須田悦弘
渋谷区立松濤美術館
2025年1月4日(土)


 

 

須田悦弘は彫刻家です。本物そっくりの実物大の植物の木彫作品を手がけます。

 

私が初めて見たのは原美術館かどこかの芸術祭。あまりに本物なので、作品なのか分からなかった覚えがあります。


 

16 雑草

 

17 雑草

 

こんな感じですので、実物の雑草を使った作品なのか、彫刻なのか見て判別はほぼ不可能。

 

14 ミケリテ

 

しかも、たしかこんな感じで離れたところに展示されていたような。

 

今回は個展ですから、近い距離の展示が多くわかりやすかったです。

 

3 雑草(金)




5 スルメ

 

本格的に初めて彫った彫刻がこれです。天分があると言っていいでしょう。多摩美術大学在学1年の時の模刻の課題で、見本の干物を用意するのを忘れて友人から借りたスルメを、購買で300円で購入した彫刻刀で彫ったといいます。

 


8 朴の木

 

卒業制作です。大学の構内に生えていた朴の木を対象にしています。朴の木の花は立派なので印象に残っていたという程度の理由だったのですが、その後、朴の木を材料に彫刻を作るようになりますから因縁を感じます。ただ、この作品は楠で制作しています。

 

 

9 東京インスタレイシヨン

 

グラフィックデザイナーとして就職したものの、作品を作りたい気持ちは断ち切れず、1年で会社を辞めます。東京インスタレイションは、ギャラリーを借りるお金もない中、銀座で作品展示をするために自作した仮設ギャラリーです。駐車場に自動車1台分のスペースを借りそこに設置しました。

 

 

 

 

この細長い展示室内に入ると、奥に精巧な植物の木彫を天井、展示台、床に配置しています。この狭いスペースが天井の金地、床の漆のような黒によって品の良い和室のようなインスタレーションになっています。当時話題にもなって、以後このスタイルで活動を続けていきます。

 


11 バラ

 

花びら一枚一枚の薄さ、精巧な彩色の技で本物に見えます。


13 ヒナゲシ

 

接近すると、おしべとめしべ一本ずつまで丁寧に作り込んであり、対象に迫る高い集中力が伝わってきます。

 

26  朝顔

 

こういう超絶技巧の小品は手にとって見ることのできる距離で展示するものですが、須田悦弘は違います。


33  ドクダミ

 

あえて見えにくいところに、距離をとって展示します。植物は地面に生えるものだから床に展示するという理由だけでないようです。私たちの普段いる立ち位置から、植物の目線で見える世界へ連れて行ってくれます。

 


37 春日若宮神鹿像
   五髷文殊菩薩掛仏

 

須田悦弘は仏教彫刻にも関心をもっているそうです。それを聞きつけた杉本博司から仏教彫刻の補作を依頼されます。日本の古い仏教彫刻には破損しているものが多くあります。補作とは、失われた部位、破損した部位を修理するようなもので、ただの修理と違うのは必ずしも元の状態を再現するものではないということ。

 この鹿の角、背中から生える榊、鹿の乗る台座の雲が須田悦弘の補作です。

 

38  随身坐像

 

こちらは左手と弓が補作です。手首の年輪の向き、弓のしなる形。あとで継ぎ足されたようには全く見えません。もとの彫刻の姿を徹底的に見つめてあるべき形を想像、創造しています。



須田悦弘の作品は小さくて、あまりに実物に近く、私たちの目の届かないところに展示されているので、ここにあるよと言われなければ気づきません。

 


しかし、ひとたび作品とわかれば、それは驚きとともに私たちの見る力を引き出してくれます。


テクノロジーを駆使したキラキラのメディアアートも良いですが、小さく静かなものの中にある驚きに目を凝らし耳を澄ますのも良いのではないでしょうか。




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