アルザスワインの法規変更 ピノ・ノワール使用のアルザス・グランクリュが可能に

アルザスワインの最高格付け、グラン・クリュにおいて、ピノノワール種が使用可能になった。2022年ミレジムより認可予定。但し、ヴィンツェンハイムWintzenheim村のヘングストHengstと、バール市Barrのキルシュベルグ Kirchbergの2つのグランクリュのみである。2022年5月13日付けのフランス政府官報による。

アルザスグランクリュ ヘングストHengst ドメーヌ・ジント・ウンブレヒト
アルザス グラン クリュ ヘングスト Hengst ゲヴュルツトラミネール
ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒト 画像引用:Zind Humbrecht

ドイツとの国境に近いアルザス地方には、15,600haのブドウ畑があり、年間約150万本のワインを生産する。この内、51のブドウ畑、計850haが最高格付けであるアルザス・グラン・クリュを名乗ることが出来る。但し、ブドウ品種はリースリング、ピノグリ、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカの白ブドウ4品種に限定されてきた(唯一の例外は、ゾッツェンベルク Zotzenbergにのみ認められた品種シルヴァネール)。今回上記の2つのグラン・クリュに限り、黒ブドウ品種ピノ・ノワールでもアルザス・グラン・クリュを名乗ることが出来ることになる。これまではグラン クリュの畑にピノ・ノワールを植えても、グランクリュを名乗れなかった。今回の決定は、アルザスワインの世界において、画期的な出来事と受け止められている。ピノ・ノワールに定評のある2つのテロワールが選ばれグランクリュになったこともあるが、地球温暖化によってアルザスでもピノノワールがしっかり熟すようになったことも見逃せない。

グランクリュになるピノ・ノワールは一般のアルザス・ピノ・ノワールに比べて厳しい法規を守る義務がある。例えば、収穫段階の潜在アルコール度数に関して、一般のアルザス・ピノ・ノワールは最低アルコール度数11%だが、今回のヘングストは12.5%、キルシュベルグ・ド・バールは12%。しっかり熟さなければグランクリュを名乗れないようになっている。収量も一般のアルザス・ピノノワールは60hl/ha以下が義務だが、今回の2つのグランクリュは40hl/ha以下。さらに、補糖は一切禁止。熟成期間も最低10ヶ月と長い。一部の法規はブルゴーニュよりも厳しく設定されている。

ポール・ブシェール Paul Buecher のアルザス・ピノ・ノワール "H"
ポール・ブシェール Paul Buecher のアルザス・ピノ・ノワール ”H”
画像引用:Paul Buecher

ヴィンツェンハイムWintzenheim村のグラン・クリュ、ヘングストHengstは、オーラン県Haut-Rhinにあり、コルマールに近い。泥灰質、石灰質、砂岩を含む土壌Marno-calcaro-gréseuxであり、ゲベルツトラミネールやピノ・グリ種が主に植えられてきた。ツィント・ウンブレヒト、ジョスメイヤー、アルベール・マンが代表的な生産者だ。このグランクリュ約53haに植えられたピノ・ノワールは5ha程で10人の生産者がいる。。ヘングストHengstの頭文字Hをとって、「ピノ・ノワール H」という名称で販売されてきたワインが多かったが、これからは「アルザス・グランクリュ、ピノ・ノワール ヘングスト」を名乗ることになる。アルベール・マンAlbert Mann、ポール・ブシェールPaul Buecher、ステンツ・ブシェール Stentz-Buecher、 アンドレ・ステンツ André Stentz、エビンジャー Hebinger、ドメーヌ・サン・レミ Domaine Saint-Rémyなどがヘングストでピノ・ノワールをつくっている。

バールBarr市のグラン・クリュ、キルシュベルグ Kirchbergは、バーラン県Bas-Rhinに位置し、コルマールよりもストラスブールに近い。 キルシュベルグの名前を持つアルザス・グラン・クリュはリボヴィル村にもあるので、キルシュベルグ・ド・バール Kirchberg de Barrと一般に呼ばれる。泥灰質と石灰質を含む土壌Marno-calcaireであり、約41haの畑には主にゲベルツトラミネールやリースリングが植えられてきた。ピノ・ノワールは約4ha、7人の生産者がいるという。マルク・クレイデンヴァイス Marc Kreydenweiss、ドメーヌ・ストフラー Domaine Stoeffler、ドメーヌ・ボエケル Domaine Boeckel 達がこの地のピノ・ノワールで知られている。これまで Kirchberg de Barrの頭文字を取り、「ピノ・ノワール K」「ピノ・ノワール KB」等を名乗っていたが、これが「アルザス・グランクリュ 、ピノ・ノワール キルシュベルグ・ド・バール」となる。

2015年、上記2つのグランクリュと同時に申請を行ったヴォルブール Vorbourgに関して言及する必要があろう。ルーファック市 Rouffachとウェスタルテン村 Westhaltenにまたがるこのグラン・クリュは、今回は認められなかったが、引き続き検討の扱いとなっている。この畑からつくられるドメーヌ・デュ・クロ サン ランドラン、「ピノ・ノワール V」は、世界中でその品質が知られているが、他の生産者のピノ・ノワールの品質が足を引っ張ったのかもしれない。

クロサンランドラン、ルネ ミュレ のアルザス・ピノ・ノワール "V"
クロ サン ランドラン、ルネ ミュレ のアルザス・ピノ・ノワール “V” 
グラン・クリュ・ヴォルブールの畑からつくられる。
画像引用:Mure

今後、他のアルザス・グランクリュでもピノ・ノワールを申請する動きが広がることは、確実視されている。既にエギスハイム Eguisheim 村のアイシュベルグ Eichbergや、エギスハイム村からヴィンツェンハイム Wintzenheim村にまたがるプェルシックベルグ Pfersigberg等いくつかのグランクリュの名前が上がっている。

アルザスはこれまで白ワインが高く評価されてきたワイン産地だ。しかし、赤ワインにも脚光が浴びることで、新たな動きもでてくると予想される。アルザスワインの総生産量の約11%がピノ・ノワールだが、今後赤ワイン生産が増えていくと予想されている。

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