江之浦測候所

2024年2月12日(月)


 

「江之浦測候所」をご存知でしょうか。

 

 

現代アーティスト、杉本博司が作った謎の施設。聞いたことがない人の方が多いでしょう。

 

小田原と熱海の間、根府川にあります。海のそばです。江之浦測候所のウェブサイトを見ても高尚な感じでイメージがつかみにくい。ひとことで言うなら「アートな日本庭園」とでも言いましょうか。

 

以前から気になっていて、やっと訪れることができました。

 

 

多少は知っているものの、先入観を持ちたくなかったので情報には触れないようにしました。受付で渡されたパンフレットも全く見ず。ですので何のワクワク感もなく入ったのですが、見終わったまず感想をひとこと。

 

 

かなり、感動しました。

 

 

こういう感動は、瀬戸内の豊島美術館を見た時以来。場が作品となっていました。

 

いろいろなものがあるので、今回は、江之浦測候所を私なりに次の7つのエリアに分けて書いてみます。

 

 

 

  1. 石の庭園
  2. 緑の庭園
  3. 現代建築
  4. 竹林
  5. みかん畑
  6. 展示小屋
  7. 神社

 

 

それではひとつずつ取り上げていきましょう。

 

  石の庭園

 

入口からすぐの場所にあります。さまざまな石を配した庭で、苔もありますが、ほぼ石で構成されています。

 

 

いわゆる枯山水です。周囲に寺などの木造建築物はなく、石と少しの緑で構成されています。借景もなく遠い水平線と空が広々と見えるのが気持ち良いです。

 

 

石って語るんですね。ここにはたくさんの日本各地から集められた石があります。来歴のあるものばかりなので逆にパンフレットは読まずにいたのですが、それでも石そのものの存在感が凄い。大きい、自然によって作られた奇岩もあれば、人為的に整えた石もある。

 

 

この写真の左の正方形の石が並べてある歩道、歩くとしっとりしていて足裏に柔らかい感触なんですよ。見た目以外の感覚に訴えるところも面白いです。

 

 

  緑の庭園

 

 

石の庭園からギャラリーを挟んで反対側から海へ向かう斜面は緑の多い庭園です。ここは茶室のための庭園と言って良いでしょう。

 

この日は雲ひとつ無い晴天なのに地面は所々濡れていました。開場直前に水を打ってあったのです。近くに人の気配は感じませんでしたが、隅々まで手が入っています。

 

 

 

 

まだ未完成な感じもします。これからじっくり時間をかけて隙間を埋めて、育てていくつもりだと思います。

 

 

  現代建築

 

 

入口を入ってすぐのところに建物が2棟あります。海へ向かって伸びる細長いギャラリーは真っ直ぐの回廊です。中に入って進むと左側は全面ガラス張り、右側は石の壁で杉本博司の写真作品「海景」シリーズがかけてあります。

 

 

もっとも、みんな素通りして奥のテラスへ本物の海景を見に行ってしまいますが。

 

 

それから、細長い地下通路。人が二人すれ違える程度の幅で海の方に突き抜けています。エジプトのピラミッドや神殿のように、日の出が真正面に見えるよう設計されているそうです。

 

 

この通路は上にも上がれます。ここでは来場者が変わるがわる海をバックに映える写真を撮りまくっていました。

 

そしてすぐ横に、ガラスの舞台と、それを取り囲むように作られた扇形の石の観客席。ここでイベントの開催も行っています。

 

 

ガラスの舞台は清水寺と同じ柱組で作られています。落ちれば事故になる高さですが、柵などは一切ないところが素晴らしい。とても開放的な空間です。

 

 

  竹林

石の庭園のある場所から斜面を降りると竹林があります。竹林の側には、杉本博司の立体作品があります。

 

 

数理模型のシリーズです。数式で表される3次元の立体を実物にしたものです。円錐上の形の先端は無限に伸びているのですが、模型で実現は不可能ですので途中で途切れています。あくまで、これをみた人が無限に伸びる線を想像することで完成する作品です。

 

 

竹林は歩道があり中を歩くことができるようになっています。足元には筍がいくつも生えていました。空や海の青、石の灰色の後に、竹林の緑、と色彩の変化を楽しめるよう工夫していることが感じられます。

 

 

  みかん畑

敷地の入り口に掲げられていた「柑橘山」の看板の通り、海に面した南向きの斜面にはみかん畑があります。収穫したみかんを運ぶための小型モノレールも残っています。

 

 

下から見上げるとこんな感じ。

 

真っ青な空、深い緑、蜜柑のオレンジのコントラストが心地よい。みかんの実る季節に来て正解でした。

 

 

  展示小屋

使用されなくなった木造の小屋をそのまま展示室にしています。

 

倒壊しないように補強がなされていますが、見栄えは古いままです。あえて仕上げてはいないとも言えるし、これで仕上がっているともいえます。

 

 

 

杉本博司が収集した化石などの展示品もあれば、使われていた古い農機具もあります。

 

展示しているのか、置いてあるだけなのか判然としないところは、コンセプチュアルアートの典型的なやり口です。

 

この中から「おまえの美を見立てみろ。」と言われているようです。

 

 

  神社

 

 

とても小さな神社です。正面から見るととても考えられた作りをしているのがよくわかります。

 

 

玉垣がないので、開けた水平線によって分けられた海と空が巨大な壁のように背景に立ち上がって見えてきます。相模湾そのものがこの社殿の玉垣です。

これは春日神社から正式に分祀したもので、本物の神社です。

 

 

以前杉本博司の展覧会で海を見下ろすこの景色の写真を屏風に仕立てた作品がありました。実際に見て、こんな小さな社殿をなぜ作品にしたのかわかったような気がします。

 

 

 

江之浦測候所はその名の通り、測候所のあった土地に「人類とアートの起源に立ち返る」をコンセプトに設立されました。日本の歴史、縄文時代、そしてその遥か昔、恐竜の時代まで視野に入れ、自然と人工物の両方を取り込んだ空間になっています。

 

アートという言葉が作られる以前から、人間はものを作っていたし、人間がものを作る以前から美しいものは存在しました。価値観が移り変わっても、1000年先の遠い未来に残すべきものを集めています。

 

ここに石が多いのも今に残る古代遺跡は石でできているものが多いという事実を踏まえているからでしょう。

 

緑の庭園には植えたばかりの苗木もあり、これから

歳月を経てもっと深みを増していくのは容易に想像できます。

 

次回訪れるのが楽しみです。そう遠くのことではない気がします。その時はもっと蘊蓄のあるコラムを書くつもりです。

 

 

 

 

 

 

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