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トラウマ絵本『おっとあぶない』についての記憶

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幼少の頃に読んだ本に今でも影響されている、なんてケースは少なくないと思う。

 

私の場合、小さい頃に図書館で見つけた『サンドリヨン』と『シンデレラ』と題された絵本に衝撃を受けた記憶がある。この頃の私にとって、シンデレラと言えばディズニーアニメのシンデレラだった。いじわるな継母と義姉に虐げられていたシンデレラが、魔女の魔法によって綺麗なドレスを身にまとい、舞踏会で王子様と出会ったりガラスの靴を落としたりするストーリーですな。

その日、私が見つけた絵本『サンドリヨン』はタイトルこそシンデレラではなかったが、ストーリーは私が知っているシンデレラと同じだった。なのにどうしてタイトルはシンデレラではないの!?と混乱した記憶がある。

さらに混乱させられたのは同日見つけた絵本『シンデレラ』である。この本では魔法使いのおばあさんが登場しないし、シンデレラが履く靴もガラス製ではない。タイトルはシンデレラなのに、私の知っているシンデレラではない。『シンデレラ』なのにシンデレラじゃない。むしろ『サンドリヨン』の方がシンデレラしている。

 

今になってみると、両者とも同じ説話をもとにしたもので、前者はペローによるもの、後者はグリム兄弟によるもの。そして、私がシンデレラの王道だと思っていたディズニー版シンデレラはペロー版をもとにしていたものだと理解できたわけだが、がきんちょの私にそんなことがわかるわけもなく。ひたすら「!?!?!?」といった感じで混乱していたものだ。

 

数年前、『シンデレラの謎』という本に出会った。この書籍によれば、シンデレラはヨーロッパ発祥の物語ではないという。現在確認されているシンデレラ譚は古代エジプトのものであり、ここからヨーロッパルートとアジアルートに分岐して伝播していったとのこと。シンデレラ譚が土地から土地へと伝わっていく様子に読みながら興奮した覚えがある。あの頃、『サンドリヨン』と『シンデレラ』という二冊の絵本に混乱した記憶があるだけに、長年の疑問が解消した快感といったらなかった。

 

こんな感じで、あの頃に読んだ絵本が今でも自分の中に残っており、思った以上に自分に影響を与えていることもあるのだと思う。

さて、前置きが長くなった。

 

 

 

今でも忘れることのできない絵本の話である。マンロー・リーフ『おっとあぶない』についてだ。

 

この本は、気がついたら我が家の本棚に収まっていた。親がよその家からいらなくなった本をもらったりすることがあったので、この本もそういった経緯でうちに来たのだろう。『おっとあぶない』の隣には、同じ作者による『けんこうだいいち』と『みてるよ みてる』もあった。

 

私が最初に手にしたのは『けんこうだいいち』だ。子供向け健康本といった感じか。Amazonの商品ページの紹介は以下の通り。

子どもの生活の中で、健康でいるためにはどうすればいいか、気をつけることなど、健康の大切さをユーモラスに教えてくれるおとなもこどももみんなで楽しめる一冊です。

 

引用元:けんこうだいいち | マンロー・リーフ, わたなべ しげお |本 | 通販 | Amazon

小さい子が健康について楽しみながら学べる本だったようで、あの頃の私も楽しんで読んだようである。

 

『けんこうだいいち』を楽しんだ私は、もっと同じテイストの作品を読みたくなったのだろう。次に『おっとあぶない』に手を出した。内容は以下の通りである。

子どもたちのまわりには危険がいっぱい。
「危ないからダメ!」と叱っても、子どもたちは聞きません。
この本には、お風呂ですべって怪我をする「ふろばまぬけ」、何でもかんでも食べてしまう「くいしんぼうまぬけ」、右と左を見ずに道路に出て行く「ぼんやりまぬけ」、ビニール袋を頭にかぶる「かぶりまぬけ」などなど、悪いお手本となる、たくさんの「まぬけ」たちが登場!
ちょっと怖いけど、「危ないことをする子は、こんなことになるよ」と、ユーモラスな中にも子ども自身が実感できる内容。
ママたちのお説教より、この本を読むほうが効果大に違いありません!

 

引用元:おっとあぶない | Leaf,Munro, リーフ,マンロー, しげお, わたなべ |本 | 通販 | Amazon

何しろ昔のことなので記憶も曖昧だが、『けんこうだいいち』は「○○したら健康にいいよ。だから、運動しようね」といった風に、子供に寄り添いながら躾してくれるような内容だった。そんなノリを期待していた私だったが、『おっとあぶない』のページをめくるごとに真顔になっていった。

 

上記の引用文の通り『おっとあぶない』は子供に対し、日常に潜む危険を教えることをテーマとしている。シンプルな線で描かれたほんわかしたキャラクターが、その雰囲気に似つかわしくない危険行為に及んでいる。

何しろ私は『おっとあぶない』を一度しか読んでいないので、おぼろげな記憶しかないのだが、例えば濡れた手でコンセントを触ろうとしたり、ビニール袋を頭にかぶろうとしたりといったケースが紹介されていた覚えがある。子供がやりがちな、命に関わるような危険がこれでもかと描写されている。ここで紹介されている事例がとにかく怖い。子供ながら「これは即死確定」というのが理解できるレベルに危ない事例ばかりなのだ。

しかも、文章も怖い。例えば、工事により道に大穴が空いている場所で、一人の子供がよそ見しながら歩いているイラストがある。この横に添えられた文章が「皆さん、この子にさよならを言いましょう。この子はもうすぐ穴に落ちて死んでしまいます。」みたいなノリのものなのだ。どの事例に対しても、「ほら、この子はおまぬけさんです。おまぬけなことをしているから、もうすぐ死にますよ。」といった冷徹なノリ。『けんこうだいいち』が子供に寄り添うようなテイストだっただけに、私が受けたショックは倍増した。え、こういうとき「待って!その先に穴があるよ!そこで立ち止まって!」って呼びかけないんだ…。そんなことを思った記憶がある。

 

ほんわかとした絵柄でエグい事例。突き放した文章。この直後に死ぬことが確定した子供たち。すべての要素が絡み合い、私を心胆寒からしめたのだった。この後、私が『おっとあぶない』を読むことはなかった。表紙を見ることすら恐ろしかった。

なのに後日、友だちが我が家に遊びに来たときに「この本面白いよ」と薦めたのは何故だったのだろうか。私の部屋で『おっとあぶない』を読む友だちを尻目に、リビングでテレビを楽しむ幼き日の私。やがてリビングにやって来た友だちが青ざめた顔で「怖かった…」と言うと、「ね!?怖かったやろ!」とはしゃいだあの頃の私。悪魔か。こんな悪い子にはお年玉はあげません。

 

 

そんなこんなで、少なくとも幼い私と友だちという二人の子供を恐怖させた『おっとあぶない』。怖くて再度読めなかったにもかかわらず、今でも忘れられない一冊となってしまった。

先日、『モルカーDS』の第3話を観た。そこでは過去シリーズで繰り広げられた危険行為が取り上げられていたのだが、ふと私の脳内に「おっとあぶない」というワードが浮かんできた。

 

やだ、もうおばさんになったのに。折に触れて甦ってくる『おっとあぶない』の記憶よ。

どれだけの年月が経とうが、『おっとあぶない』は私を解放してくれそうにない。ある意味、特別な一冊になってしまったなぁと思う。

 

 

 

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