東京フクロウ | 小説のブログ

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 梟(ふくろう)が巣に帰って行く。
翔(ショウ)にはわかっていた。それが朝の合図だと。

礼拝はいつも日曜の朝早くから行われている。翔は郊外の礼拝堂の近くに車を止めた。少し長めの髪にすらりとした長身をコートで包んでいる。

ドアを静かに開ける。飛び込んで来る高藤牧師の澄んだ声と色とりどりのステンドグラスの色。高藤は翔に気づくと微かに頷いた。座らず、一番後ろの壁に凭れる。誰かが声をかけてくれる。
「空いてますよ」
 翔は会釈をした。いつも通り。鮮やかな色取り取りのステンドグラス。光達。翔は目を擦った。右からの光。太陽の差し込む光。

 矢、みたいだ。翔は思った。

矢、みたいだ、と。

 

「ちゃんと食ってるのか」
 高藤は礼拝の後、紅茶を淹れながら翔に尋ねた。礼拝堂の横にある私宅のテラス。翔はデッキ・チェアーに座りながら頷いた。
「仕事終わりに来るのはいいが運転は大丈夫なのか。ろくに寝てないんだろう」
「少し寝たよ」
 暖かい紅茶。息を付く。
「翔、少し仕事休んだらどうだ」
「休めないよ。レンタル料も要るし」
「医療器具っていうのはそんなに高いのか」
「まあまあ」
「お前が倒れたら元も子も無いんだぞ」
 翔は立ち上がった。
「そろそろ行くよ」
「待て、これを持ってけ」
「あったかいね、焼き立て?このパン」
「ああ、礼拝の前にな」
「ありがとう。ミギコが喜ぶよ。じゃ」
 翔はテラスの柵をひょいっと飛び越えた。