川内倫子 M/E 球体の上、無限の連なり
東京オペラシティアートギャラリー
2022年10月30日(日)
川内倫子は写真家です。
対象やテーマをそのままフレームに切り取るのが写真のベーシックな方法論とするなら、映らないものを何点もの写真を組み合わせたり、加工したりすることで浮かび上がらせてゆくのが、この展覧会の方法論。
インスタレーションといった方がいい展示空間でした。
One surface
壁を撮影した写真のパネルを壁に掛け、そのまえに同じ写真をプリントした薄い布を吊り下げている作品です。
リアルな壁、写真の壁、布にプリントされた壁、布をすかして見える壁と、さまざまなレイヤーの壁を見ることができます。
これはこの後に続く展示の見方を提示していると思いました。写真のフレームの中だけでなく、フレームの外、展示室全体までが見る対象になっています。見えている壁は壁であって壁でない仮の像、または一部分で、真実の壁はその先にあるという構造です。
An Interlinking
長い通路にかけられた何点もの写真。撮影した時と場所の違う写真を通路に並べています。子ども、風景などですが、例えば散歩している時、見ているようで見ていない、見てないようで見ている、自然と目に入る景色のように対象とどこか距離感を感じます。
光と影 Light and Shdow
東日本大震災の被災地の映像作品です。被災地と言っても映っているのは互いの鳥です。高いところにあるものを撮影したから、高い位置に投影しています。見上げて見ることで身体的にも臨場感が出てきます。
A Whisper
川内が家族と暮らしている千葉の家の裏手に流れる川の映像を床に投影した作品です。部屋いっぱいを占める大きさの映像を見下ろして見ることで、体感としても、川を感じます。
あめつち
これはこの向かい側にある作品とあわせて「あめつち」という作品です。嘆きの壁の写真を白く飛ばしてあり、その白さが、写真を掛けている背後の壁の白と一体感を生み、全体として大きな嘆きの壁に向かい立っているような気持ちになる効果を産んでいます。
熊本県で行われている野焼きの写真を壁一面に貼り付けています。こういう広大な風景写真はどうやっても見た印象の通りに撮影することはできません。それを再現する方法として、天井に届くほど高く、壁を塞ぐほど広く写真を並べています。壁全面に写真を並べることで、その場にいるかのような臨場感を表現しています。
M/E
今回の展覧会のタイトルとなった作品です。展示室をフルに使用したインスタレーションになっています。
長方形の展示室に、アイスランドの氷河、滝、火山、間欠泉、森、海、などの写真をぐるりと配置しています。展示室の中央には、薄い布で作られた展示ブース。
M/E とは、
M Mother 母
E Earth 地球
Me 私
のことです。
例えば「地球」の写真を撮ってくださいと依頼されたら何を撮影するでしようか。真っ暗な宇宙空間に浮かぶ丸い地球を撮影しても確かに地球の写真ですが、それで一体何が伝わるでしょう。
そこに生きる命、自然、人間社会、文明、そして環境問題まで、全て地球です。
川内倫子は北欧で訪れた火口の中に降りた時、見上げた空の形に女性の性器を連想し、地球に女性を感じたそうです。母なる地球というとありきたりな表現になりますが、何かを産み出す大いなる存在を写真で表現したいとするならどうすればよいか。
その回答がこの展示です。中央のブースの中にはパネル以外のメディアで主に自然の景色を展示しています。
展示室の中央に光る写真を置き、内側から外側の写真やを布を通して見るという構造も何らかのメタファーのように考えられます。
そして続く展示室には、北極の風景とその上を歩む蟻のように小さな人間たち、夜空に浮かぶ月など、広大な映像。
作品を見ているというより、作品の中を歩いている。そんな気持ちになります。
この数年間で変わったこと、そして、変わっていないことはあったのでしょうか。
地球は厳しくも、優しくも、その上で生きている私達人間を包み込んでいます。
やまなみ
最後は、滋賀県甲賀市にある障がい者多機能型事業所「やまなみ工房」の人びとを撮ったシリーズ写真です。アールブリュットのアーティストもいます。写真は垂らした絵の具をストローで吹いて絵を描くアーティストです。自ら編み出したオリジナルな表現方法と一心不乱に制作に取り組む姿を活写したよい写真だと思います。
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