2025年1月5日(日)からNHK大河ドラマ「べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜」(脚本 森下佳子、主演 横浜流星)が始まりました。
物語は江戸時代中期に活躍した出版王、蔦屋重三郎(以下 蔦重)が主人公です。喜多川歌麿、東洲斎写楽。今や世界的に有名な絵師たちをプロデュースした今日でいうメディア王。
初回から少年期は飛ばして大人の蔦重が活躍しています。私は大河ドラマファンではないけれども、今年はアートファンとしてコンプリートする気満々です。
<ここからは、ネタバレ含みます。>
大河ドラマといえば武士の物語がメインの中、江戸時代中期の町人文化を取り上げるのは初となります。当時の様子は浮世絵にも描かれているのである程度イメージはできるものの、実写にはおよびません。映画にしても2時間程度。2025年は江戸のあの時代をバーチャルに追体験できる素敵な一年になるでしょう。
見どころは登場人物。不自然なほどカッコいい田沼意次(渡辺謙)。マルチな天才平賀源内(安田顕)。寛政の改革の松平定信(寺田心)。日本史を学べば必ず出てくるビッグネームばかり。
序盤は勝川春章(前野朋哉)が人気絵師の時代。春章は多くの絵師を育てており、葛飾北斎もその一人です。北斎は蔦重との関わりが薄いので出番はなそうですが、話題作りに人気俳優を起用してチラ見せ程度に現れるかもしれません。他にも、北尾重政(橋本淳)、磯田湖龍斎(鉄拳)という絵師たちが若い蔦重を盛り上げます。
それから蔦重の仕事で欠くことのできない世界的に有名な二人の浮世絵師。
- 喜多川歌麿
- 東洲斎写楽
蔦重は喜多川歌麿の大首絵の美人画によって時代の寵児となります。吉原に生まれ育った蔦重が、吉原に生きる人々のために、数々のアイデアで版元として成り上がり、市中の娘や花魁を時代のスターにしていきます。おそらくここまでが前半のヤマ。
現代の私たちには浮世絵の人物画はみな同じ姿をしているように見えますが、そうではありません。特に歌麿は当初は定型的な表現だったものを、顔の特徴、仕草、場面など、人間観察に基づいたものに発展させてていきます。それは後に西洋の画家たちにも強い影響を与えます。
後半は幕政が田沼意次から松平定信に変わり次々と繰り出される改革(規制?)と戦いながら謎の絵師、東洲斎写楽をプロデュース、デビューさせるまでというのが私の予想です。東洲斎写楽は世界的にも有名で人気の肖像画家です。一体誰が写楽になるのか?そして写楽は話題にはなったものの人気は今ひとつだったはずで、そのあたりの評価をどう描くかは興味があります。
NHKですから、時代考証もしっかりしているでしょう。放送期間も長いので、絵師、彫師、摺師の仕事ぶりも丁寧に映像化するようです。先日の第三回では、本作りの作業を長い尺で見せていました。浮世絵が分業によって制作されていることを知らない方も意外に多いので、新鮮な驚きもあるのではないでしょうか。浮世絵という版画は技術的な進化、工夫が常に行われていきます。一方でコスト、利益という視点でも成立させるというビジネスの観点があるので、そこが従来の大河ドラマにはない面白さになると思います。
吉原の再現も楽しみです。まさに江戸のスターとなる個性豊かな花魁たち。蔦重の作ったガイド本『一目千本』では植物に例えて紹介されます。さらに技術の進化で遊郭の街並みや遠景もリアルに再現されます。一方で病を患い薄汚れた暗く狭い部屋で床に伏す女郎、死んで衣服をはがれ裸で棄てられる亡き骸、そんな場面もあります。綺麗事では済まされない境遇にありながら文化を築いた世界の光と闇、幸福と不幸も描かれていくでしょう。
話は少しそれますが、昨年開催された東京藝術大学大学美術館の『大吉原展』。吉原をテーマに展覧会を開くことについて、現代の人権意識からすれば、一種の奴隷制度ともとらえることができるような場所を肯定するものではないと、しっかり記されていました。
博物館なら社会学的な視点で長短合わせてみせるというのもわかりますが、美術館はそういうものではないと私は思います。偉大な芸術家の中には人格的にはクズな人が結構いますが、展覧会では偉人のように見せていることもよくあります。その辺の加減はうまくやってほしいです。
この大河ドラマも茶々が入って、夢物語が渋い話にならないことを祈ります。あくまでも想像ですが、当時の人たちは表に出す姿には己の矜持をかけていたのではないでしょうか。だから輝きがあり、その美が今でも多くの人々を魅了している。タイトルのように夢物語が続くとよいのですが。
最後に、小芝風花が演じる花魁、花の井(後の五代目瀬川)が、平賀源内に放ったこの言葉で締めさせていただきます。
引け四つまでのたかが戯れ、
咎める野暮もおりますまい。
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