやっていると、アート鑑賞ではなくオリエンテーリングをやっているような感じになってきます。


 

王国 大塚理司


木々の中に縄で作った葉のような形の造作物と丸太で作った造作物、言葉の記されたカードが配置されているこの作品を見ながら、落ち着きを取り戻しました。どこか知らない国の民族の宗教的な、あるいは儀式的な意味をもつ場所に迷いこんだような気分です。自然とのつながりを意識させつつ、人の気配もある、王国です。


 

人生のアーチ イリヤ&エミリオ・カバコフ


1日目のツアーでも記したように今回の大地の芸術祭でもっとも私の印象に残ったカバコフの作品です。木箱を背負って四つん這いに歩く、登った塀の上で垂れ下がっている、木箱をおいて眠っている人の姿。人生の縮図にも見えますが、これはどんな人間の人生なのでしょう。苦難や束縛を感じさせる場面が多く、希望を感じさせるというより、浮かれず気を引き締めて生きなさいと語りかけている気がします。



 

 

そして、

 

とうとう松代城に着きました!


 

  松代城


 

達成感あります。昨日の節黒城に続いて山城です。これでは登山ブログですね。ブログの主旨が変わっています。

 

松代城は三階建てです。各階に作品があります。

 

憧れの眺望 エステル・ストッカー

一階

 
原美術館に展示されていたレイノーのゼロの空間を思い出すモノクロームの世界。外が緑に囲まれた自然な環境であるのに対し、ここは無機的な空間です。中央でクシャッと丸められて浮かんでいる塊はこの部屋の壁紙でしょうか。この城の中心に位置するものであり、この山の頂点にあるともいえる。これがあることで、無味乾燥の空間が外とつながり、自然の裏側にワイヤーフレームの観念めいた世界のイメージも浮かんできます。
 
 

楽聚第 豊福亮

二階です。城に金の茶室とはイケてる戦国大名のロマンです。この松代城の城主も喜んでいることでしょう。


と言ってもシャレのレベルだと思います。   

聚楽第(楽聚第)、黄金の茶室、城、といえば天下人、太閤秀吉。秀吉の作品と真っ向勝負するのは厳しい。

それでも黄金の茶室は中に入って観たかったです。パンフレットにはモデルの女性が中に座っている写真がありました。高い料金設定でも入りたい人はいると思います。金の空間は独特の雰囲気があり、体験する価値はあります。 


 

脱皮する時 鞍掛純一+日本大学芸術学部彫刻コース有志

3階


昨日、ジェームズ・タレルの作品を見た後だからか、作りが雑な印象を受けました。無駄を排した整理された空間で、円形の窓から見える景色、時間の経過、天候により印象が変わる作品です。インスタ映えもいい。

とはいえ金と黒があまり上品な質感ではない。木材の仕上げとかも丁寧さが足りず心安らぐ室内とまではいかない。日本の優れた伝統建築には美は細部に宿るの精神が研ぎ澄まされたようなものがあるが、そのレベルではない。

先程の茶室といい、比較の対象を間違えているのかもしれませんが、思ったままを書いておきます。disるなら書かない主義ですが、今回はメインの作品なので避けて通れませんでした。


 

  手をたずさえる塔


手をたずさえる塔 イリヤ&エミリオ・カバコフ


登っている時は開館前だったので、帰りに寄りました。小さいですが、中に入れます。


 

小さなギャラリーにも満たない広さで今日は誰もいない。そしてエアコンが効いている。涼しい。

 

自分専用の美術館を建てるならこういうのがいいです。一度に100点の作品を2時間位かけ歩いて見るのはアートの最善の鑑賞法ではありません。数点の作品を壁にかけ、素敵な椅子を置いて、立ったり、座ったりしながら、時間に制約されずに見るのが理想的です。


壁にかけられたいるのは屋外作品、人生のアーチの絵です。それぞれの場面の人や動物の姿を一枚ずつ描いています。



手をたずさえる船 イリヤ&エミリオ・カバコフ


世界中で実施しているカバコフのプロジェクト形式の作品を大地の芸術祭の仕様で作品にしたものです。たくさんの子どもたちに描いてもらった絵画をリアルな船の一枚の帆に仕立てて海上を走らせる作品を、藁で作った船で再現しています。地元の方々と手をたずさえて実現した作品です。

 


山を降りたところで、昼食です。天ぷらそば。農舞台の中にあるレストランが混雑していたので、外にある食堂に入りました。

 

 

 


  まつだい「農舞台」


農舞台に戻り、帰りの電車の時間まで屋内の展示を

見ます。1日目も来ましたが、サッと流しただけでした。目的はこの施設にメインに展示されているイリヤ・カバコフです。

 

イリヤ・カバコフは、1933年旧ソ連邦生まれのユダヤ系アーティストです。絵本の挿絵画家をしながら、発表するあてもない芸術作品を作り続けていたという生粋のアーティストです。

 

海外で作品を発表するようになってから、インスタレーションアートと呼ばれる独自の表現を編み出しました。自らの作品が違う文化、風習を持つ人々に理解されにくいという事実に気づき、この対策としてコンセプトが伝わり易くなるよう言葉による説明や、背景をイメージしやすくするセット、小道具的なものを付加したものです。

 

10のアルバム 迷宮


蛇腹状になっているの絵本のような作品を10点迷路のように展示しています。パッと見ではわからない読み物です。すべて絵が描かれている訳ではなくて、飾り罫のようなデザインだけのページもあり絵本の挿絵画家だったことを彷彿とさせます。内容は空想の物語、自分の過去を題材にした物語です。何かの比喩のようでもあり、批判のようでもあり、知的で味わいがある作品で面白いです。



プロジェクト宮殿

カバコフのアイデアを作品化、立体化したものをいくつも展示しているインスタレーションです。本気で実現させるというより、日々描き溜めていたアイデアをサンプルにして説明書を添えたようなものです。現実に実行可能なものとは限らず、空想の世界のアイデアもあります。こういう作品を見ていると典型的なコンセプチュアル・アーティストだとわかります。


自分をより良くする方法


前述のプロジェクト宮殿を軽く作ったと書きましたが、これはちゃんと形にした作品です。ちゃんととは実寸大で使うこともできるという意味です。(これは触ってはいけない作品ですが。)小さな個室に机と椅子、ベッド。机には本、ノート、筆記具、明かりの点いたスタンド。すぐにでも勉強出来そうな環境です。椅子には着用できる翼がかけてあります。この部屋は翼をつけて使うルールです。

 元気の出ない時、服装を変えてみたり、髪型を変えてみたり、お化粧を変えてみたりするように、気持ちを上げるために翼をつけて天使のような姿をしてみるのはいかがですかという提案です。


アーティストの図書館

単なる図書館をデザインしたというより、アートと向かいあう理想的な空間を構想した結果、図書館という作品になったと思います。カバコフの作品はパッと見て感じるのではなく、読んで内容を理解して鑑賞する本のような特性があります。机の上に一冊のアートの本が置かれ、誰とも向き合うことがなく読書に没頭できる。そういう体験をするための作品です。



さて、3日間の大地の芸術祭シリーズもこれで終わりです。実際に見た作品の半分も取り上げていませんが、雰囲気は伝わったでしょうか。


普段行かない地方に行くと意外な発見もあります。アートを口実にご自分の扉を増やしてみてはどうでしょうか。


 

まつだい「農舞台」フィールドミュージアム | 越後妻有のまつだい「農舞台」からはじまる、ARTと食と農のフィールドミュージアム。気持ちの良い風景と、自然に触れながら、里山をアート散策しよう (matsudai-nohbutai-fieldmuseum.jp)

 

 

 

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