有給休暇っていつでも取れるの?
有給休暇とは、労働基準法で認められた「給与をもらって休める労働者の権利」です。基本的に、企業は従業員から有給の使用を申請された場合、申請を拒否することはできません。
また、有給取得率の改善を目標に、働き方改革の一環として有給休暇の消化が2019年4月より義務付けられています。
今回は、有給休暇に関する基礎知識を解説していきます。
目次
1. 年次有給休暇とは
年次有給休暇は、従業員の心身のリフレッシュを目的に有給で休暇を与える制度で、労働基準法で認められた労働者の正当な権利のひとつです。基準を満たした人であれば、雇用形態を問わず年次有給休暇が付与され、取得することができます。
一般的に、従業員は仕事を休むと休んだ日の給与をもらうことができません。しかし、企業から付与された年次有給休暇を使って休んだ場合、働いていなくても給与が発生します。
1-1. 労使協定を結べば時間単位でも取得が可能
有給休暇は原則として1日単位で取得するものですが、労使協定を結べば、年5日を限度として時間単位で取得させることができます(時間単位年休)。
なお、半日単位年休(半休)は労使協定の締結なしに取得させることができ、日数の上限もありません。
1-2. 年5日は取得させる義務がある
働き方改革関連法の施行により、大企業の場合は2019年4月、中小企業の場合2020年の4月から「年10日以上の有給休暇を与えている従業員には、5日以上の有給を取得させる必要がある」とされ、年次有給休暇の取得が義務化されました。
もともと、日本では法律で認められた有給休暇の取得率が非常に低いという問題を抱えていました。プライベートよりも仕事を優先する考え方が浸透していた事などが原因の一つと考えられます。また、企業としても、休まないで働く人を評価する傾向があるのも否めません。
このような背景から、有給休暇制度自体はあっても実際には使えない、または使いずらい職場の雰囲気が生まれてしまったと考えられます。
そのようは背景がありましたが、昨今、相次ぐ長時間労働や過度の残業、生産性の低下などが進み、過労死などの社会的な労働問題が発生したことなどを受けて、働き方改革の一環として有給休暇の取得が義務化されました。
年10日以上の有給休暇を付与されている従業員は、有給休暇を付与してから1年以内に5日以上の有給休暇を取得しなければ、企業が法令違反となります。
2. 有給休暇の発生要件と付与のタイミング
年次有給休暇、いわゆる有給とは、条件を満たしたすべての労働者に対して与えられますが、その条件とは具体的にどのようなものなのでしょうか。また、付与するタイミングについても決まりがあるため、確認しておきましょう。
2-1. 雇い入れ日から継続して6ヶ月間勤務し、その出勤率が8割以上の時に発生
年次有給休暇は、入社から6ヶ月間継続して勤務しており、かつ、出勤率が8割以上の時に付与する必要が発生します。
正社員、パート・アルバイトといった雇用形態に関係なく、上記の条件を満たしていれば、有給休暇が付与されます。
2-2. 労働基準法で定められた基準日は入社後6ヶ月が経過した日
年次有給休暇を付与するタイミングは「基準日」とよばれ、労働基準法では入社から6ヶ月間経過した日を基準日としています。
ただし、労働基準法が定めているのは最低基準であるため、入社後6ヶ月が経過するのを待たずに、入社日などに新入社員へ有給休暇を付与しても問題ありません。特に有給休暇の付与ルールは企業によって様々であるため、初めて働く方や転職する方は、就職先に有給休暇の付与ルールを確認しましょう。
3. 有給付与日数の計算方法
年次有給休暇は入社から半年経ち、かつ、その出勤率が8割以上に達している全従業員が付与されますが、付与する日数は所定労働日数もしくは所定労働時間によって異なります。
また、勤務継続年数によっても付与する日数は変わるため、有給休暇の付与日数について確認していきましょう。
3-1. 正社員の場合
週の所定労働時間が30時間以上、週の所定労働日数が5日以上、もしくは年間の所定労働日数が217日以上の従業員には、入社から6ヶ月が経過した時点で10日の有給休暇が付与されます。
入社から半年が経った時点で10日の有給休暇を付与し、それ以降は1年が経過して基準日がくる度に前回よりも日数を増やして有給休暇を付与していきます。増やす日数は労働基準法で勤務継続年数ごとに以下のように定められています。
【勤続年数ごとに付与される有給休暇の日数】 ・半年 : 10日 ・1年半 : 11日 ・2年半 : 12日 ・3年半 : 14日 ・4年半 : 16日 ・5年半 : 18日 ・6年半以上 : 20日 |
勤続6年半を越えると、毎年20日ずつ有給休暇が付与されていきます。
ただし、上記のルールは、あくまでも労働基準法で定められたものです。労働基準法は、働くうえで最低限守っておくべきルールなので、これよりも多くの日数が付与されても問題ありません。
3-2. パート・アルバイトは比例付与
アルバイトやパート・派遣社員も職種や立場に関係なく、労働基準法では、半年以上同じ会社に勤めており労働日の8割以上出勤していれば有給休暇付与の対象です。
週の所定労働時間が30時間以上、週の所定労働日数が5以上、もしくは年間の所定労働日数が217日以上に満たないパート・アルバイトなどの従業員には、所定労働日数や所定労働時間に応じて付与する日数が定められています。これは「比例付与」とよばれ、付与すべき日数は以下の表の通りになっています。
なお、パート・アルバイトであっても、付与された有給休暇が10日以上になった場合は年5日の取得義務の対象になります。
4. 有給休暇分の給与はどうやって計算するの?
有給休暇は従業員が休んでいた日の分も賃金支払いの義務が発生するため、給与計算の方法を確認しましょう。
有給休暇の給与計算には、以下の3つの方法があります。
・有給を取得した日も出勤したとみなし、通常通り給与計算をする
・直近3ヶ月分の給与と所定労働日数から求めた平均賃金をもとに給与計算する
・健康保険料の算定に利用する「標準報酬月額」を用いて給与計算する
なお、標準報酬月額を使って給与計算をする場合は労使協定の締結が必要になります。
5. 有給休暇の取得方法
2019年4月から年5日分の有給休暇取得が義務化となりました。年次有給休暇を取得する方法としては、「申請制で個人取得」、「使用者が時季指定する」、「計画年休」を設けて全従業員が一斉取得の3パターンがあります。それぞれについて確認していきましょう。
5-1. 申請制で個人取得
従業員が年次有給休暇の取得を希望するタイミングで申請をあげ、消化していく方法です。企業の中で従業員がそれぞれ希望する日にバラバラで有給休暇を取得する方法で、最もポピュラーな年次有給休暇取得方法です。
5-2. 使用者が時季指定する
従業員に対し企業側から時季を指定して休ませる方法もあります。時季を指定する際は、必ず従業員の希望をきき、可能な限り希望に沿えるようにしなくてはなりません。
なお、従業員がすでに5日分の有給休暇を取得している場合は、残りの日数について企業側から時季を指定して休ませることはできません。
5-3. 計画年休
計画年休とは、企業側が全従業員に対し、同時に有給休暇を取得する日を前もって決めてしまう方法です。お盆や年末年始、閑散期などに有給休暇を取得させる日を設け、全従業員を一斉に休ませる方法です。
なお、計画年休で有給休暇を取得させる場合には、労使協定の締結が必要になります。
6. 年次有給休暇を取得するうえでの注意点
タイトルの本題です。ここまでは有給休暇の付与や取得に関するルールを解説してきましたが、この他にも有給休暇を取得する際のルールや注意しておきたいことがあります。一つずつ確認していきましょう。
6-1. 原則は従業員の請求通りに取得出来るが、時季変更権はある
原則、企業は従業員からの有給休暇取得の請求を拒否することはできず、従業員が希望している日時に有給休暇を取得させなければなりません。また、労働基準法では、有給休暇を取得するための理由についても特に制限をしていないため、有給休暇取得の理由によって請求を拒否することもできません。
ただし、企業の正常な運営に支障をきたす場合には「時季変更権」を行使することが認められています。
時季変更権とは、簡単にいうと「有給休暇を取得するのは構わないが、希望の日程で休まれると会社の業務が立ち行かないため、休む日を変えてほしい」という要請です。
「事業の正常な運営を妨げる場合」と判断される要素は以下となります。
- 事業所の規模や業務内容
- 有給休暇を申請した従業員の担当している職務内容や職務の性質
- 職務の繁閑
- 代替要員確保の配置の難易、同時季に有給休暇を指定した員数
業務内容によってはその人しか出来ない・知らない事がある場合、また、繁忙期で1人でも休まれるとシフトが回らない、部署の全員が同じ日に休まれると会社に誰もいない。その様な時は、企業は時期変更権を行使することが認められるので、希望通りの日にちに有給休暇を取得できない場合があります。
6-2. 有給休暇の期限は2年で、1年繰り越しできる
年次有給休暇の時効は、最大2年間です。そのため、前年度に与えられた有給休暇を使い切れなかった場合、余った有給休暇の日数を翌年に繰り越せます。
ただし、2年目に有給休暇を消化する際、前年度から引き継いだ有給を使うのか、それとも新しく付与された有給休暇を使うのかは就業規則や会社との話し合い次第です。
就業規則で詳しい内容が決まっていない場合は、上司や管理職と相談して、どちらから消化するかを決めましょう。
6-3. 基準日を変更する場合は必ず前倒し付与する
企業の中には、有給休暇の管理を簡略化するため、入社日にかかわらず基準日を統一している企業もあります。
基準日の変更自体は問題ありませんが、変更する際は必ず本来の基準日よりも前倒して有給休暇を付与しなくてはなりません。
例えば、2021年4月1日に入社した従業員へ2021年10月1日に1回目の付与を行った後、次回の付与から基準日をそろえる場合は、本来2回目を付与する基準日である2022年10月1日よりも前に有給休暇を付与しなくてはなりません。
6-4. 有給休暇が消化できなかった時の買取は原則不可
従業員が消化しきれなかった有給休暇を企業側が買い取ることは原則できません。年次有給休暇は従業員の心身のリフレッシュを目的としているため、買取ではなくしっかりと有給休暇を所得し休ませることが本来の意味に沿っているためです。
ただし例外として、法律で定められている有給休暇より多く有給が付与されている場合、「法定の日数を超えた部分の有給休暇」を企業側が買い取ることは可能です。
7. 有給休暇を取得させなかった時の企業への罰則
もし、年10日以上の有給休暇を付与されている従業員が年5日以上の有給を取得できなかった場合、労働基準法違反として、企業側が30万円以下の罰金刑の対象となります。
また、従業員が請求する時季に有給休暇を取得させなかった場合も、労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金をかされる可能性があります。
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