着工から10年、未だに開業しないホーチミンメトロのゴタゴタに頭痛が痛すぎる

metro ベトナム経済

いつか書きたいと思っていたテーマ。

ホーチミンの都市鉄道1号線(以下、ホーチミンメトロ)の開業が遅れに遅れています。計画決定から15年、着工から10年経った今でも工事は続けられており、3度の開業時期見直しのすえ2023年末の開業を目指しています。遅延の背景には膨らみ続ける事業費とその予算承認を阻む政治のゴタゴタがふんだんに盛り込まれており、前回の記事に続いて(違う意味で)頭痛が痛くなる内容となっております。コロナも落ち着き、長年続いてきたコンサル費用未払い問題に先日解決の目途が立つなど事態は好転に向かってはいるようですが、それでも開業までにはもうひと悶着ふた悶着ありそうな感じです。

今回は、ホーチミンメトロにまつわるニュース記事をひっくり返してその歴史をひも解いていきたいと思います。

ホーチミンメトロの概要

ホーチミンメトロはホーチミン市中心部から東方面へ、新しく創立したトゥードゥック市を通ってお隣ドンナイ省の手前までを結ぶ全長約20kmの都市鉄道です。ホーチミン市ではもちろん、ハノイの都市鉄道2A号線に先んじてベトナム初となる都市鉄道となる予定でした。3つの地下駅と11の高架駅があり、1区を抜けたあたりから地下鉄から高架線となります。なお工事の完成に先立ち、メトロ沿いの不動産価格は既にかなりの上昇を見せています。

総事業費は日本円で約2200億円。事業費の大半が日本からのODAで賄われ、施工者として住友商事・清水建設・前田建設・三井住友建設、コンサルタントとして日本工営など日系7社が参画し、車両の供給を日立製作所が行っています。

計画が決定し、日本工営を中心とした事業共同体NJPTと、ホーチミン市都市鉄道管理局(MAUR)がコンサル契約を締結したのは2007年のこと。当時の総工費は約1260億円と見積もられ、2015年の開業を目指していました。

膨れ上がる事業費と、度重なる遅延

その後専門家による精査を行ったところ、原材料費や賃金の上昇も相まって、2009年には当初の予算を大幅に上回る2360億円もの費用が必要になるとの結果が。なんと2年の間に2倍に迫る大きな予算変更の必要性が早くも生じてしまったのでした。これは当時ベトナム側に事業費を正確に見積もる専門家がおらず、当初の見積りがあまりにも甘かったというのが実際のところのようです。首相決定によりなんとか2012年8月に着工にはこぎつけるものの(このときは2018年開業目標)、事業費の予算決定はなされないまま工事は進んでいきます。

そしてなんと、この予算が国会の承認を得るのに実に10年を要しています。公的債務残高の拡大を避けたい政府により国会審議は難航し、上程された予算より約170億円削減される形でようやく予算が承認されたのが2019年。予算が提出されるまでにもMAUR、市、交通省、計画投資省、首相など様々な機関の都合や思惑が絡み合い、また安易に自分の持ち場で承認してしまうと後から問題が発覚したときに遡って罪に問われてしまうことを恐れて、承認はずるずると後ろ倒しになっていったのでした。

終点ひとつ前のスイティエン駅のようす(2020年)。右手にはカオスなテイストが持ち味のスイティエンパークが見えます

ホーチミン市はなかなか政府からODAの資金が下りないなか、それでも工事進捗とともに発生してくる工事費やコンサル費用を支払うため、2019年11月までに3度にわたって計約250億円を自腹で拠出しています。それでも全体には行きわたらず未払いが発生。2018年にはその未払い額が110億円を超え、在ベトナム日本大使がホーチミン市幹部に対して工事中断の警告を行う異例の事態にまで発展しています。

それでも未払いは続きます。コンサル共同体であるNJPTは追加で発生した業務に関する新たな契約を締結するため2017年より30回以上にわたって交渉を継続。19の契約のうち18は締結できたものの、約90億円にのぼる残りひとつの契約合意に至らず。2021年7月にはついに、彼らは4年以上の未払いを経て運転士や運行管理者等の研修、ITシステム導入作業など業務の一部停止に踏み切りました。現場監理や建設指導や続行しているとのことですが4年未払いて!4年なんてマンションやビルだったら最初から最後まで完成しちゃうし90億円未払いて!中小だったらとっくに潰れちゃってるで。。コンサル共同事業体のみなさん、ご心労本当にお察しします。。今年4月に入ってようやく、最後の契約90億円に対してホーチミン市の承認が下りたことで、試運転への道が開けていくことになります。

始発のベンタイン駅の地下工事

コロナによる遅延がさらに追い打ちをかける!

ここで、過去の記事から追えた工事の進捗状況をまとめておきます。

2018年3月時点50%完了
2019年11月75%
2021年7月86%
2022年4月89%

2021年夏から現在にかけて、ほとんど工事が進んでいないことがわかります。コンサル共同体は進行中の工事が止まることはないように指導は続けていたはずです。となると原因は…そうです、世界各地にワンテンポ遅れて昨年ホーチミンで猛威をふるったコロナによるものです。とりわけ昨年夏から秋口にかけては、ホーチミンはロックダウンによって工事がまったくできない事態となりました。ベトナム国外から外国人の専門家の入国も困難になり、また日本から納入されるはずだった車両の到着も5か月遅れることになりました。2017年に策定し直した2021年末までに開業する目標は断念され、2023年末以降にまたもずれ込むことに。

日立が供給するメトロの車両。かっくいい!乗りたい!

ニュース記事では触れられていませんが、ここまでずれ込んでくるとまたしても予算の問題がぶり返してくるのでは、と思わずにはいられません。精査の上で2019年に承認された予算とはいえ、その原型が提出されたのは2009年のこと。まさか試算にインフレ率が考慮されてないということはないとは思いますが、2009年から2022年にかけては物価が約2倍になっています。2021年末から開業が2年ずれ込んだだけでも、その間の物価は約10%上昇する見込みです。加えて、最近の建材の上昇率はすさまじく、アルミや鉄筋は昨年比で40%から60%近くまで上がってしまっています。工事は完了間近ということでそこまで多く建材を使うことはないかもしれませんが…ロックダウン中の完全ストップの間であっても現場管理費は発生し続けるでしょうし、開業までにカネ払い関係でもうひと揉めするんじゃないかと予想しています。実際、昨年末に開業したハノイでまさにそれが起きています。

地下部分を抜けて高架線が始まってすぐの辺り。シティガーデンの第2期がまだ建設中

10回遅延し、最後までカネで揉めたハノイメトロ

最後に少しだけハノイの都市鉄道2A号線について触れます。全長約13kmのハノイメトロは、2011年に着工し2015年に開業する予定でした。ところがこちらも遅延に遅延を重ねたすえ、2021年の11月にようやく開業を迎えました。直近では同年4月に開始する予定であり、工事も完成して安全確認も済んでいたのが、約8億円の追加コンサル費用未払いが発覚して開業できずにいたのでした。。

試運転中のハノイ2A号線(2018年)

おわりに

ホーチミンメトロは2012年に僕がはじめてホーチミンに赴任したころに工事が始まり、その進捗をずっと見守ってきました。ハノイメトロも出張中にわざわざ始発駅から終点駅まで工事進捗を見に行ったこともあり、先日晴れて実際に運行している車両に乗ったときはそれは感慨深いものがありました。ホーチミンメトロも僕の赴任期間中になんとか完成してほしい…。ヘタしたら車中で泣くかも。

ハノイハイウェイに沿って進むホーチミンメトロ。郊外部からホーチミンの摩天楼を望む

参考資料・画像引用元

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