六本木クロッシング2022展② キュンチョメ「声枯れるまで」 

森美術館

2022年12月3日(土)


 

好きなアート作品は何ですか?

 

難しい質問です。ありすぎて答えることができません。

 

そんな中、この作品は好きと言える作品が

六本木クロッシング2022展に出展していました。

 

キュンチョメ 「声枯れるまで」

 

です。

 

 

「キュンチョメ」とは、ホンマエリとナブチによるアートユニットで、

「声枯れるまで」は映像作品。

 

3年前、物議をかもした「あいちトリエンナーレ2019」に出品していました。会場は美術館ではなく、四間道・円頓寺地区の幸円ビルという雑居ビル。各地区を巡り最後に見た作品で、清々しい気持ちで名古屋を後にしたことをよく覚えています。

 

当時、一連の騒動のために普通(?)の作品が話題に上ることは少なく、いつかどこかで語りたいと思っていました。この六本木クロッシングに展示されましたので別枠で取り上げます。

 

上映されているのは2作品。内容は共通で、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)の方に取材した映像作品です。

 

 

<ここからはネタバレ全開です。>

 

映像はインタビューから始まります。

 

石田悠真 いしだゆずま(男性→女性)

 

男性の身体で生を受けた彼女は「理人(まさと)」と名づけられ、「石田理人(いしだまさと)」として生きてきました。

 

幼い頃から自らの性別に違和感を感じていた彼女が両親に自分の気持ちをカミングアウトしたのは、18才の時。

 

その時、親から貰った名前も、自分に合った新しい名前に変えようと決めていたそうです。

新しい名前は

 

悠真(ゆずま)

 

です。

 

「ゆず」という言葉は、男性的でも、女性的でもない語感を持っている名前として

気に入っているそうです。

 

両親の反応はそれぞれで、母親はあなたが考えて決めたことならと受け入れてくれましたが、

父親は、性別はともかくとして自分はこれからもおまえを「理人(まさと)」呼ぶと

名前を変えることには拒否の意思を示したそうです。

実の父親の拒否は大変ショックではあったものの、そのくらいのことで彼女が諦めることはなく

新しい名前を受け入れてもらうよう努力を続けていて、

最近では父親から届いた郵便の宛名が「石田悠真(ゆずま)」に変わるなど
少しずつ変化がみられるようになっているそうです。

 

本人に長い葛藤があったように、両親にも葛藤があり

少しずつ変わっているものの、簡単に割り切れるものではないでしょう。

 

インタビューの後、場所を変えて、屋外で

彼女はキュンチョメの二人に促されて叫びます。

 

記憶を頼りに文字を起すとこんな感じです。実際のところは映像を観て確かめてください。

 

(※黒文字:キュンチョメ、赤文字:石田悠真(いしだゆずま))

 

 


あなたの名前はなんですかー!?

私の名前は、石田悠真(いしだゆずま)です!

あなたが決めたーっ!

私の決めたーっ!

あなたの名前をーっ!

 

私の名前をーっ!

大きな声でーっ!

 

大きな声でーっ!

 

声枯れるまでー、叫ぼー!

 

声枯れるまでー、叫ぼー!

 

あなたの名前なんですか!?

 

私の名前は石田悠真(いしだゆずま)です!!。

 

あなたの名前なんですか!?

 

私の名前は石田悠真(いしだゆずま)です!!。



この映像作品「声枯れるまで」はインタビューだけなら、

良質なドキュメンタリー、ノンフィクションで終わってしまいますが、

最後に叫ぶところが、肝で、作家性が発揮されています。

 

インタビューされているのは、一般の方ですから、

半ばやけくそに叫んでいるのが見て取れます。しかし全力で叫ぶうちに

だんだん、力強く、凄くポジティブなエネルギーが放っていくところが

すがすがしく、初めて観た時、心を打たれました。

 

カミングアウトして何もかも今は幸せなどという単純な話では決してない。

それでも、自分が自分であることを全力で表現することの喜びは

大切なことなのだと、強く感じました。
 

機会があれば、また観たい元気がもらえる作品です。

 

 

作品は、もう1点、若林佑真(女性→ 男性)というトランスジェンダーの方の話があります。

 

この方の話も、とても興味深い話なのですが、ネタバレになるので割愛いたします。

森美術館でぜひご覧ください。

 

 

 

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