内観療法のすすめ【心療内科医がやり方と危険性をわかりやすく解説】

Naikan therapy セルフケア

多くの人たちは、日常の生活で忙しくしているため、自分自身を見つめ直す時間をほとんど持っていません。
また、さまざまな悩みや問題を抱えている時には、そのことを繰り返し考えてしまって、自分の人生を振り返る時間を持つことも少ないと思います。
さまざまな悩みや問題の要因には人間関係が大きく関わっていることがあります。
その時には、今まで周りの人たちとどのように関わり、どれだけささえられてきたかを思い出すと、もっと広い視野でこれらの悩みや問題をみることができるようになります。
つまり、周囲の人たちを通して、自分の過去から現在までを振り返り、今まで自分がどういう人間であったのかということを見つめ直すということが大切になってきます。

しかし、私たちが過去を振り返ると、自分が興味を持ったことや楽しい思い出だけを思い出したり、逆に嫌なことや悲しい思い出だけを思い出したりすることが多くあります。
それだけでは、「あの時はよかった」とか「昔の父の言動は許せない」など過去のことを引きずったまま生きていくことになります。
私たちは人の嫌な部分をみてしまうと、それから後は、その人と会ったり、思い出すたびに、その人のことを「嫌な人」と決めつけてしまいがちになります。
嫌な部分しかみえていないとその人に親切にしてもらったことを忘れてしまいがちになります。
また、親しい間柄であれば、自分の期待通りに言ってくれなかったり、してくれなかったりするとムッとしたり、不満に思ったりすることも多いと思います。

このような場合には、自分の視点ではなくて、相手の立場や視点から見る方が、自分のことを冷静に客観的にみることができます。
このように自分の人生を過去から現在まで他人の視点から振り返ってみる作業が「内観」になります。
そこで、今回は「内観」や「内観療法」の実際のやり方や危険性についてわかりやすく解説します。

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内観、内観療法とは?

内観とは、内観三項目(お世話になったこと、お返ししたこと、迷惑をかけたこと)を思い出すことで、これまでの「わがままな生き方」を反省し、「愛されて生きてきた事実」に気づき、人に対する安心感や信頼感を実体験することで、人間的に成長することができます。

内観は、1941年頃に吉本伊信が修行法のひとつであった自己反省法を改良し、宗教性を取り除いて、万人向けのものとしたものが基礎になったといわれています。
その後、1968年に内観三項目である「お世話になったこと、お返ししたこと、迷惑をかけたこと」が確立されました。

内観は、自分の一生を回想し、自己を分析していく作業であると同時に、対人関係を洞察するものでもあります。
内観を通して、ものの見方や考え方が変化した場合には、それを実生活の中で行動して実践することやそれによって良好な人間関係が保たれることを経験することが重要です。
今までの自分の考えや行動などを深くかえりみることによって過去を見つめ直すだけでなく、今現在の自分の置かれている状況や環境に合うように自分を変えていく能力が備わってきます。
そのため、内観を続けている人は、その後の人間関係を良好に保っていくことができるようになります。

この「内観」を治療に取り入れたものが「内観療法」になります。

内観の種類

内観には大きく分けて集中内観と分散内観(日常内観)があります。

集中内観について

集中内観では、集中して内観を行える施設や病院で、1週間程度の日程で朝から就寝するまで内観を行います。
母や父など特定の対象人物に対して、幼児期や小学生の頃など特定の年代の一区分を1-2時間かけて、「お世話になったこと」、「お返ししたこと」、「迷惑をかけたこと」を内観し、その度ごとに面接者の面接を受けます。
内観する人はその時間に内観した内容を話し、面接者はその内容に耳を傾けます。
内観する人は、内観期間中はトイレ、洗面、入浴以外は内観している場所を離れないようにします。
テレビ、雑誌、新聞、音楽なども禁止され、行動の制限が行われます。
また、面接者以外との会話や家族との連絡は、緊急時以外は禁止するという対人関係の制限も行われます。

分散内観(日常内観)について

分散内観は、日常生活の中で毎日30-60分間程度、「お世話になったこと」、「お返ししたこと」、「迷惑をかけたこと」を内観して自己分析を行います。

その他の内観について

このほか、自分の体について内観する身体内観や反省する課題を「お世話になったこと」、「お返ししたこと」、「迷惑をかけたこと」の内観三項目以外に嘘や盗みについて、病気に対する自分、学業に対する自分、仕事や家事・育児に対する自分、酒による失敗と迷惑、薬物に対する自分、体形と食事に対する自分、恋愛について、結婚について、人生について、死についてなどの自分の考えや行動などを深くかえりみる課題を設定した内観があります。

内観のメリット(効果)

内観三項目の「お世話になったこと」を内観することにより、家族や今までに関わってきた人たちから愛されてきたことや恩恵を受けてきたことを思い出し、周囲の人たちに対して感謝の気持ちを持つようになることが多くみられます。
また、「お返ししたこと」を内観することにより、自分がほとんどお返ししていないことに気づき、今まで自己中心的であった態度を想起することが多くあります。
さらに、「迷惑をかけたこと」を内観することにより、自分が迷惑をかけたことの多さに気づき、反省とともに謝罪の気持ちが多く出てきます。

罪悪感とともに感謝の気持ちが出現した場合には、その後の対人関係や行動が変化し、職場や学校でうまくやっていけるようになることが少なくありません。
つまり、内観によって対人関係における今までの自分の態度や行動を客観的に見つめ直す作業を通して自分の生き方や考え方を改め直し、新しい対人関係を築くことが可能となります。

内観と一緒に認知療法を行ったり、自律訓練法で心身をリラックスさせた状態で内観してみるのもいいと思います。

内観のデメリット(危険性)

内観を行うにあたって、持病を持っている人は主治医に相談して下さい。
特に精神疾患の症状が重度の場合には、症状が悪化する恐れがありますので、一人では行わないようにしてください。
また、実際に内観療法を行っている時に、不快な感じが出てくるようであれば、すぐに中止して医師と相談して下さい。

内観のやり方(方法)

集中内観のやり方(方法)

集中内観は、内観を集中して行える施設において約7日間行います。集中内観期間中は注意集中のため、面接者以外の人との会話や家族との連絡は禁止されます。

内観三項目(お世話になったこと、お返ししたこと、迷惑をかけたこと)を対象とする人物(母親や父親など)ごとに年代を区切って内観します。
対象人物は無条件の愛を受けた相手から、年代はその無条件の愛を受けた時期から内観を始める方が取り組みやすいと考えられています。
このため、内観の対象には母親、父親から行い、年代は乳幼児期より現在へと経時的に順を追って内観していきます。

内観した内容は、記録内観用紙に記録します。
書き方は、「日付」「誰に対しての自分を調べるのか、いつの期間を調べるのか(例:『父親に対する、8~14歳』)」を書いた上で、「1.お世話になったこと、2.お返ししたこと、3.ご迷惑をおかけしたこと」を書きます。
何かを思い出して、すぐに書いてしまうと、そこで記憶が途切れてしまう可能性があるため、すぐに書かずに、まずはじっくりと思い出すようにします。

日付内観3項目(お世話になったこと、お返ししたこと、ご迷惑をおかけしたこと)について、
それぞれに分けて体験された具体的事実をお書きください。
母に対する
0~7歳
母に対する
8~14歳
母に対する
15~21歳
記録内観用紙の例

内観は、行動の制限や対人接触の制限があり、孤独でさみしいと感じることもあり、本人にとっては快適なものでありません。
また、最初の2~3日はあまり内観ができないことが多いのですが、その後内観がうまくできるようになってきます。
最初のうちは自己紹介、自慢話、他人紹介といった回想内容になってしまうことがあります。

「親孝行ができればよかったが、できずに迷惑をかけました」といった抽象的な話や仮定の話ではなく、具体的な事実を内観することが大切です。
また、当時のことを詳細にイメージできるように内観していきます。
そうすることによって、過去のことを現在のこととして再体験することができます。

お世話になったことについて

「お世話になったこと」を思い出す時に、私たちがよく考えてしまうのは、「してもらわなかったこと」を思い出すことが多いかもしれません。
学校から帰ってきた時にお母さんが家にいてくれなかったこと、お母さんが仕事をしていて手作りの晩ごはんを食べられなかったこと、お父さんが約束をしていたのに遊園地に連れて行ってくれなかったなど、自分が期待していたようにしてもらえなかったことばかりを思い出して、自分がしてもらったことに気がついていないことが多くあります。

内観では、自分が期待していたことを相手にしてもらえなかったことを思い出すのでなく、実際に起こった事実を思い出すようにします。
「お母さんに対してお世話になったことは、特にありませんでした」と言われることも多いのですが、内観は特別のことを思い出すのではありません。
風邪をひいて熱を出した時に病院に連れて行ってもらったというようなことは、お世話になったこととして思い出すのですが、朝起こしてもらったとかご飯を作ってもらったとか、洗濯をしてもらったというのは当たり前すぎてお世話になったこととして思い出している人はほとんどいません。
もちろんミルクを与えられて育ててもらったり、おしめを換えてもらったりしていることを挙げる人も多くありません。
お母さんの立場に立って、物事を考えることで過去の事実を客観的に見ることができます。
当たり前のように食べて自分がここまで生きてこられたという事実に気づくことが大切です。
ほかにも両親が自分のためにやってくれたことを数えるときりがないことに気づくと思います。
内観することによって、自分がどのようにして生かされてきたかということがわかります。

お返ししたことについて

お返ししたこととして、運動会で一等賞になって喜ばせたとか、志望校に合格して喜ばせたといったことをあげる人がいますが、これらはお返ししたことではなく、自分のことを喜んでくれただけで、お返ししたこととは言えないのではないでしょうか?

意外とお返ししたことが少なかったり、ほとんどないことに気づくことが多いと思います。

迷惑をかけたことについて

多くの人たちは「迷惑をかけられたこと」はしっかりと覚えています。
自分が迷惑をかけられたと感じていたり、自分が傷ついたという記憶はなかなか忘れませんが、自分が迷惑をかけたことは、なかなか覚えていないものです。
迷惑をかけられたことに対して長年恨みを抱いていて、現在の状況を他人のせいにしたりする場合もあります。
そのため、内観の対象者に対して嫌な思い出しか思い出せない場合には、迷惑をかけたことを思い出せないことがあります。
なかには恨みごとばかり思い出して、迷惑をかけたことを思い出すことが困難な場合も出てきます。
こうした場合には、自分が迷惑をかけたことをわずかでも思い出すことによって、愛されてきたことを少しずつ実感することができることを心に留めておきましょう。
内観は、自分の幸せに少しずつ気づいていく作業になります。

迷惑をかけたことを思い出すことができるようになると、罪悪感が出てきます。
その後は次第に、他人に対する感謝の気持ちが出現し、謙虚さや穏やかさを持てるようになってきます。

分散内観のやり方(方法)

分散内観は、一日30-60分間程度、内観三項目を対象人物ごとに年代を区切って行う内観です。
実際に内観記録用紙に内観したものを記録してみましょう。
今まで気づかなかったことに気づいたり、いろんな視点を持てたりして、新しい自分発見ができると思います。
寝る前に、その日に出会った人やその日の出来事を振り返り、内観してみるのもいいと思います。

内観することの意味

内観することで、自分自身と向き合い、自己を客観的にみることができるようになります。
これまでの生き方を見つめ直し、今後の人生をどう生きていくかを考える時間を持つことが重要です。
また、内観を通して今の状況や周囲に起こる出来事の意味を理解し、受け入れることができるようになることが大切です。
みなさんのお役に立てればうれしいです。

[参考文献]

  1. 川原隆造:内観療法.新興医学出版社, 1996
  2. 竹元隆洋:心身医学と内観療法. 心身医 43: 333-340, 2003
  3. 長山恵一、清水康弘:内観法.日本評論社, 2006
  4. 柳田鶴声:内観実践論.いなほ書房,1995
  5. 三木善彦:内観療法入門.創元社,1976
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