No.200 聞いたことも無い子の名前(ユメミタ)

安心から不安
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辺りを見渡すと、そこは私の実家でした。
それにしてはやけに窓などが高く感じるな~と思いながら、洗面所に向かうと鏡に映った姿は小学5・6年生くらいの男子でした。半袖の白シャツに黒の短パン。いかにも小学校の夏服と言う感じです。
「用意はもうできた~?」と台所から母の声がするので行ってみると、両親が旅行鞄を持っていました。父が「久しぶりにお祖母ちゃんに会えるな。」と言うので(祖母の家にいくのかな?)と察しがつきました。
父の運転する車に乗って、私達は祖母の家へ向かいました。車の中から見る景色は凄い速度で変わっていき、あっという間に山の中へと入りました。「ついたぞ。」との声にハッと我に返ると、既に祖母の家に到着していたのです。(本当ならもっと時間がかかる筈なのですが。)
それから、祖母に挨拶をしてすぐさま外で遊びました。しかし、すぐに1人遊びも飽きてしまい、庭の土を木の棒でほじくりながら「面白い事ないかな~。」と呟いていました。すると、祖母が外にでてきて「今日はあの山で自転車の競争をしてるみたいよ。」と、辺りで1番高い山を指差して言いました。
「自転車の競争?レース?」と聞くと「そうみたいねぇ。」と答えたので私はワクワクしました。すぐに両親の元へ行き「僕、自転車のレース見に行ってくる!」と言うと、「1人で平気?」と母。父は「平気だよな!」と笑っています。私は「大丈夫だよ!」と興奮しながら言いました。
そんな私に父は、昼ご飯代とバス代を渡して「家を出て少し歩いた所にバス停があるから、そこからバスに乗るといいよ。」と教えてくれます。ワクワクが抑えきれません。まるでこれから大冒険へ出かける気分です。
祖母が「バス停まで一緒に行こうね。」と言うので、一緒に歩いて行きました。バス停へ着くとすぐにバスが来たので乗車し、窓越しに手を振りました。
バス停をいくつか通り過ぎた所でお蕎麦屋さんが見えたので、途中下車します。時間は12時少し前くらいでしょうか?私はお店に入りお蕎麦を頼んで静かに待っていました。すぐに温かいお蕎麦がテーブルにきたので、美味しく頂きました。
食べ終えるぞと言う時に、溢れんばかりのお客さんが店内へ入ってきました。昼時のピークになったのでしょうか。店員さんもパニック状態で注文をとっています。私は会計するためにレジへ行きます。そこで若い女性店員さんに「あの、僕で良ければお皿洗い手伝いましょうか?」と言いました。
女性店員さんは「本当?!助かるわ~!」と言って私を厨房の隅にある洗い場へと連れて行ってくれたので、そこからは黙々とお皿を洗い続けました。こういう作業は好きな方なので、全く苦痛は感じません。ノリノリでお皿洗いをしていると、女性店員さんが「もう大丈夫!有難う~!」と声をかけてきました。
時計を見ると1時間程経っています。私が「よかった~それじゃ、美味しかったです。」と手を洗って店を後にしようとしたその瞬間、女性店員さんは私を押し倒しました。その行動に怖さを感じ、私は必死に手を振りほどき逃げるようにお店を後にしました。
全速力でバス停まで走っていくと、そこには遠目からでもわかる派手な服を着たいかにもな「オバチャン」が居ました。オバチャンは私を見て「あれ?!僕どうしたの!?」と声をかけてきました。
そしてすぐに鞄をガサゴソして「お水飲み!」とペットボトルの水を渡してくれました。お水を飲んで落ち着くと、すかさず「飴ちゃんも舐めとき!」と言って鷲掴みした飴を沢山くれました。オバチャンと居ると、先ほどお蕎麦屋さんであった出来事を忘れてしまうかのように明るい気分になりました。
そうしているとバスが来たので、オバチャンと乗車。もちろん席もお隣。ずっとお喋りをしていたように思います。お話をしていたらオバチャンが「あ!着いたで!」と言うので、窓から景色を見ると、自転車レースの大きなゴールが見えました。
バスから降りると、そこには巨大なモニターが設置されています。そのモニターには自転車レースの選手たちが映っています。それをみてオバチャンが「わー!頑張れ!」と応援し始めました。あまりに熱心に応援するので「ねぇオバチャンは自転車レース好きなの?」と聞きました。
すると「あはは!このレースに私の息子が出てるんよ。」と言うではありませんか。オバチャンには息子さんが居たんだ!と何故か私もテンションが上がります。そしてモニターに映し出された選手を指差し「あ!あれあれ!あれが息子~!」とオバチャン大興奮。周りの人たちは「もうすぐゴールだな。」と喋っています。
そんな時、急にモニターへ「臨時ニュース」と言う白に黒の縁取りがされたテロップが出ます。チャイムのような音が聞こえた後、モニター全体へ文字が映し出されました。しかし、私にはその文字が読めません。歪な形をした見た事も無い文字が並んでいます。
不安になってオバチャンを見ると「はぁ?!なんで!?馬鹿か!!」と怒っています。周りの観客も悲鳴をあげたり、急いで帰り支度をしたり、中には泣いている人も居ました。会場はパニック状態です。私は何が何やら分からずポカーンと口を開けていました。
するとオバチャンが「僕?僕は帰りもバス?」と聞きます。私は「そうだよ!お祖母ちゃんの家の近くのバス停までバスで帰るよ!」と答えました。それに対して「ほなら、帰りはオバチャンと一緒に車で帰ろう~。息子は車で来てるから乗せてもらおうね!」と優しい声で言ってくれます。
周りがパニック状態の中でも、オバチャンは焦らず、まるで私に混乱させないように声をかけてくれました。
そんな話をしていると、自転車を押して男の人が近づいてきます。「大変。緊急事態や。」とオバチャンに向かって第一声を発しています。オバチャンも「分かっとるがな。はよ帰る支度して。あと、この子を車で送ってやってな。」と話をしています。その状況から、その男の人がオバチャンの息子さんだと分かりました。
息子さんは急いで帰り支度をして、私とオバチャンを車に乗せて山を下りました。時々私へ「この道か?」と聞いてなんとか祖母の家に帰ってきました。祖母の家へ着くと焦りながら、祖母と両親が外へ出てきました。そして、オバチャンと息子さんに「すみません。本当に有難うございます!」とお礼を言っています。
それに対してオバチャンは「かまわんよ~。それより、大変な事にならんかったら良いけど…」と言っていました。そしてすぐに「オバチャン行くわ~いっぱいお話してくれてありがとう!」と私に言って息子さんの車に乗って帰っていきました。
そうこうしていると、祖母の家へ住む弟夫婦も帰ってきて私達も自分たちの家へ帰ろうという事になりました。お泊りのはずだったのに。急にドタバタ動き始める展開について行けません。父の車に乗るとまた時を飛ばしたような感覚で家へと到着しました。
家に帰って、真っ先にテレビの電源を入れると、砂嵐が映りました。ザーと言うなんとも薄気味悪い画面。面白い番組はやっていないのかな?とチャンネルを変えますが、どれも砂嵐。電源を切ろうかとした瞬間、砂嵐がやんで画面が真っ青になります。
故障かな?と思って待っていると、青色がだんだんなくなり、灰色のような色になります。「あれ?どうしたんだろう。おかしいなあ。」と私が言うと、隣で旅行鞄を片付けていた母が「本当におかしいね。戦争だなんて。」と呟きました。
その声を聞いた途端、爆音で戦車の走行音が鳴り響きます。救急車のサイレンも聞こえてきました。「え?!」と驚いて、裏口から見える道をそっと覗いてみると、小さい戦車がゆっくり通り過ぎている所でした。「どういう事?!」と軽くパニックになります。
すると、つけっぱなしにしていたテレビの画面がまた砂嵐へと変わります。今度は耳が痛くなるほどのノイズ音が鳴っています。「うぅ…」と思わず耳を塞ぎましたが、効果はありません。
しばらくたつと、ノイズの中から歌が聞こえてきました。子供の合唱団が歌うような声で、悲しそうなメロディーです。「かわいそうな~女の子~♪」という歌詞が2度ほど繰り返されました。先ほどまで旅行鞄を片付けていた母の姿もそこにはありません。「おかしい!何かおかしい!」と私はパニックになってテレビの電源を切ろうとしました。
すると耳元で、ゆっくりと男の人の声で「マチルダちゃん…」と聞こえました。そこだけは、メロディーもなく、まるで語りのような口調で。しかし、単調でロボットのようなその声に私は酷く恐れを感じました。
男の人の声を皮切りに合唱団の声で「マチルダちゃん」「マチルダちゃん」と繰り返されます。まるで壊れたレコードのように何度も何度も繰り返されます。その名前が呼ばれるたびに、テレビ画面や床、壁にドレスを着た西洋風の人形が映し出されます。
それぞれの顔は違いますが、どれも泥を浴びたように汚れています。人形なのにとても悲しそうに見えたのです。歌は止むことが無く、息が苦しくなってきた所でハッと目を覚ましました。
起きてから心臓がバクバクしており、お茶を飲んで一息つきました。しかし、最後に聞いた「マチルダちゃん」と言う言葉が脳内に焼き付いて離れなかったのです。
何か意味があるのかと気になって検索してみると、そのような名前の戦車があるという事が分かりました。これまで1度も聞いたことが無かった名前だったので、凄く驚いたのですが、私はさらに驚愕する事となります。
「マチルダ」と名前の付いたその戦車の見た目は、まさに夢の中で裏口から恐る恐る見た、あのゆっくり進む小型の戦車の形そのままだったのです。
何がどうしてそのような夢を見たのか、またそういう物を無意識に認識していたかなどは分かりませんが、怒涛の展開にひどく疲れてしまいました。
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